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【インタビュー】ITの曲がり角~世界とニッポン

ITを使えば人を殺さなくても世界を“征服”できる

2008年04月10日 17時43分更新

文● アスキービジネス編集部、聞き手●遠藤 諭

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今のITなら「地球征服」さえ実現できる


――話題の起点としては、ITシステムをどうするべきか? という話だったわけですが、金融システムや社会がたとえ幼稚でも、頭のいい経営者なら周囲を振り切って、「うちの会社はこうやるんだ!」って主張をする人がでてきてもおかしくないと思うんですが。

亦賀:本来はそうあるべきだと思います。でも、現実は横並びですよね。自動車の分野で世界一になろうとしてるトヨタですら、ほとんどこうした話について語っているという印象がありません。昨年ですが、アメリカを中心とするトップエグゼグティブにITに何を期待するかという調査をしたんですが、「競争上の武器としてITを使いたい」という声が最も多かったんです。

――そういう考えを持っている日本の経営者もいないわけじゃないと思うんですけどね。

亦賀:いるとは思います。でも、それを自ら発信して、意識的にこだわっている人はまだまだごく少数派ですね。周囲から求められてないし、発信したとしても誰が評価してくれるかわからない状態ですから。ただ、ITを競争のための武器とするという議論はもっとしなければいけない。今のITを使えばとんでもないことができるわけですから。

 たとえば、Googleはサーバを100万台所有しているとガートナーでは見ています。日本の年間のサーバ出荷台数が60万台ですから、それより多いわけですよ。100万台のサーバといえば、現在のプロセッサのコアに換算すると400万個。将来は1000万くらいになります。

――途方もないスケール感ですよね。

亦賀:その規模感と構想力を忘れてはいけないんです。たとえば、中東のどこかのリーダが、「10兆円出すから、地球を征服するテクノロジーを作ってくれ」とアメリカの会社にオーダーしたとしたらどうでしょう?

――アメリカのコンサルタントならそれくらいの仕事は請けますね。国レベルの仕事を平気で請けますから。核兵器は買えないけど、サーバなら買えてしまうと。

亦賀:そのとおりです。豊富な資金を背景にテクノロジーを使って、ある意味で地球を「征服」しようと思えば不可能とはいいきれない時代なんです。それくらいテクノロジーは高度化したし、そういったことが起きる可能性が今もうあるわけです。

――インターネットの世界でも、技術的な議論は豊富ですが、政治的な議論は少ないですよね。誰も管理してない自由な世界ですから、悪用しようと思えば何でもできるのは事実です。Googleとamazonが合併して「Googlezon」になり、我々の生活すべてをおさえるという議論がありましたが、上段ではないのですよね。

亦賀:そういったことを表立ってやろうとすれば、潰されるのは眼に見えてます。でも、100年の計くらいで考えて、国家戦略としてジワジワと影響力を強めるくらいのことは、どこかが考えていたとしてもおかしくない。

 もはやサーバというのはただの箱ではありません。情報戦における、武器なんですよ。最先端のプロセッサの開発者というのは、本当の戦争の武器も開発できるくらいの人です。実際の兵器にしても、デジタル化され、ITそのものです。現在の戦争は、情報をITで処理していかに勝つか? ということになっています。それくらいの感覚でITに取り組んでいるところと、何も考えてないところでは勝ち負けが最初から見えてしまいます。

 さきほど、メインフレーム1台で地球上のトランザクションが処理できるという話をしましたが、プロセッサの進化を考えれば、チップひとつで地球上の全トランザクションをまかなえる時代が来るかもしれない。あくまで可能性の話ですが、インテルやIBMは性能値を上げていかないと生き残れませんから、決して絵空事ではありません。

――米ソ冷戦の危ない時代に、ボタン戦争とよばれて、いつ核戦争がおきて地球が滅びるかわからないといわれてたことがありました。でも、プロセッサの進化で同様のことができる時代が来るってことですよね?

亦賀:そのとおりです。別にプロセッサ1個でなくてもいい。100個ならどうか? 1000個なら数十年後には十分起こる可能性がある。単に性能が上がってハードウェアが安くなるというレベルだけで考えていてはダメなんです。こういうテクノロジーをいかに武器として使っていくかという発想こそが必要なんです。グローバルな競争に勝ちたい人の中には、勝てればなんでもいいと思っている人もいるでしょう。そういう発想がよいか悪いかは抜きにして、こうしたことが現実に起こる可能性を無視してはいけないと考えています。

――今勝つためにもっとも有効なのがITだから、ITに投資をするということですね。

亦賀:現実的・物理的に人を「征服」したり支配することは許されるはずがありません。一方、ビジネスITで、テクノロジーで、情報戦で勝とうとしてる企業がいる。これを止めるには、資本主義を止めるということになるかもしれない。しかし、現実それは無理です。イデオロギーの戦いというアプローチは前時代的になりつつあります。一方、富の獲得のために想像を超えた知恵を使おうとする人々が登場しはじめている。このことは忘れてはなりません。中国商工銀行の話のように、1億7000万人を3億人に、それをさらに10億人にして、といったときにどうトランザクションを捌くのかを粛々と考えているところがある。一方では、何もせず現状維持だけを考えているところがある。この差は大きいと思います。だから、発想を大胆に転換する必要がある。

――サン・マイクロシステムズの創立者のビル・ジョイがその著書の中で、コンピューターが発達してロボットみたいになって、人間が取って代わられる、というすごくSFチックな話をしていました。全くそのとおりにならないとしても、テクノロジーがそのぐらいのキャパシティーを持っているのは間違いないわけですよね。

亦賀:そのとおりです。いい悪いも含めて、議論というか、認識しないといけません。世界が、世の中が変わったという認識をまず持つべきなんです。そういう変化の中で、日本はどうすべきか? 日本の企業はどうすべきか? 真剣に考える必要があります。

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