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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第228回

米Facebookユーザー、7億2500万ドルの和解金を受け取れる可能性

2023年04月24日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 Facebookのユーザーデータの利用をめぐる集団訴訟で、注目すべき動きがある。

 2023年4月19日のワシントン・ポストは、こんな見出しの記事を公開している。

 「過去16年間、フェイスブックを使ったことがありますか?あなたも支払いの対象になるかも」

 2018年、Facebookが、コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカに対し、米国のユーザー約8700万人の情報にアクセスすることを認めていたことが発覚した。

 米国ではその後、運営元のメタ・プラットフォームズを相手に次々に訴訟が提起されたが、2022年12月末に和解案に合意した。

 メタ側が支払う和解金の総額は、7億2500万ドル(約973億円)にのぼる。

 この和解の結果、2007年5月から2022年12月の間、米国内でFacebookのユーザーだったことがある人は和解金を受け取れる可能性があるという。

 この手続きのため特設サイトが開設され、Facebookユーザーを募っている。

8700万人の情報流出

 このニュースを理解するうえで、まずケンブリッジ・アナリティカを巡る一連の事件を振り返っておきたい。

 ケンブリッジ・アナリティカ(2018年に経営破たん)は、英国に本社を置く選挙コンサルティング会社だ。

 2014年、Facebook上に、性格を診断するアプリが登場した。

 このアプリは、ユーザーが質問に答えると、回答の内容から性格のタイプを教えてくれる。アプリを設置したのが、ケンブリッジ・アナリティカだった。

 約27万人が性格診断アプリを利用したが、アプリは直接のアプリ利用者の情報と、その友だちの情報も収集していた。

 このアプリを通じ、最大で約8700万人の情報がケンブリッジ・アナリティカ側に流出した。ユーザー情報は、トランプ元大統領に有利なコンテンツを表示させるために利用された可能性があるという。

 日本でも、100人ほどがこの性格診断アプリを利用し、最大で10万人ほどのデータが同社側に流出したとみられている。

 当時、ケンブリッジ・アナリティカのようなFacebookのAPIを利用する企業は、アプリを使った直接のユーザーだけでなく、その友だちのデータにもアクセスすることができたため、被害が拡大したと分析されている。

7億ドルを分配

 一連の事件が明らかになった結果、米国内では次々にメタ側を相手とする訴訟が次々に提起された。

 膨大な数の訴訟は、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に併合され、メタ側が総額7億2500万ドルを支払う和解に合意した。

 裁判所の特設サイトによれば、メタ側は一切の違法行為を認めていないが、訴訟費用などを考慮し和解に応じたという。

 この和解の結果、米国で2007年5月24日~2022年12月22日の間にFacebookのユーザーだったことがある人は、和解金の受け取りを請求することができることになった。

 和解金を原資に7億2500万ドルの基金が設立され、ユーザーに分配される。

 支払われる金額は、有効な請求をしたユーザーの数や、Facebookを利用していた期間に応じて分配される仕組みだ。

 8月25日まで、特設サイトで請求者となるユーザーを募集している。

 応募フォームを見ると、氏名や住所、メールアドレス、電話番号、Facebookユーザーだった期間などを入力する、とても簡潔な内容だ。弁護士を雇う必要もない。

 端的に言って、「請求した者勝ち」の仕組みであると思われる。ただ、8700万人の大半が、和解の存在すら認識していないのが実情ではないだろうか。

 和解はあくまで「米国内」を対象としているが、対象の期間中に米国のFacebookアカウントを持っていた人は請求者になれるかもしれない。

最短の処理を優先か

 特設サイトを見る限り、問われているのは、対象期間にFacebookユーザーであったかどうかだけだと思われる。

 原告側も被告側も、請求者がケンブリッジ・アナリティカ側に情報が流出した8700万人に含まれるかどうかを確認するつもりもなさそうだ。

 あまりにもユーザーが多いため、請求者全員について、情報流出で何らかの被害を受けたかどうかを確認していたら、何十年経っても作業は終わらないだろう。

 おそらく、確認作業にかかる時間やコストを考慮した結果、確認する手間を省き、最短時間で処理することを優先したのではないか。

 日本から見ていると、効率を最優先した米国的な解決策であるように映る。

 1人のユーザーとしては、こうした訴訟が、ビッグテックに対する個人情報の不正利用の歯止めになればいいと願う。

 しかし、973億円は巨額の和解金に見えるが、メタの年間売上高は15兆円にのぼる。そう考えると、どれだけの歯止めになり得るのかという疑問も浮かぶ。

 

筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。

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