21日、尚美学園の主催による“第4回情報カンファランス”が開催された。今回はアルスエレクトロニカ・センターと提携し、“INFOWAR”をテーマとして基調講演とパネルディスカッションが行なわれた。本稿では、基調講演1と講演2の内容をお伝えする。
開会の挨拶を行なう尚美学園学園長 理事長赤松憲樹氏 |
InfoWarをInfoPeaceへと変えていけるのだろうか?
基調講演1は、アルスエレクトロニカ・センターでマネージングディレクターを勤めるゲルフリート・シュトッカー氏が登場。アルスエレクトロニカの活動を紹介することで、インスタレーションなどを通じてインフォウォーについて分かり易く教えてくれた。まず、アルスエレクトロニカの歴史を回顧。「情報技術と戦争が変化することで、アートフェスティバルであるアルスレクトロニカでもネットワークアートを扱うようになった」と語り、関連するインスタレーションなどの例を挙げて説明した。
このなかで、ビジネスの変化によりアートも変化したことを指摘。「アーティストがプロセスに関心を寄せているのは、Originを知ることが重要であるからで、現在使われている技術は、VRのように軍事技術に端を発するものである」と述べた。
インフォウォーを知ることができる具体例として氏が挙げた事例は、戦争のシナリオを模擬するシミュレーションゲームのようなものから、さまざまなインスタレーション、アート作品まで多岐に渡った。
“バイト”は、マウスに餌を与える条件反射で、ケーブルをかじらせるもの。マウスをネットワークのケーブルをかじる“戦士”に育てる。我々の依存するインフラが、いかに脆弱であるかを教えてくれる。
氏は「ネットワークは誰もが使える、それゆえに脆弱である」ということを強調した。具体例として挙げられたものは、アンテナで情報をキャッチし、音楽にするコンサート。我々が、いかに情報の流れの中に浸っているか、を示す試みだ。またビデオカメラで人を監視する“ボーダーパトロール”は、最後には捉えた人に向けて、マシンガンの音を発する。このような技術を軍事目的に利用することが容易であると分かる事例の1つである。
「メディアはジャーナリストの武器であり、自分のメディアを作り、発信することが可能である」という現状分析では、“アーティストによる指摘”という言葉によって、日本の状況との差を感じさせられた。
氏は、「InfoWarをInfoPeaceへと変えていくことが重要」という言葉で講演を締めくくった。
昨年度インフォウォーを取り挙げたアルスエレクトロニカ・センターから招かれたシュトッカー氏 |
戦争は日常で起こりうる――すべてが包含された危機
続いて基調講演2として、軍事評論家も江畑謙介氏による講演が行なわれた。氏はインフォメーション・ウォーフェア(IW)における(1)指揮統制戦、(2)電子戦、(3)心理戦、(4)ハッカー戦、(5)諜報基盤戦、(6)経済情報戦、(7)サイバー戦という分類を紹介。イラク軍の通信系を破壊した湾岸戦争、コンピューターに偽データを送り込む攻撃的インフォメーション・ウォーフェアを実証したユーゴ空爆について解説を加えた。
ハッカー戦では、攻撃がイタズラなのか意図されたものなのか、個人によるものか団体によるものか、把握することが困難であると分析。証券取引所や、交通、航空管制システムへの攻撃を例に挙げ、「戦争は日常で起こりうる」と述べた。また、“攻撃対象となるインフラが相互依存している”という指摘も行なった。
ポストモダンについては“ヒューマンスペース”と“サイバースペース”が同等の位置を占めるものとし、「体の半分はサイバースペースにある」状況では、インフォメーション・ウォーフェアは「国境、時間、空間、国家対個人、戦場(前線)対後方といった境界があいまい」であり、「少ない経費と設備で実施できる」、「民間施設に対する攻撃が軍事施設と同様に行なわれる」と述べた。そして便利であるが脆弱な時代において、危機は「すべてが包含された危機である」と指摘した。
ネットの管理と規制問題では、価値観や規律の普遍化には、サイバースペースにおける“宗教”のようなものが必要ではないか、と発言。既存メディアの役割と責任についても、サイバースペースにおけるメディアの信頼という問題を提起して講演を終えた。
軍事評論家の立場からインフォウォーを解説する江畑謙介氏 |
- 情報カンファランス“INFOWAR” アルスエレクトロニカセンター