“猫AF業界”ではちょっと出遅れた富士フイルムだけど、春の「X-H2S」、そして秋の「X-H2」とフラッグシップ兄弟で巻き返しを図ってきた。“猫AF業界”なんてのがあるのかどうかは知らないけど(たぶん、そんなものはない)、猫瞳AFが搭載されたカメラは片っ端から試してみるのがこの連載。
というわけで、今回は、9月に登場した富士フイルムのミラーレス一眼、X-H2である。先に出たX-H2Sは、超高速AFと超高速連写が売りだったが、X-H2は高画質が売り。遊びまくる猫の決定的瞬間を撮りたいならX-H2Sを、ほわっとした毛の隅々まで美しく撮りたいならX-H2で、両方撮りたい人は両方買えという恐ろしい戦略だ。
X-H2は富士フイルムのXシリーズなので、Xマウントのレンズなら何でも装着できるわけで、私も数本のレンズであれこれ撮ったのだが、X-H2で美麗な猫写真を撮るならこのレンズだろうっていう組み合わせが発見されたので、まずはそれからいく。
そのレンズは「XF56mmF1.2 R WR」である。中望遠でF1.2とすごく明るくて、解像感もボケ感も素晴らしいレンズだ。
冒頭写真がまさにそれ。猫瞳AFで右目にフォーカスを合わせて撮ったもの。目元にピシッとフォーカスがきてて、体や背景は柔らかにぼけてる。安くはないけどな(実売14万円前後)。
このレンズで絞り開放で撮ると、ちょっとAFが遅い。なぜなら、56mmF1.2ともなるとフォーカスの合う範囲がかなり狭くなり(被写界深度が浅いという)、よりシビアなAFが必要になるからだ。X-H2は4000万画素もあるので、余計にフォーカスにシビアなのである。だから、確実に瞳にフォーカスを合わせて撮るべし。
すると、すごく印象的できれいな写真を撮れる。これなんか、右目にだけピントがきてて、左目や鼻はちょっとぼけてて、長毛種なので毛が徐々にぼけて、ほわっとするさまなんかたまらんではないか。特に富士フイルムのカメラは色がいいので、ちょっと明るめに撮ってやると、鮮やかで、”ふわほわふわ”な猫写真を撮れる。室内(撮影場所はいつもお世話になっている「保護猫シェルター QUEUE」)で、好きなタイミングで撮れるときなんか、このレンズが最高である。
で、AFがちょっと遅いと書いたけど、それは爆速のX-H2Sに比べればの話。その気になれば、迅速な写真も撮れる。
猫がふぁーっとあくびをしたので、とっさに撮ったのがこちらだ。あくびしてると瞳は見えなくなるので、その場合、フォーカスはいちばん手前にくる。この場合は、鼻や犬歯である。鼻と犬歯にだけフォーカスが合って、後ろはほわっとぼけてるので、視線が犬歯に吸い寄せられちゃう写真になるのだ。
被写界深度が浅い写真は、ピントが合ってる箇所に視線が誘導されるので、より印象的になるのだ。もう1枚、行っとこう。遊んでる猫の写真。目とおもちゃのほわほわにだけフォーカスがきてるってのがたまらん。
まだまだ室内猫行くぞってことで、ここからは、わが家の猫。最近、猫を運ぶためのリュックを昼寝ハウスにしてるうちの黒猫ミル。リュックの中は暗いうえに内側が黒いので、その中で丸くなって寝られると、どこにいるのだかわからなくなって困るレベルだ。で、声をかけてやると、もそっと顔だけ出すのである。その瞬間を撮影。
その頃、もう1匹の「かふか」は、リビングのソファーでまったり昼寝をしてるのだった。明るくてほわっとした写真ばかりじゃないぞってことで、こちらは露出抑えめでしっとりと。しっとりまったりな写真を撮れるのもよさだ。
起きてるかふかもどうぞ。右の瞳にピシッとフォーカスがきてて、拡大すると瞳の中に部屋が映ってるレベルだ(この連載ではフルサイズの写真は掲載してないのでわからないけど)。
最後は、夜の写真といこう。56mmF1.2ともなると、暗所にも強いのだ。歩いてて偶然出会った猫もこのとおり。
夜の猫に出会ったときは、街灯との位置関係を頭に入れておくこと。そうするといい案配に猫が明るく撮れる。
かくして、「XF56mmF1.2 R WR」は、以前発売されていた同等スペックレンズのリニューアル版なのだけど、すごく気持ちいい写真が撮れる単焦点レンズなのだ。X-H2と組み合わせると、より威力を発揮する。X-H2ユーザーじゃなくても一度使うと欲しくなるけど、ハイスペックなレンズだけに価格もそれなりにするわけで、いっそ知らないままでいるほうが幸せかもしれない。
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筆者紹介─荻窪 圭
老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
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