スマホや基地局だけでなく、最近ではオーディオ分野に力を入れているファーウェイ。オーディオ関連の研究拠点のひとつは東京にある。
1987年に中国で創業したファーウェイは、現在は170以上の国と地域で製品を展開している。最近では「HUAWEI FreeBuds Pro 2 」に代表されるイヤホン製品にも注力しており、フランスの先進ブランドであるデビアレとも協業。機能の優秀さだけでなく音の良さについても注目され始めている。
ファーウェイは技術開発にも力を入れている企業だ。全世界で19.5万人にもおよぶ従業員(2021年度時点)のうち、研究開発に従事している社員の割合は54.8%と高く、研究開発費のランキングでも2021年度は、Amazonに次ぐ全世界2位の額だったという。
オーディオの研究施設は世界に6ヵ所(フィンランド、ドイツ、フランス、上海、深セン、日本)で、欧州は数理を始めとした基礎的な研究、中国は製品への実装、そして日本はドライバーなどの素材研究や音楽制作ツールなどの開発を進めている。東京研究所 音響技術研究室の角田直隆室長によると、東京研究所の従業員のうち約2割が、オーディオ関連の技術研究に従事しているとのことだ。
角田室長は「ファーウェイにおける東京研究所の価値は音楽制作の現場との近さ」であり、注力分野は立体的で臨場感あふれる「イマーシブオーディオ」(空間オーディオ)であるとした。
コンパクトだが整えられた日本の研究施設
東京研究所でオーディオについて研究しているのは、試作室などを備えた東京の品川と素材などの研究をする横浜の2ヵ所だ。
品川の研究施設では、ドライバーユニットの試作・評価ができる部屋があるほか、イマーシブオーディオをテストするためのスタジオも用意。後者では最大22.2chまでの再生が可能な環境が用意されており、Dolby Atmosや360 Reality Audioのフォーマットのデモも可能。こうしたスタジオではGenelec製のスピーカーの人気が高いが、敢えてECLIPSEブランドの製品をセレクト。同軸で点音源に近い、製品の特徴を踏まえたもののようだ。当日は比較的近距離に並べてイマーシブオーディオを体験できた。再生にはSteinbergの「Nuendo」が用いられており、こうしたDAW(音楽制作ツール)で簡単にDolby Atmosや360 Reality Audioのコンテンツが制作できるプラグインの開発なども行っていきたいとしている。
一方、横浜の研究施設は、ドライバーなどの特性を計測できる無響室が用意されており、Klippelアナライザーなどの機器も用意されていた。
芸術と技術の距離が近い、東京の利点を生かす
角田室長は「東京は日本の中でも特別な街で“芸術と技術が近い街”」だと表現。海外の研究施設との競争はあるが、アーティストと直接話しやすい、立地を生かした成果を上げていきたいとする。研究所という性質上、「2~5年先の商品搭載を想定した技術開発」が必要だとするが、「Earphones for Life」というスローガンのもと、もともと手掛けていたスマートフォン内蔵スピーカーなどスマホ向け技術にとどまらず、将来を見据えた技術を研究している。
すでに述べたように、いま注力しているのがイマーシブオーディオだ。角田室長は、1870年代に蓄音機が発明されてから始まる約150年間のオーディオの歴史において、最初の80年はモノラルの時代、その次の70年はステレオの時代だったと説明。この次にくる、大きな音響の流れがイマーシブオーディオであるとした(日本はこのステレオの時代にハードウェア、コンテンツの両面で大きな存在感を示してきた)。
イマーシブオーディオは人間が生きている世界に近い音体験を提供するともに、現実ではありえない音の動きや空間の表現も可能となる。加えて、音楽を再生するデバイスは、スピーカー中心から、イヤホンやヘッドホン中心にも変わりつつある。音楽制作の手法もPCが中心となっており、音の表現に対するアプローチが非常に多彩になっているとする。
市場ではDolby Atmosや360 Reality Audioで制作された音楽コンテンツが増えており、Amazon MusicやApple Musicなどでの配信も始まっている。ただ、現状では「魅力的なコンテンツがまだ足りず、ステレオ再生で聴いたほうが音楽的に優れていると思われている側面がある。また、手間がかかる割に製作費が確保できないという制作者側の負担も大きい」と角田室長は話す。
東京研究所では、コンテンツがない、コンテンツが作りにくいという2つの問題を同時に解決する方法を模索しているという。その一つが上でも述べた制作ツールの開発だ。将来的にはDolby Atmosや360 Relity Audioのコンテンツを同時に生成できるツールものや、特殊なスタジオ設備がなくても、イマーシブオーディオのモニタリングができるようなシステムの開発に取り組んでいきたいとしている。