米マイクロソフトが米ヤフーの買収を断念したという。新聞の論調はマイクロソフト帝国の思惑がうまくいかず……と画一的なようだが、業界の見方はいろいろだ。
TOKYO MXで5月12日に放送される「東京ITニュース」でもこのテーマを取り上げる。
例えば、グーグルは今後エンタープライズ系(企業)のビジネスに注力していくと宣言している。時価総額でトヨタを超えたという報道もあるグーグルだが、売り上げは検索からしかあげていない。「Google Apps」でメールやオフィス相当品をウェブで用意したが、米国のメディアを見ているとユーザーは増えていても、マイクロソフトのユーザーを食うところにまでは行っていない状況のようだ。
一方、マイクロソフトも企業(特に中小企業)を取りにいきたくて、Office Liveを始めたが、もうひとつ伸びていない。米国では就労者の40%がスモールオフィスや個人ビジネスだと言われる。ヤフーは、メールアドレスをグーグルの2倍以上持っていて、中小企業ユーザーのメールアドレスはいまだにヤフーが圧倒的に多いといわれる。マイクロソフトが欲しいのは、実はヤフーのメールアドレス(Yahoo! ID)だという説がある。
ヤフーとしても「うちもまんざらではない」と自分の価値に気が付いてきた節がある。
シェアの優位性を生かして他社が有料で提供しているものを無料にしたり、買ってきたものでなんでもやってしまうという点では、グーグルとマイクロソフトはちょっと似ているのではないか? ケータイ向けプラットフォームの「Android」(アンドロイド)なんかも画期的なようで、日本のACCESSが提案したALPのコンセプト(OSからUI、通信モジュールまでセットで提供するもの)に似ている。要するに、どちらもアメリカの健全なIT企業というだけなのだ。
グーグルとマイクロソフトの違いは、マイクロソフトは後追いになっている。要するに、グーグルは、ボクシングでいえば試合のペースを握っているから強い。
個人的には、マイクロソフトはヤフーを買わなくて正解だったと思う。マイクロソフトがやるべきなは、どこかでグーグルの先手を取ることだ。かつて「コンピュータ帝国の興亡」の中で、ロバート・X・クリンジリーは、米国のIT企業をサーフィンにたとえた。波に乗れるかどうかが勝負で、それには運とセンスが必要なのだ。
これからの検索エンジンは、人工知能技術とフィルタリング技術の組み合わさったものになってくるのは確実である。例えば、「これは初心者向けのサイト」とか、「これは用語の定義についてのサイト」とか「これは楽しいけど役に立たないサイト」などと、検索エンジンが判断してくれる。
かつて、グーグルが、ページランクとキャッシュによってシェアを奪っていったように、そういうエンジンが3年後には出てくるかもしれない(事実、米国では「グーグルキラー」といわれる人工知能型の検索エンジンも出てきた)。
そういう危ういところからグーグルは抜けだしたいと考えている。マイクロソフトのビル・ゲイツもスティーブ・バルマーも、相手の弱点は何かをちゃんと見るべきだ。ユーザー本意の技術で先行されたら、グーグルはビビるはずである。日高レポート風にいうと、
- 今回の買収案件は業界ではいろんな見方がされている
- マイクロソフトはヤフーの中小企業メールアドレスが欲しいという説もある
- 検索の世界はまだ移ろいやすく、ネット企業は必死の戦いを続けている
──から注目なのだ。
P.S.
5月1日から5日間、モスクワに友人を訪ねてきた。以前このコーナーで「布団圧縮袋を売っているのは日本だけ」みたいなことを書いたら、韓国や米国から「こっちでも売っている」というメールをいただいた。実は、モスクワでも売っていた。
※東京ITニュースは、YouTube内の「TOKYO MXブランドチャンネル」(関連リンク)に毎週末アップされます。
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