外観はユニークながらも、完成度の高い1台
デジタルカメラにおいては比較的保守的なデザインを採用し続けてきた同社にとって、珍しく“カメラらしくない”フォルムではあるものの、小さいボディーにうまく操作系をまとめており、使いやすい出来になっている。電源を入れれば「シャコッ」という小気味いい音とともにカバーが開いてレンズが伸張し、ズームやフォーカスもすばやく静かで、使っていて大変気持ちがいい。
操作系でやや不満に感じた点としては、液晶ディスプレーをオープンしただけでは撮影モードとして電源ONにならず、左側面の電源ボタンを押す手間がある点だ。コンパクトデジタルカメラやカムコーダーでは電源連動のレンズカバーや液晶パネルを採用しており、本機にも液晶ディスプレーの開閉を感知するセンサーを搭載している割に、「電源を入れても閉めたままでは撮影できない」というチェック機能にしか使われていないのはもったいない。不用意に電源が入らないようにするための配慮かもしれないが、設定などでON/OFFできるようにして欲しかった。
また“縦位置”、つまりカメラを横に寝かせて撮影する場合、液晶ヒンジの構造から90度以外の角度が付けられず、可変アングル液晶ディスプレーの利点を活かしたウェストレベルやローアングル撮影がしにくいのも気になった。動画撮影中心ならば縦位置撮影をすることは少ないだろうが、本機は静止画撮影も主用途とする機種だけにもう少し工夫してほしかった。なお、本機にも同社デジタルカメラでおなじみの“縦位置センサー”が内蔵されているため、閲覧時はこのスタイルでも縦横が自動変換して表示される。
このほか、気になる点としてはコンパクトサイズを実現するためか小さな充電池を使っているためか、バッテリーでの撮影可能枚数で約160枚と、最近のデジタルカメラの中でははやや少ないことだ(同じ充電池『NB-4L』を使用するIXY DIGITALシリーズでは220枚程度)。1日程度の撮影ならば特に問題はないだろうが、旅行などの際は予備電池を用意するか充電器を携行したほうがいいだろう。
画像処理エンジン“DIGIC III”(ディジックスリー)のおかげで発色や画質のシャープさなど、IXY DIGITALやPowerShotと同様に画質は比較的良好だ。明暗の差が大きなシーンでは白とびしやすく階調表現が浅い印象があり、エッジに着色もやや見受けられるものの、広角時の周辺描写や望遠時の解像感の低下は、このサイズの高倍率ズームレンズとしてはかなり低く抑えられているようだ。ズームが39~390mm相当と、広角側に弱いのは使っていて物足りないものを感じるが、広角側も強いコンパクトズーム機には周辺画質が劣化しやすいものもあり、望遠機用として割り切って使いたい。
同社デジタルカメラには、スタイリッシュコンパクトな“IXY DIGITAL”シリーズ、入門/普及機の“PowerShot A”シリーズ、応用の効く望遠機“PowerShot S”シリーズ、ハイエンドの“PowerShot G”シリーズがラインナップされている。本機はそのユニークなスタイルや、コンパクトサイズにかかわらず高倍率ズームを装備する点などから、“お手軽望遠機”といった印象を受けやすいが、しっかりと作り込まれた光学系や考慮された操作系、なによりそれらをこのサイズに詰め込んだ完成度は極めて高い。より汎用性の高い望遠機を求めるならPowerShot Sシリーズのほうがお勧めだが、持ち歩いて負担にならないサイズ/重量というのも大きな魅力だ。一眼レフデジタルカメラやハイエンドコンパクト機などで広角側での風景撮りに不満がないなら、望遠側を撮るためのサブカメラとして選択するのも面白いだろう。
PowerShot TX1の主なスペック | |
---|---|
製品名 | PowerShot TX1 |
撮像素子 | 1/2.5インチ有効710万(総740万)画素CCD |
レンズ | 光学10倍ズーム、f=6.5~65mm(35mmフィルムカメラ換算時:39~390mm)、F3.5~5.6 |
静止画撮影 | 最大3072×2304ドット |
ISO感度 | オート、高感度オート、ISO 80/100/200/400/800/1600 |
動画撮影 | 最大1280×720ドット、30fps、MotionJPEG圧縮AVI形式 |
液晶ディスプレー | 1.8インチTFT、約11万5000画素 |
記録メディア | SDメモリーカード(SDHC対応)/MMC(32MB付属) |
インターフェース | USB、AV出力(RCA端子、D端子) |
電源 | 専用リチウムイオン充電池(NB-4L) |
撮影可能枚数 | 約160枚 |
本体サイズ | 88.8(W)×29(D)×59.5(H)mm |
重さ | 約220g(本体のみ) |