人がウェブをまとうiPhone
では、iPhoneは、コンピューティング全体にどういう意味合いを持っているのか? この影響は、ケータイ業界だけでなく、ゲーム業界、パソコン業界にも大きな波及を見せ始めている。
「例えば、SEGAのスーパーモンキーボールというゲームは、iPhoneのApp Storeなら1000円弱で購入できますが、ニンテンドーDS版では5000円近くかかってしまいます。DSにはカートリッジが必要だしこれまでの流通コストがかかるからです。しかしプラットホームの競争力低下を危惧して、任天堂が動き、新たに登場したニンテンドーDSiにはダウンロード販売を導入して対応しました」(林氏)
App StoreはiPhoneの魅力の大きな所を占める。iPhoneはアプリを追加すれば、全く違う目的を持つ端末に変化する。さらに、ニンテンドーDSにはこれまで無料のゲームはなかったが、iPhoneには無料で遊べるアプリがApp Storeにたくさんあり、また情報サービスのアプリも利用できる。ゲーム業界のプラットホーム側が焦る一方で、ソフト開発は非常に活気付いていくかもしれない。
さらにインパクトがあるのが、IT業界だ、と林氏は指摘する。
「キーワードはWeb 2.0 in Your Pocketです。これまでWeb 2.0 はスゴイ、スゴイと言われてきたけれど、所詮、オフィスや書斎にある自分のパソコンの前まで行って初めて恩恵を受けられるもの。あるいは鞄からノートパソコンを取り出して、サスペンドから起きるのを待って、その後、イー・モバイルが接続完了するのを待って、ブラウザを起動して、ようやく恩恵を受けられるものだったのです」と、引き篭もって使用するものだったと言うのだ。
しかし、iPhoneの登場で、Web 2.0 は生活の中により入り込んでくるようになってきた。
「おそらく、ノートパソコンを開いている間に、あなたのガールフレンドは『そこの店員さんにもう聞いちゃったわよ』とあきれた顔をしていることでしょう。iPhoneがあれば、例えば旅行で九州に行ったときも、旅先に知り合いがいなければ、地元料理のお店を、すぐにGPSから検索できるし、地元料理を知っていれば、すぐにWikipediaを呼び出して、その料理の元祖の店を知ることもできます。友達と一緒にWikipediaを覗き込みながら、日常のちょっとした会話に深みを加えることができるのです。」(林氏)
今までのIT革命やWeb 2.0は技術的な側面で語られることが多かった。結果として人々を忙しくはしたけれど、情報面以外の生活を豊かにはしてこなかったかもしれない。しかしポケットに収まるWeb 2.0の登場によって、情報が人々の生活をより豊かにする局面に入れたのではないか。
そこには、Webを使いこなす人々の成長も伴っていたが、iPhoneというツールが、うまくその人の成長と呼応しているようであり「人がウェブをまとった」、そんなイメージだろうか。じゃあポケットになければダメだ、という感覚は大切だと思った。
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