友達とのコミュニケーションに使っていた「モバゲータウン」が、ある日突然、使えなくなる。今まで築いてきた「ケータイ文化」にブレーキがかかる──。
慶応大学のコンテンツ政策フォーラムは21日、「インターネット上の安全・安心に関する緊急フォーラム 未成年者向け携帯フィルタリングサービス原則化の是非を問う」と題したシンポジウムを開催した。
イベントでは、慶応大学デジタルメディアコンテンツ統合研究機構の教授である中村伊知哉氏をコーディネーターに、総務省やコンテンツプロバイダーなどさまざまな分野の7名がパネリストとして参加。論点の整理と行政、企業、学校、保護者はどうあるべきなのかという方向性を模索した。
フィルタリングの中身はケータイ事業者が決めている
この問題は、2007年12月10日、総務省が携帯電話事業者に対して、コンテンツフィルタリングの原則化を要請したことに端を発する(関連リンク)。
未成年者が使う携帯電話/PHSに対してフィルタリングを原則で適用することにより、違法/有害サイトにアクセスすることを防止して、インターネット関係の犯罪に巻き込まれる可能性を減らすというのが目的だ。
フィルタリングの方法には大きく分けて、携帯電話事業者の公式サイトにしかアクセスできない「ホワイトリスト」と、特定のカテゴリに属するサイトを有害か健全かに関わらず排除する「ブラックリスト」の2種類がある。
青少年向けのフィルタリングではホワイトリストを採用しており、この1月〜2月から未成年が新規契約した端末は、公式サイトにしかつながらない状況になる。既存ユーザーの場合も、2月頃から親権者に契約書が届き、そこで変更を申し出しない限り、6月頃からフィルターがオンにされる。なお、未成年がフィルタリングを解除するには、親権者の同意が必要だ。
一方で、このフィルタリングポリシーの導入によって、「割を食った」サービスも出てきた。
SNSとミニゲームで中高生の人気を集め、2007年12月末で865万もの登録IDを有する「モバゲータウン」や、「恋空」などのケータイ小説を生み出してきた「魔法のiらんど」といったコミュニティーサイトだ。
これらのサイトは、非公式サイト(勝手サイト)のためホワイトリスト方式でも、「コミュニケーション」のカテゴリーに分類されてしまうためブラックリストでもアクセス制限にひっかかる。
「ユーザーから問い合わせが数多く来ている」
シンポジウムでは、「モバゲータウン」を運営する(株)ディー・エヌ・エーの代表取締役社長、南場智子さんが現場の混乱を訴えた。
「今回の施策は、ユーザーや株主に取って非常にインパクトを持った。モバゲータウンを利用する800万人以上のうち、18歳未満のユーザー29%ほどいる。そのユーザーから『フィルタリングでアクセスできなくなるのか?』という問い合わせが数多く来ている。株価にも影響し、1週間で1500億円の時価総額が失われた」
南場さんは、大半の子供達が、犯罪とは関係ないところでコミュニケーションしているのに、フィルタリングで不正/犯罪サイトと一緒のカテゴリーに扱われることについても難色を示した。12月10日に発表した健全性維持の取り組み(関連リンク)も含め、企業としての自助努力を怠っているわけではないことにも触れている。
また、シンポジウムに参加していた「魔法のiらんど」運営側の一人は、自社サービスのユーザー状況を踏まえて、こう意見を投げかけた。
「今の中高生の中には、自分たちでホームページを運営して、小説を書いて発信し、ファンを集めてやっていくという高度な技量を持った子供もいる。そうした子供達の表現できる場が抑制されるということで、何年か後に規制が根深く残ってしまうのでは」
アクセス制限されるのは企業のサイトだけではない。モバイル・コンテンツ・フォーラム事務局長の岸原孝昌氏は、「町内でサッカーチームのコミュニティーを作って情報を共有したいというサイトまで排除されてしまう」と語る。