米国ネバダ州ラスベガスで8日(現地時間)から開催された“2007 International CES”では、家電やホームエンターテイメントに関わる技術や製品を持つ企業の代表者による基調講演が、計5本行なわれる予定である。しかし8日午後の基調講演を行なったのは、IT企業でもなければ大手家電メーカーでもない、米ウォルト・ディズニー社(以下ディズニー)の社長兼CEOであるロバート・アイガー(Robert Iger)氏であった。
日本では“ディズニー”と言うと、ミッキーマウスとディズニーランドを代表とする、子供向けのアニメ映画の会社、というイメージが一般的だろう。しかし実際のディズニーは、米国3大ネットワークの1つ“ABC”やスポーツ専門チャンネル“ESPN”といった放送事業、映画制作/配給会社の米ブエナ・ビスタ・インターナショナル社や米ミラマックス社、その他にも複数のケーブルTV局やラジオ局、映画制作スタジオなど、非常に多くのコンテンツ制作/販売に関わる企業を傘下に抱える、巨大な複合メディア企業なのである。そのディズニーのトップがCESの基調講演でどのような話をするのか、開催前から注目の高かった講演である。
講演ではいかにも巨大なメディア企業らしく、人気ドラマやスポーツ番組の出演者を招いたり、新作映画の予告編を流すなど、非常にショウアップされた演出が目立った。しかし講演の主題は、自社が最新の技術やサービスをいかに活用して、コンテンツを多方面で展開しているかといった点であり、豊富な資金と魅力的なコンテンツを多数抱えるメディア企業ならではの、攻めの戦略の数々が披露された。
アイガー氏はまず、同社のコンテンツ配信についての考え方を披露した。同社がiTunes向けに行なっている有料映像配信は、1億2000回以上ダウンロードされたとアイガー氏は述べ、その意図について、コンテンツ企業が所有するコンテンツを手軽な手段と手頃な価格で供給することは、海賊版の抑制にもつながる必要なことであるとした。またABCで放映中のドラマ『LOST』(ロスト)では、番組配信だけでなく、番組に関するポッドキャストやWiki、携帯電話機向けコンテンツなど、多方面に展開しているという。
次にアイガー氏は、同社の抱えるスポーツ専門チャンネル“ESPN”について取り上げ、スポーツこそがNo.1のキラーコンテンツであることを証明していると高く評価した。ステージにはESPNでアメリカンフットボール番組のホスト役を務めるマイク・ティリコ(Mike Tirico)氏が登壇。HD品質の放送を行なう“ESPN HD”や、ユーザーのスポーツに関する嗜好に合わせてカスタマイズできるホームページ機能“MyESPN”。スポーツ中継など映像コンテンツを主体としたウェブサービス“ESPN360”といったESPNのサービスを紹介した。ティリコ氏はスポーツに関するコンテンツをさまざまな手段で多角的に提供することを、“ESPNサラウンド”と表現した。ESPNのコンテンツでユーザーを取り巻くというわけだ。
スポーツコンテンツの展開に続いては、ディズニーの多様なアニメ/音楽などのコンテンツへのポータルとなる、“DXD(Disney Extreme Digital)”と呼ばれる開発中のウェブサービスについて、デモを交えながらの説明が行なわれた。“子供がどうネットを使うか”を分析して作られたというDXDは、子供は“TVを見ながらゲームをして、同時にチャットも楽しむ”といったマルチタスキングな楽しみ方をしているという分析の元、これらの楽しみを1つの画面上で実現するように設計されているという。
ミニゲームや登録ユーザー同士のチャット、インスタントメッセージング、ユーザーの嗜好に合わせたコンテンツ(ウェブサイトや映像配信サービス)などへの移動メニューなどが、グラフィカルな画面上で展開されるサービスである。ディズニーキャラクターや番組を基盤として、子供が求める遊び(サービス)をすべて網羅・提供しようというDXDは、ある意味では“ディズニー版Xbox Live”とでも言うようなサービスを志向しているように思える。ゲームもFlashベースの簡単なものだけでなく、同社の大ヒット映画の世界観をベースに3D CGを駆使したMMORPG『Pirates of the Caribbean Online』を無料で提供するなど、本格的なゲームへの入口としても機能する。
アイガー氏は講演の最後に、技術を駆使して10年前には存在しなかったようないろいろなコンテンツを提供するのは、エキサイティングなことであると述べた。そして来場した家電やパソコン企業の人々に対し、これら企業が提供する製品を使った先進的なコンテンツを今後も提供していきたいと表明した。