24日、電脳空間カウボーイズ主催の「第弐回天下一カウボーイ大会」が秋葉原UDXギャラリーで開催された。カウボーイはコンピューターという暴れ馬を乗りこなすハッカーを意味する。学生や20代を中心とした若い約300名の観客が集い、カウボーイたちが自慢のロデオを披露した8時間にも及ぶ濃密な時間の中から、新旧の代表的なカウボーイのプレゼンを紹介する。
セガラリー、Luminesの水口氏が口火を切る
午前中の基調講演を行なったのは、ゲームクリエイターとして知られる水口哲也氏。「セガラリーチャンピオンシップ」「Rez」「Lumines」といったゲームに関わってきた人物だ。
水口氏はバーチャルリアリティのおもしろさに目覚め、ゲームの業界に飛び込んだ。同氏の手がけたセガラリーでは、トヨタやランチアの本物のラリーカーが登場するが、これは極めて異例。当時はゲームメーカーが話を持ちかけても、門前払いされる時代だった。水口氏は「最初にトヨタに自分たちの映像を見せにいったとき、担当者の反応がそれまでとはっきり変わったのを覚えている」と語る。リアルな映像表現により、新しいメディアとしてゲームが認知され、常識を覆したのである。
その後、水口氏の関心はリアルを追求することに留まらず、インタラクティブ・エンターテインメントに移る。そこで生まれたのが、効果音が音楽になる気持ち良さを追求した「Rez」や、欧米で大ヒットし、クリエイターとしての知名度を世界的に高めた「Lumines」だ。そして、「自分がゲームに使いたい音楽がないので自分でつくろう」と考え、音楽ユニット「元気ロケッツ」が生まれる。
元気ロケッツは「宇宙で生まれ、まだ地球に降りたことのない30年後の18歳の女の子Lumi」が歌うという設定でつくられたコンセプチュアル・バンドだ。2006年9月11日に、「Lumines ll」用につくられた元気ロケッツの「Heavenly Star」のPVを水口氏がYouTubeにアップした。あえて「9・11」事件の日に公開し、世界平和のメッセージを強く訴えたこの曲はクラブシーンを中心に火がつく。
そのメッセージ性が評価され、翌年の7月には「LiveEarth」の東京の舞台に、ホログラム映像でライブを行なうまでになった。LiveEarthとは世界温暖化防止を訴え、世界7大都市で同日開催されたチャリティイベント。MSNで同時配信されたライブ映像は10億人以上が見たという。会場では、Lumiの紹介で、同じくホログラムになったアル・ゴア氏(前アメリカ合衆国副大統領)がステージに立ち、地球温暖化防止のためのメッセージを送った。
水口氏は元気ロケッツを通じて、インターネットにおけるクリエイティブな世界の速度感やスケール感が増していることを指摘する。「昔は自分がゲームのためにつくった音楽がヒットするなんてありえないと思った。でも、いまはありえる。実際にPVをウェブで公開してから、1年も経たないうちにライブをやることになり、ゴア氏と競演することになった。ものすごいスピードの中で僕も皆さんも生きていることを意識してほしい」(水口氏)
水口氏は自分が影響を受けた作品として、チャールズ&レイ・イームの映像作品「POWERS OF TEN」と、先日、スティーブ・ジョブズがスピーチで引用したカタログ「Whole Earth Catalog」をあげる。最後に以下のようなメッセージで講演を締めくくった。
「新世紀に入って10年くらい経ってから本当の新世紀がくると言われている。19世紀も20世紀も、文化的な新しいうねりや変化がやって来たのはちょうど10年くらい経ってから。つまり、21世紀も2010年ごろにまったく新しいイノベーションが起きてくる。大切なことは、新しい視点の獲得は、新しい意識を生み、新しいクリエイティブを生むということ。これからの時代のクリエイターは、新しい視点をどれだけ獲得していけるかにかかっている」