フランスを本拠とする大手サプライヤー「ヴァレオ」が48Vシステムを使ったEV試作車を作りました。どのような仕組みのクルマなのか? その実力は? さらには、どんな狙いがあるのかを取材しました。
ヴァレオと48Vシステムとは
8月に実施された、ヴァレオのメディア向けEV試作車の試乗会に参加してきました。
ヴァレオはフランスを本拠とする世界的な大手サプライヤーです。提供する自動車用の部品は幅広く、LiDARなどの最先端のセンサー系をはじめ、モーターやインバーターなどの電動系、クーラーやコンプレッサーなどの熱交換器系、ヘッドライトやワイパーなどまでをカバーしています。世界だけでなく日本の自動車メーカーとの付き合いもあり、意外や日々、私たちのカーライフとも密接に関係するサプライヤーなのです。
ちなみに、ホンダが世界で初めて実用化した自動運転レベル3にもヴァレオのセンサー(LiDAR)が採用されていました。
そんなヴァレオが作ったEV試作車。特徴は、ヴァレオ製の48Vシステムをパワートレインに使っていることになります。そもそも48Vシステムとは、発電機(ジェネレーター)をモーターとして活用し、エンジンのアシスト、そして減速時のエネルギー回生を目的とするものです。すでにある12Vの鉛バッテリーではなく、より高性能なリチウムイオン電池を使い、しかも電圧を4倍にすることで、より多くの減速エネルギーを回収し、エンジンのアシスト力を高めるのを特徴とします。いわゆる48Vマイルドハイブリッド・システムとしてフォルクスワーゲン「ゴルフ」など、欧州車に採用が広がる技術です。
ヴァレオの48Vシステムを搭載した2台のEV試作車
そして実際に用意されたのが「ヴァレオ48V ライトeシティカー」と「ヴァレオ48V 4WD EV軽トラック」の2台でした。
どちらも白と緑のヴァレオのロゴと同じカラーリングになっていますが、車体そのものは自動車メーカーの量産車です。「ヴァレオ48V ライトeシティカー」はシトロエンの小型EVである「Ami」がベースで、「ヴァレオ48V 4WD EV軽トラック」はスズキの「キャリー」をベースとします。
ただし、2台の改造程度は異なります。「Ami」は、もともとヴァレオの48Vシステムが採用されていたので、改造はベース車よりも高性能化するためのバッテリーと、ソフトウェアの強化といった軽い内容。一方、「キャリー」は、エンジン車からEVへの変更、2つの48Vシステムでの4WD化など、改造範囲は多岐にわたります。ちなみに「ヴァレオ48V 4WD EV軽トラック」はヴァレオと群馬大学CRANTSとの共同制作です。
2人の大人を乗せて軽々と加速する2台
試乗会が行なわれたのは静岡県にあるとあるカート場。その外周を使って、3つの直線を結んだ三角形のようなコースでした。基本的にパワートレインだけのデモですから、直線での加減速だけを試すのがデモの主な内容です。
最初にハンドルを握ったのは「ヴァレオ48V ライトeシティカー」。これは、フランスでL6と呼ばれる小型車規格の「Ami」を高性能化したものです。報道でその存在を知る人もいるように、2人乗りのEV。キュートでユニークなデザインが最大の魅力です。現車を見るのは初めてでした。内装はプラスチッキーで、ドアの開閉ノブはベルトですし、メーターもスイッチも最小限で冷房もありません。なんとも簡素そのもの。ただし、頭上空間はたっぷりあり、ガラスルーフということもあり、閉塞感はありません。
気になるのはパワー感。そこは、EVなのでまったく問題なし。大人2人を乗せたまま、スルスルと60km/h以上までストレスなく加速してゆきます。これなら日本の道の流れにも乗っていけるだろうと思えました。わずか10.5kW(14.3PS)しかなくても、意外と普通に走れてしまうのには驚きです。
そして、「ヴァレオ48V 4WD EV軽トラック」。これは前輪と後輪に、それぞれ15kW(20.4PS)のモーターが入っています。「ヴァレオ48V ライトeシティカー」の2倍以上の出力です。ところが走らせてみれば、確かに力強いのですが、2倍速いかといえば、それほどではありません。正確な数字はわかりませんが、大柄な分だけ重くなっているのでしょう。差し引きで、似たような動力性能となっているようです。とはいえ、こちらも街中で使えそう~という手ごたえ。日本の軽自動車サイズでも、2つのシステムを使えばクルマを走らせることができるということです。
狙いは自動車メーカーではなく
小型移動体を考えるベンチャー
ものすごく速いわけではないけれど、2台のEV試作車が街中レベルであれば普通に走れることは確認できました。たった10~15kWの言ってしまえば発電機(オルタネーター)で、普通にクルマを走らせることができるというわけです。それでも、これらが高速道路を走るところまではいかないはず。また、本格的なEVやハイブリッド車を作ることのできる日本の自動車メーカーが、欲しい技術かどうかといえば、かなり微妙です。
一体、ヴァレオは、この技術を何に使いたいのでしょうか?
その点をヴァレオに尋ねてみれば、「日本のOEM(自動車メーカー)への提供は考えていない」と言います。ある意味、そりゃそうだという回答です。「そうではなく、小型移動体を考えているベンチャーを想定している」とのこと。
なるほど! そうとなれば合点がいきます。48Vシステムのようにパワーが小さければ、走行速度が低く、それだけ車体側を作るのもラクになります。48Vシステムは、パワートレインと電池がセットになっていることも開発の工数を少なくすることになるでしょう。これもベンチャーにはうれしいこと。
また、そもそも実績のないベンチャーが電動パワートレイン、しかも量産を目指すときに、世界的なサプライヤーであるヴァレオがパートナーとなってくれるのは、非常に心強いはず。
軽自動車よりも小さいマイクロモビリティは、トヨタが2020年に「C+pod」を発売したように、今後に期待されているジャンル。参入を希望するベンチャーもいるでしょう。そこに、48Vシステムというパワートレインを提供するというのがヴァレオの狙いだったというわけです。
そんなヴァレオの狙いを受けて、新しくユニークな乗り物が登場することを期待したいと思う試乗会でした。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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