撤退や再編が続くHDD業界。パソコンだけではなく、AV機器への搭載も進み、 市場のパイは増えているが、勝ち組と負け組が明確に分かれた厳しい競争が繰り 広げられている。そんな熾烈な競争の中、奇跡的なV字回復を果たした企業が米 ウエスタンデジタル(Western Digital、以下WD)社だ。
ウエスタンデジタルの世界シェアーは約30.5%と現在第2位。日本国内に限定す ると、世界第1位の米シーゲイト社を上回り、トップだ。ウエスタンデジタルが 国内首位を勝ち取れた理由は何だったのだろうか? 日本法人代表取締役社長の 金森苧(かなもり あさお)氏にお話をうかがった。
「心から人を好きになる」ことが大事
WDのシェアーが伸びてきたのはここ数年のことだ。WDは1999年に40万台のリコールを経験していて、これによりシェアーをガクンと落としている(関連記事)。
金森氏がWDにやって来たのは、この事件からしばらくたった2002年1月のことだ。以前40人いた社員は3人に減っていた。金森氏は当時の状況を以下のように振り返る。
「今までのOEM提供先から契約をすべて打ち切られ、ビジネスとしてはほぼゼロの状態でした」(金森氏)
一度失った信頼を取り戻すのは難しかった。どこへ営業に行っても最初は話を聞いてもらえなかった。しかしある大手パソコンメーカーに金森氏の熱意が通じたことがきっかけとなって、徐々にほかのメーカーからも注文が入るようになる。復活の足がかりを得た。
「特別な営業活動はしていませんが、社員にいつも言っていることはあります。それは心からその人を好きになることです。社内であろうと社外であろうと、まっすぐにその人と向き合って、信頼関係を結ぶことが何より大事なんです。弊社の主力商品は3.5インチHDDですが、技術的な新しさよりも、品質管理を徹底しています。新製品の発売日を伸ばすことになっても、不良率を下げることを一番に考えています。不良率を下げることは結果的に低コスト化にもつながるのです」(金森氏)
顧客との信頼関係を大事にし、良いものを安く提供する。金森氏が採ったのは起死回生の秘策ではなく、愚直ともとられそうな誠実な姿勢だ。
その努力が実を結び、10億だった年商が600億円に、3.5インチHDDの国内出荷数が4半期あたり3万台から145万台に成長した。
WDはOEMに注力
WDは国内最大のシェアーを持っているのに、店頭で見かける機会が少ないのはなぜだろうか?
「弊社が最も力を入れているのはOEM製品です。例えば、ある有名メーカーが販売しているHDDの7割は弊社が提供しているものです。またHDDレコーダーなどの家電製品にも多く組み込まれています」(金森氏)
価格の安さと品質の高さから、日本ではOEM元としての評価が高いそうだ。試しに筆者のパソコンやHDDレコーダーの中身を確認してみると、確かにWDのHDDが多く搭載されていた。現在流通しているWDのHDDは、一般ユーザーの目の届かないところで地道に稼動しているということだろう。
OEM元としてシェアーを取り戻したWDだが、これからは“Western Digital”ブランドのリテール製品も積極的に販売していくという。今後はWDのブランド名も一般のパソコンショップで見かける機会が増えそうだ。