また動き始めた国民総背番号制
評判が最悪の定額給付金だが、思わぬプラス面があった。自民党は先週、「ICカードシステムに関するプロジェクトチーム」の第1回会合を開き、社会保障番号・納税者番号導入の検討を始めた。これは定額給付金の支給方法を検討するとき、所得の把握に手間がかかるため、所得制限を断念した経緯から、税の還付や社会保障給付などを円滑に行なうために国民総背番号制が必要だという意見が出てきたからだ。
こうした制度については、政府の社会保障国民会議が昨年11月、社会保障番号の導入を進めるべきだとする最終報告をまとめ、税制改正関連法案の付則にも「納税者番号制度の導入の準備を含め、納税者の利便の向上と課税の適正化を図る」と明記された。自民党のプロジェクトチームも、次期衆院選までに報告書をまとめてマニフェストに盛り込む方針だという。
背番号が議論されるのは、今度が初めてではない。1974年に年金のオンライン化が決まったときも、年金や健康保険などの番号を統一すべきだという議論があったが、自治労国費協議会(社会保険庁の労働組合)が「国民総背番号には反対だ」と主張して潰した。その後、基礎年金番号はできたが、データをちゃんと継承しなかったため、5000万件以上の年金が行方不明になってしまったのだ。
他方、税金の「名寄せ」を納税者番号で行なおうとする試みも昔からあり、1980年の税制改正で「グリーンカード」(少額貯蓄等利用者カード)の導入が決まった。しかし所得の把握を恐れる金丸 信などの政治家が共産党と一緒になって、法律が成立してから「プライバシーの侵害」を理由に反対運動を起こし、グリーンカードは凍結されてしまった。
さらに1999年に住民基本台帳法が改正され、住基ネットの設置が決まったときも、公明党や野党が反対したため、住基カードを納税者番号に使うことは禁じられ、2003年に成立した個人情報保護法によって個人データの利用が厳しく制限されることになった。このときも日弁連が「自己情報コントロール権を情報主権として確立するための宣言」を出し、櫻井よしこ氏などの「プライバシー原理主義者」が「プライバシーを守れ」の大合唱を繰り広げ、納税者番号は封印されてしまった。
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