「ポテンシャルがもの凄く高い個人サイトの管理人さんを追う」というコンセプトの記事は、現在に至るまでいくつも存在する(した)。何しろ、日本でインターネットの商用利用が始まったのは1994年。この連載がスタートした2007年6月の時点で、すでに13年が経過しているのだ。
10余年の月日は、ネットに流れる空気や取り巻く環境を大きく変えた。では、最初期におけるネットの雰囲気はどのようなものだったのだろうか? その答えは、個人サイト調査の先達に話を聞くのが一番だ。
今回取材したは金田善裕氏は、1994年からネットの世界を調査している作家/編集者だ。文章投稿系のコミュニティサイト「奇天烈」を主催しており、現在もネットの可能性を追求し続けている。金田氏は「1995年から1997年の間、インターネットはまさしく『クール』な存在だった」と語った。そして、ネット関連の連載にひと区切りつけた現在、自身のネット活用法について、ある極地に至ったことと明かしている。
奇天烈
日本にブログが輸入された最初期の2003年から運営されている、ブログ形式のコミュニティーサイト。何人もの常連ライター陣を抱え、各々が面白いと思った記事を投稿する場として盛り上がった。金田氏が書籍編集をする文章を求めて立ち上げた「奇天烈ノンフィクション賞」など、画期的な企画を行っている。
ちなみに金田氏は、2000年に「100万ヒットホームページを作った人々」(アスキー)、2002年に「個人ホームページのカリスマ」(講談社)、2005年に「ネット副業の達人」(ソフトバンク・クリエイティブ)を著している。
少なくとも2002年までは続いたクールな時代
── 現在は1日数万アクセスというサイトが結構ありますけど、1990年代からするとすごい数字ですよね。
金田 ちょっと前だと考えられないよね。SF評論で有名な大森望さんは最初期から日記を公開していたんだけど、1日300人のアクセスがあって、それがすごい数字と言われていたんだから。2000年に「100万ヒットホームページを作った人々」を出したときでも、(累計で)100万ヒットって言葉がインターネットの世界の流行語になったくらいだったんだよ。
── 1990年代からネットに触れていた人と話すと、「昔はもっと尖っていた」とよく聞きます。実際はどうでしたか?
金田 確かに、インターネットが叩き上げられる時代というのはあったよね。それで内容も体裁も無茶苦茶なホームページが普通にあった。でも、その頃から「今はみんな中坊だけど、やがて成長していくだろう」と言われていてね。それで今に続く、ある程度行儀がいい感じになっていったんじゃないかな。
── では、基本的な雰囲気はそれほど今と変わらない感じですか。
金田 いや、そんなことはないね。1994年に日本のインターネットが始まって、1995年くらいから個人サイトがたくさん出始めたんだよ。その頃は、インターネットはクールなもの、格好いいものっていう感覚があった。ストリートカルチャーとホームページを一体化させたような「JAPAN EDGE」というサイトがあったんだけど、あれが象徴的だね。
当時は企業サイトのできが悪くて、個人サイトのほうが格好よく、見ていて面白い時代だったんだよ。それが1997年までは続いた。サイトを運営する人たちも、一種のクールな自己表現ができる新しい媒体としてインターネットと接していたし、そういう流れだった。
── 確かに違いますね。今は満遍なく色々な情報がネットにありますけど、どちらかというとオタク系コンテンツが力を持っています。だから、格好いいとは真逆の印象を持っている人は珍しくありません。
金田 オタク系の流れというのは、特になかったと思うな。ただ、アキバは皆よく通ってたとは思うよ(笑)。
で、そのあとなんだけど、1998年からは企業サイトが急成長して、マスコミ内では個人サイトを隅に追いやるような風潮があったんだよ。だけど、根底は変わっていなかったと思う。ちょうどその頃、僕は個人サイトの管理人に取材する連載を雑誌で始めたんだけど、購買数が稼げる企画じゃないと言われていた。ところがやってみたら、その雑誌の読み物の中で一番人気が高くてね。やっぱり、そういう格好いい個人サイトや、個人の手触りの感じられるものを求める動きは続いていたんだよ。
── その流れはいつまで続いたんですか?
金田 2000年のITバブル絶頂期が終わったあとも続いていたね。「個人ホームページのカリスマ」を出した2002年にも、まだ。ただ、少しずつウェブサイトの体裁がスマートになっていったな。それから、アフィリエイトをやって稼いでいる人がポチポチ出始めた。そうやって、徐々に変わっていったんじゃないかなあ。
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