取材者は「現場の空気」も判断材料にする
ではなぜこんな視点のちがいが生まれるのか? もうちょっと発展させて考えてみるとおもしろそうだ。そこでまず前編では、この話を肯定的に扱った私サイドの論理から説明しよう。
取材現場では、取材者と被取材者が対面することで、その場に立ち会った人間でなければ分からない独特の空気感が生まれる。取材し、原稿を書く仕事をしていると、現場の空気で「相手が本音で話しているか」「それとも何かを隠しているか」がある程度分かるようになる。
じゃあ空気感っていったい何か? ひとことで言えば、居合わせた人間のたたずまいが作る場の雰囲気だ。
質問に答える人間は、無意識のうちにいろんな仕草をする。急に視線を上に向けたり、腕を組んだり、手を口元に持っていったり。
例えば、視線を宙に彷徨わせながら話す人は、ウソをついている可能性が高い。また同じ視線を上に向けるのでも、一点を見つめている場合は「何かを思い出そうとしている」ことが多い。
一方、相手が腕組みすると要注意だ。あなたの相談や提案を「受け入れにくいなあ」と感じている可能性がある。逆に興味のある質問や「そこを聞いてほしかった」的な話を向けたとたん、相手は上体をグッと前に押し出してきたりもする。
もちろん動作だけじゃない。しゃべる内容と心理の変化に応じ、表情や声のトーン、抑揚、言葉の区切り方も細かく変化する。
これを心理学では、ノンバーバル(非言語的)コミュニケーションと呼ぶ。「目は口ほどにものを言い」というが、無意識のうちに出る仕草やふるまいには隠された意味があるのだ。ただし取材者はそんな心理学を知らなくても、経験から体感的にある程度ジャッジしている。
もうひとつ、取材には話の流れがある。読者が目にする取材された側のコメントは、記事では細切れになっている。だがそのコメントの前後には、当然割愛された多くのコメントがある。会話をぜんぶ載せると長大で読みにくい原稿になるからだ。
つまり書かれたコメントと省略されたコメントが有機的に組み合わさり、取材現場の話の流れが形作られている。とすれば居合わせた取材者は、全体の話の流れを手がかりに読みを入れることが可能だ。
「あの話の流れで出てきた3番目のコメントは、抽象的だが真意はこうだろう」
「あんな展開でこのコメントをいきなり口にするのはおかしい。相手は何か隠してるんじゃないか?」
こんなふうに現場の空気は、相手の仕草や表情、話の流れで醸し出される。そして取材した人間は相手が語った言葉だけでなく、空気も加味して判断している。
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