ユビキタスやISDNは「ムーアの法則」を考慮しなかった失敗例だ
同じように、いま存在する家電や機材にICタグをつけて「ユビキタス」を実現するというのは、まったくナンセンスです。
経済用語に「補完財」と「代替財」という言葉があります。例えばコーヒーとコーヒーカップは補完財、コーヒーと紅茶は代替財です。デジタル機器の進化は、既存のビジネスモデルを「代替」していくのであって、「補完」していくわけではありません。それを僕はあえて「破壊」と表現しました。
放送をデジタルに変えただけで「デジタル放送」になるとか、既存の家電製品にICタグが付いただけで「ユビキタス」になるわけではない。変化はそんなふうに起きないんです。今後情報インフラを独占することで利潤を得るモデルは成立しなくなっていくでしょう。放送局もそうだし、コンパクトディスクのように物理的な媒体(=インフラ)を使うものも。
NTTが次世代ネットワークを進めようとしてますが、これにも僕は危惧してます。NTTはこれまでにも失敗を繰り返してきました。典型はISDNで、15年ほど前から着手し始め、1兆円の設備投資をして全国に普及させました。そのしばらく後に、ADSLの実験が行なわれました。実験してデータを取ってみると、理論的には1.5Mbpsまで出るものが、500~600kbps程度しか出なかった。その結果を見てNTTは「ADSLはものにならない」という結論を出してしまったんです。
確かに当時のADSLはお粗末だったかもしれないけど、2000年に東京めたりっく通信がサービスを始めたころにはまともな技術になっていました。そして、2001年にYahoo! BBが8Mbpsのサービスを始めてブレイクした。ADSLで起こったのは、まさにムーアの法則です。半導体の性能が上がることで、モデムの性能も上がり、送受信の速度が向上した。いま、ISDNを新たに使う人はいません。
NTTの誤算はアナログの電話を単にデジタル化させるのが、デジタルに対応する道だと勘違いしたところです。技術に明るいNTTの人間でもそういう見誤りをした。
本の中でAPSの失敗例を書きましたが、あれも最悪のタイミングだったわけです。デジカメが出てきてビジネスとして立ち上がる時期に、アナログのフィルムを改善させようとしました。失敗することは眼に見えていました。NHKのアナログハイビジョンもこれと同じ間違いをした。