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ウイングアーク1stのupdataNOW23基調講演レポート

北九州市、SMFL、清水建設、大和ハウス、東芝 5つの意思決定ストーリー

2023年11月17日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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東芝島田社長が考えるAIの3つの課題

 最後のスペシャルゲストとして登壇したのは、UpdataNOW 3年連続の登壇となる東芝 代表取締役社長 CEOの島田太郎氏。3年目の登壇と言うことで「ここに出るのが楽しみなのでは?」と田中氏に振られ、島田氏も笑顔を浮かべる。

田中氏の出迎えに笑顔で応じる東芝 代表取締役社長 CEOの島田太郎氏

 昨年もサステイナビリティや量子コンピューティングについてビジョナリな講演を披露したが、今年は「AIに関して世界で3位のパテントを持つ会社の社長」としてAIの話を中心に据えた。島田氏は、3つのAIの課題としてまず「データが足りない」を挙げる。もともとChatGPTが注目を集めるようになったのは、パラメーター数を増やすと、ある部分から飛躍的に精度が上がったというブレイクスルーがあったからだ。島田氏は2020年の時点で、フィジカルからサイバーに流れるデータ量が爆発的に増えることを指摘していたが、AIのためにはまだまだ足りないというのが現状だという。

 次は「恣意的である」という課題。1990年代から「人と地球の明日のために」を掲げる東芝は、これまでもパーパスを特に大事にしてきたが、ChatGPTに聞いてみると「パーパスをしっかり持っている企業でも株式価値が高いとは限りません」という答えが返ってくる。これはAIが特定の人や集団から倫理観を得ているからにほかならない(Reinforcement Learning From Human Feedback)。

 続いて島田氏は、東芝が展開しているスマートレシートの取り組みについて説明する。スマートレシートは、アプリのダウンロードし、会員登録し、買い物のときにバーコードを提示すれば、スマホでレシートが確認できるという仕組み。2014年のサービス開始以来、2023年9月には会員数が150万人を突破し、2025年には購買データの収集基盤ができあがる見込みだ。

 また、マイナンバーカードとの連携も始めており、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)を支える社会インフラを支えることにもなる。たとえば、購買データを分析すると、育児用品は物価が上昇しても購入額が変わらないという傾向がある。特にベビー用のオムツは平均単価も上がっている状態。EBPMにこのデータを持ち込めば、子育て支援ではベビー用のオムツが有効だということがわかる。

マイナンバーカードとスマートレシートが連携する社会基盤

 なぜこのスマートレシートの話が「恣意的である」という課題と関係するのか? 島田氏は、人と地球の明日のためになるAIは、人間との共生にある」と掲げ、多くの人が納得する価値観でAIを調教していくことが重要だと語る。「誰かが決めた恣意的な方向ではなく、みんなが納得できるようなAIを作ることが大事ではないか」と島田氏は語る。

エネルギー消費の少ない量子技術で、AIの電力消費を抑える

 そして、3つ目に掲げたAIの課題は「電力消費」。昨年に指摘したことだが、2020年には7%のCO2が削減されたが、2050年まで7%ずつ減らさないと、カーボンニュートラルにはならない。つまり、単にCO2を削減しただけでは、ネットゼロの達成は無理ということだ。

 そのため、東芝が考えるアプローチが「カーボンネガティブ」。CO2を減らす省エネ、CO2を排出しない再エネ化に加え、CO2自体の除去するというやり方だ。このCO2の除去を実現するのが、同社のCCS、CCU、DACなどの技術で、CO2を回収し、燃料に転換することができる。

 この中で特に重視しているのは、どれだけのCO2を使っているかの見える化。製品にかかるCO2をトレースすれば、「たとえば、ワインを購入したとき、このワインがどれくらいのCO2を使ったのかわかる」という。さらにスマートレシートでCO2がどれくらい使われているかを見せることで、消費者の行動変容を促しているという。

CO2の見える化で行動変容を促す

 しかし、AIの進歩により、電力消費量は今後爆発的に増えることが予想されるという。「多くのデジタル企業が大量の電力を使って、AIの研究開発に邁進しています。データセンターやGPUが利用する総電力は、世界の総発電量を2040年には超えてしまうと言われています」と島田氏は指摘する。この危機を回避するためには、提案するのが量子コンピューティングとAIの融合だ。

 量子技術はエネルギー消費が少ない。たとえば、量子通信で光だけを用いれば、電力消費を抑えられるし、エネルギーの最適な配分も可能。今後「量子AI」では、消費電力を抑えたAIが実現する。また、量子インスパイアドと呼ばれるシリコン化も可能なシミュレーションも登場しており、同社ではエネルギマネジメントシステムに利用しようとしている。さらに2021年には「Q-STAR」と呼ばれる量子技術の産業団体もスタート。参加者は現在84会員まで拡大しており、ユーザー企業が半数を占めるという。「われわれの地球を守るためにも、量子技術でなにができるかのアイデアを持ち寄り、ぶつけ合うことが非常に大切」と島田氏は語る。

 最後に紹介したのは生成AIの社内展開だ。利用例や実現例を分類し、業務シナリオに落とし込み、現場への展開を始めているところだという。最初はChatGPTのプライベートで業務を効率化し、続いて社内情報を加えて拡大と高度化を図る。さらにAIとの共同作業で飛躍的な効率化と高度化を実現していくという。そして、エンタープライズ活用、マルチモーダル応用、設計・開発業務の効率化という3つの活用領域で、自社のノウハウをサービスとして提供していくという。

 島田氏は、「人と、地球の、明日のために。パーパスを追求する会社はいい会社だと言ってもらえるAIに育てていきたいと思っています(笑)」とまとめた。

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