神戸市は、2024年4月30日、全国の人口分布や移動、就業状況などのオープンデータを公開するダッシュボード「神戸データラボ」にて、新たに国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」と、総務省の「住民基本台帳人口移動報告」に基づくデータを追加した。これにより、計8種類のオープンデータが利用可能になった。
神戸市のデジタル監(最高デジタル責任者)である正木祐輔氏は、「神戸データラボには、1日平均500件のアクセスがあり、政令指定都市をはじめとした全国の自治体が政策議論に活用しているケースや、民間企業、個人での利用も増えている」と述べる。
Tableauで直観的に分析可能な「神戸データラボ」に2種のオープンデータが追加
神戸市では、市職員が利用できる「神戸データラウンジ」を庁内で公開しており、約90種類のオープンデータを用意している。神戸データラボは、神戸データラウンジでの実績をベースに、全国の自治体や一般の人がオープンデータが簡単に利用できるよう無償公開しているダッシュボードで、神戸市サイトのトップページからアクセスできる。
単に統計データを公開するのではなく、データ分析ソリューションであるTableauを組み込んで、直感的な操作による分析やドリルダウンが可能になっているのが特徴だ。さらに、PNGやPowerPoint、PDFといった形式でダウンロードができるほか、クロス集計したCSVデータのダウンロードも可能になっている。
2023年2月に、総務省統計局の2020年国勢調査による全国版データや年齢別人口データ、通勤通学地分析データを公開。2023年10月には第2弾として、2020年の国勢調査の産業分類編、5年前の居住地情報を活用した人口移動分析編を全国版データとして公開。兵庫県版のダッシュボードも追加した。今回は第3弾にあたり、4月30日から公開している。
新たに追加された、社人研が2023年12月に公表した「日本の地域別将来推計人口」のデータでは、2050年までの全国の人口変化がわかり、市町村ごとのヒートマップや、年齢別人口ピラミッドの変化も視覚的に理解できる。
また、総務省が2024年1月に公開した「住民基本台帳人口移動報告」のデータでは、2020年から2024年までの全国の人口の移動状況が確認でき、移動先の分析も可能だ。これにより、たとえば20代の就職時には兵庫県内や西日本から神戸市への転入が多い一方で、大阪府や東京圏への転出も多いこと、あるいは25歳代以降の結婚し始める時期に入ると、兵庫県で転出超過が大きくなることなどがわかったという。
「日本全体が人口減少にある中でも、その傾向は一様ではなく、地域によって差があり、世代ごとにも差がある。神戸市内でも地域によって状況には差が生まれている。全国一律の政策ではなく、地域に最適化した政策が必要になる」と正木氏。神戸データラボでは、北海道から沖縄までの全国すべての将来推計人口のデータが用意され、全国の自治体や企業などが、それぞれの地域で同様の分析ができる。
また、民間企業においても商圏分析などで活用する例があるほか、データ活用に関する民間企業との意見交換などの機会もあるという。
非公開データを含め利活用を効率化する職員向け「神戸データラウンジ」
一方、神戸市職員向けの神戸データラウンジでは、庁外への非公開データを含めて利用でき、グループウェアの「desknet's NEO」を通じてアクセスできる。1日平均1000件以上の利用があるという。
税務関連や住民基本台帳、国民健康保険に関するデータなど、システムごとに個別管理されてきたデータを共通基盤上に集約、個人名などを抽象化するデータ加工を経て、分析用データサーバーとしてAWS上にデータレイクを構築している。そこから、分析結果用データサーバーを通じて、ダッシュボードにより全庁共有する仕組みだ。「職員が利用するデータは個人情報ではなく、統計情報になっている。データ利活用の促進と、個人情報保護を両立した仕組み」(正木氏)。
たとえば、住基データを活用した「小学校区別・将来推計人口のダッシュボード」では、2050年までの人口を推計して指数の変化を表示。毎年更新しており、小学校区ごとの人口の状況と、公共的施設の配置状況を確認し、議論するといった活用が可能になる。
正木氏は、「データの入手や整備、分析、資料作成に多くの時間が取られ、政策議論に割ける時間が限定されていた。神戸データラウンジを利用することで、基幹システムとの自動連携でデータを入手し、BIツールを活用して直感的な操作で分析できる」と説明。BIツールで作成した資料は、そのままブラウザ上で共有もでき、資料作成までの時間も短縮できる。
データ分析が高速化されることで、政策議論のための時間が増え、さらには所有するデータが明らかになり、相互に活用するといった成果も生まれているという。
2024年4月には、小学生の体力データなどを用いて、公園の数と授業以外の運動時間との相関関係を分析し、子供の体力向上のための取り組みについて議論。「データからは、男児は公園があると体力が向上するが、女児ではその効果が低いことがわかった。そこから他の施策が必要なことが導き出せている」とした。
政策立案や日常業務で当たり前にデータ活用する仕組み作りを
現在、神戸市では、AWSの活用によるガバメントクラウドへの移行を全国の自治体に先駆けて推進。ノーコードツールの「kintone」は、全庁で2000ライセンス以上を使用し、データ分析ソリューションのTableauは全庁で71ライセンスを導入している。他にも人流データを提供する「KDDI Location Analyzar」を使用して、施設利用者の居住地を分析しているほか、地理情報システム(GIS)を毎月1500人以上が利用している実績もある。
加えて、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)のための行政データの利活用も推進している。
「官民データ活用推進基本法や、地方公共団体におけるデータ利活用ガイドブックによって、地方公共団体のデータ活用が求められている。エビデンスで現状を可視化し、政策に活用できるように、16人のデータエキスパート、213人のデータアナリスト、59人のRユーザーを育成し、庁内の19局室すべてが自らダッシュボードを作成している。Rを用いた分析では23件に着手し、13件が完了している」と正木氏。
実際に、税務部では滞納管理に活用したり、給与課では時間外勤務管理に利用したりする実績もある。また、EBPMポータルサイトを開設し、関連のページを集約、統計データやデータ分析ツールの使用方法、政策立案のための参考資料などが閲覧できるようにしている。
今後は、政策会議などの政策立案やルーティン業務に、各局が日常的にデータを用いる仕組みを構築し、それにあわせた人材育成を進めていくという。
人材育成に関しては、データエキスパート、データアナリスト、データユーザーの3階層で利活用能力を定義。それに応じた研修制度やデータ利活用の場を設けており、19局室41人の若手職員が参加したTableauのハンズオン研修では、数多くのダッシュボードが作成されたという。
神戸市が用意した研修プログラムのほかにも、職員研修所が提供する学習管理システム(LMS)でのeラーニング、総務省統計局のオンライン講座など、職員がいつでも学べるように、オンライン研修の環境も整備。さらに、庁内公募制度により、意欲のある職員がプロジェクトに参加できるようにしたり、庁内副業制度により、若い社員がデータやツールを活用できるフィールドを提供したりといった施策も実施している。