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【徹底研究 SaaS最前線】

SaaS・ASPがIT政策の新キーワードに――政府が模索するブロードバンドの「次」Part2

2007年11月16日 17時30分更新

文● 文●アスキービジネス編集部

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経済のグローバル化と社会状況の急速な変化に経済政策が追いつかない。「耐用年数を超えた」産業構造が大ダメージを被りかねない労働人口の減少を前に、経済底上げの切り札として政府の「IT」に寄せる期待感は再燃している。


ブロードバンドが普及しても「IT」は隅々にまで届かない


「少子高齢化による労働人口の減少」と「国際競争力の相対的な低下」というダブルパンチに日本経済が見舞われて久しい。政府がテコ入れ策として「1人当たりの生産性向上」を声高に主張しなければならない状況はなお続いている。働き手が減るわけだから、1人当たりが同じ労働時間でより大きな価値を生産しなければ経済回復が追いつかない、という理屈だ。

 加えて日本には「成長分野の創出」という課題もある。経済のグローバル化によってアジア諸国がめざましい躍進を見せているのと対照的に、圧倒的な国際競争力を保っていた産業分野を日本は次々と手放す結果となった。かといって、国際競争力を持ち得るようなまったく新しい産業は今日すぐに立ち上がるものでもない。

「経済の成長」を約束するこの2つの課題を解決するためにはどうすればいいか。政府が今まで以上に力を入れる具体策の1つは「IT」活用だ。

 官民を問わず、今まであまりITに熱心でなかった分野にもIT活用を促し、生産性の向上を達成してもらう。さらに前途有望なIT分野の中でも、国際競争力のある分野は産業として育成しよう、というのだ。「SaaS・ASP」と政府が突然言い出したように見える背景はここにある。

 2007年6月、政府は経済構造の改革案として「経済財政改革の基本方針2007」を示した。SaaS・ASPはこのシナリオの中に登場する。

 第一の柱「成長力の強化」では4つの方針が述べられている。この中の“5年以内に労働生産性の伸び率5割増しを目指す”とした「成長力加速プログラム」(右図参照)が該当し、「成長力底上げ戦略」「サービス革新戦略」「成長可能性拡大戦略――イノベーション」の三つの戦略のうち「サービス革新戦略」で具体的に言及されているのだ(ちなみに「サービス革新戦略」とは、前述のとおり、今までITを活用できなかった中小企業やサービス産業、地域にITを活用してもらう、情報格差の解消が趣旨の戦略である)。

 ではどう言及されているのかを抜粋してみよう。「ITによる生産性の向上」の中で、「IT投資の選択と集中に向け、業種・製品ごとのソフトの標準化・共同開発、ソフト部品産業の競争力強化を行うとともに、ASP、SaaSの普及促進など中小企業のIT化の基盤を整備する(以下略)」とある。

 SaaS・ASPモデルであれば、PCなどのWeb端末を日本中に張り巡らされたブロードバンド回線に接続するだけで、望みの業務用アプリケーションをリーズナブルな料金で利用できる。導入コストもバージョンアップのコストも不要で、しかも操作法を覚えるのもたやすい。乱暴に要約すれば、このモデルを「当たり前」にすれば、取り組みが遅れている分野や地域にもITが浸透するのではないか……という期待が込められているわけだ。

 さて、政府が公式に表明したSaaS・ASPへの期待だが、これは発表に先立つ2月に経済財政諮問会議(内閣府)で話し合われた内容と、さらに前ページで簡単に触れたが、政府内のIT戦略本部が既に示した計画を取り込んだものと言える。特にIT戦略本部は2007年4月に「重点計画2007」と題した2007年のIT政策を取りまとめており、中小企業の経営支援ツールとしてSaaS・ASPを普及させること、さらにSaaS・ASP関連のITベンチャーを支援する意向を盛り込んでいるのだ。

 最終的にSaaS・ASPに期待される役割はより広範の分野に及ぶと予想されるが、ここでは引き続き「重点計画2007」に基いたSaaS・ASPの普及策について、総務省と経済労働省の動向の中から探ってみることにする。

●経済構造改革案におけるSaaS・ASPの役割

出典=「経済財政改革の基本方針2007~『美しい国』へのシナリオ~」(首相官邸・平成19年6月19日)

出典=「経済財政改革の基本方針2007~『美しい国』へのシナリオ~」(首相官邸・平成19年6月19日)

●「重点計画2007」では日本の「IT政策」にSaaS・ASPが本格的に組み込まれる

出典=「重点計画2007」(IT戦略本部・平成19年7月26日)

出典=「重点計画2007」(IT戦略本部・平成19年7月26日)

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