「ニンテンドーDS」ソフトにも使われた青空文庫
── それにしても、青空文庫はボランティアでよく続けられますよね。
津田 お互いを助け合うという、ちょうどソフトウェアのオープンソースのようなシステムが上手く作用していることもあると思います。
最近では、青空文庫のテキストデータを元に、「DS文学全集」という携帯ゲーム機の「ニンテンドーDS」で文学作品を読めるソフトが発売されました。
このソフトは最初に文学作品が100冊入っているというのがウリですが、青空文庫から供与されたテキストだけで作っているわけではなく、任天堂が新たにテキスト起こしをしたデータも含まれています。そして、任天堂が作成したテキストは、青空文庫に提供されている。ちなみに、DS文学全集には「あらすじ」も含まれていますが、これも任天堂側がプロデュースして、入れ込んでいるそうです。
そうした風にお互いがお互いを助け合い、目に見える形で文化活動に貢献しているところが素晴らしいですよね。
── ところで電子書籍と言えば、音楽配信とは異なり、まだ世の中にあまり根付いていません。今後、普及させるには、どのような改善策が考えられるでしょうか?
津田 僕個人の感覚でいえば、「電源が不要ですぐに読める」「目が疲れない」という2つの条件をクリアーしたハードウェアが登場しないと、普及は難しいと思います。
現状で言えば、iPod touchの「Safari」が理想の電子ブックリーダーに近い印象です。指で拡大/縮小できるし、ページめくりも行なえる。リンクで注釈が付けられれば、なお読みやすくなるでしょう。今流行している携帯電話向けのマンガ配信も、iPod touchで見られると、本物に近い感覚で読めるんじゃないでしょうか。
本しか読めない専門のブックリーダーが4万、5万円すると言われれば買う人が少ないかもしれませんが、インターフェースが秀逸で本も、音楽も、ビデオも、インターネットも楽しめるとなれば手に取る人が増えるかもしれません。
ただ、iPod touchでもバッテリーの駆動時間と価格の問題はあります。あのクラスの秀逸なインターフェースで、液晶ディスプレーの質とバッテリーの持ちが抜群に向上し、かつ価格が1〜2万円くらいまで下がってきたら、電子書籍は新しいフェイズに入れるんじゃないかなと思いますよ。
筆者紹介─津田大介
インターネット媒体やビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト「音楽配信メモ」の管理人としても知られる。8月に小寺信良氏との共著で「CONTENT'S FUTURE」を出版。
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