毎年、SIGGRAPHでもっとも人気の高いイベントといえば、優秀なCGを集めた上映会のエレクトロニックシアター(Electronic
Theater)にトドメをさす。世界中から集まる600以上の作品から30作弱だけが選ばれる同シアターは、まさしく世界最高峰のCGを目の当たりにするチャンスの場。最近はここに向けて自信作をぶつけてくる実力派CGスタジオも多く、会期中に計4回開催されるシアターは、常に満員の観客であふれかえる。
会場となったのは、SIGGRAPH会場のLAコンベンションセンターからクルマで5分ほどの距離にあるAL
MALAIKAH AUDITORIUM。本来はアジア系の寺院であるこの会場は、約3000席を擁する一大イベントスペースでもある。7時の開演を前に、同寺院には観客を満載した観光バスが続々と到着し、一時は入場を待つ列が100メートルほどにも伸びる盛況振りを見せていた。
会場前の道路には、大型バスが次々と横付けされた |
ILM作品の大人気に、同スタジオの実力を見る
今年のエレクトロニックシアターで上映された作品は全部で27本。同シアターの観衆はいずれも反応が鋭く、これといった作品にはやんやの喝采をが送るが、ピンとこない作品にはパラパラと拍手が送られるだけ。どちらかと言うと、ストーリー性に凝ったものよりも、わかりやすいアピールポイントを持つ作品が受ける傾向にあるようだ。映画関連では『スターウォーズ』を始め、アニメ映画の『ターザン』、動物ものの『スチュアート・リトル』など9作が上映された。このなかで人気が高かったのは、古代エジプトの王子が復活するサスペンス映画の『マミー』と、ウィル・スミス主演のSF西部劇である『ワイルド・ワイルド・ウェスト』の2本。
ねずみのスチュアートが活躍する『スチュアート・リトル』、ソニーピクチャーズから12月に公開予定 |
特にマミーでは王子の顔がミイラにモーフィングするシーンで喝采が沸いていた。ワイルド・ワイルド・ウェストでは、ワイアーで空中に飛ばされるスタントシーンをCGに落とし込んでいくメイキングのシーンが人気だった。この2本はいずれもILMの作品で、同スタジオの実力を再確認させられた感がある。
顔の表情を作りこんだ作品が人気
(おそらく)最も喝采を呼んでいた作品は、ジョーカー姿の女性の顔がアップで映るだけという『The Jester』。一見、ただの実写にも見えかねない映像だが、顔の部分は表情をモーションキャプチャーでCGに落とし込んだ代物。それをフルCGで描いた帽子と、少しの不自然さもなく合成している映像は、CGのプロたちには脅威にすら感じられるほどの出来映えだったようだ。『The Jester』、顔と帽子の継ぎ目にはまったく不自然さが感じられない |
機械の質感がリアリスティックだったのは、アイスランドの人気歌手Bjorkのビデオクリップ『All
Is Full Of Love』。全編に渡ってアンドロイドが歌い続ける同作品では、実写のアンドロイド映像を利用し、顔や首など動く部分をCGで描き合成している。その顔の動きは、CGだと分かっていても本当にアンドロイドが歌っているかと錯覚するほどに完璧な合成で、CGらしさが感じられない点が受けていたようだ。
『All Is Full Of Love』、アンドロイドだけでなく、まわりの工作機械にもCGが使われている |
極東の国からスタークリエーターが現われた!
今回のシアターには、日本からの作品が4作入選した。しかし、TBSの『Twinkle, Twinkle, Shooting Star...』と、アニメ『ハッスルとき玉くん』の2本については、日本人の感性が理解されなかったためか、まばらな拍手が送られたのみ。例年、良作を送り出すコナミは、プレイステーションの『Silent Hill』を出品。ゲーム好きが多そうな同シアターで、確実な人気を得ていた。そして、なんといっても特筆されるのは、若手クリエーターの原島朋幸氏が制作した『The Duck Father』が入選を果たしたことだ。ストーリーは、子供たちを蹴散らしていったウサギを巨大なお父さんあひるがとっちめるというもの。この単純明快なストーリーと小気味のいいテンポが観客の感性にズッポリとマッチしたようで、間違いなく全作品中でベスト5に入る大喝采を浴びていた。
原島朋幸氏の『The Duck Father』、基本的な3Dモデルを使い、小気味いいストーリーに仕上げている |
原島氏は、デジタルクリエイター養成学校のデジタルハリウッド出身。展示会には興味がないと語っていた原島氏だが、日本のテレビ局が密着取材を敢行し、テレビカメラとともに会場内を歩き回っていた姿が印象的だった。
原島朋幸氏、一昨年のエレクトロニックシアターに大いに刺激されたという |
エレクトリックシアターのトリを飾ったのは、ニューヨークの実力スタジオであるBlue
Sky Studioが制作した『Bunny』。“虫を描かせたら天下一品”といわれる同スタジオだけあって、Bunnyでは電灯に引き寄せられる蛾がリアルに描かれている。また、主人公のおばあさんウサギの表面は、まるで実写のようなフサフサとした毛で覆われている。この毛の描画には、細かな円錐形を1フレームあたり1万個以上も使用しているという。
『Bunny』、照明の表現には熱伝導シミュレーションを応用している |
今回のエレクトリックシアターは、CGのレベルの高さはもちろん、ストーリー的にもキチンと練られた作品が多く、技術一辺倒だった状況から、ストーリーまでを含めたトータルな表現を重視する方向に発展している現状を反映していたようだ。今年からは人気の作品集がDVD-ROMでも販売されるようになったので(60ドル)、SIGGRAPHに行く機会がないという人も、参加者に頼んで作品集をゲットしてみてはいかがだろうか?