理化学研究所と国立環境研究所の共同研究チームは、多数の人工知能(AI)プロセスの協働により、生態系における時間的なデータから各要素間の関係(相互作用)を推定する手法を開発。同手法を霞ヶ浦の長期観測データに適用することで、水質悪化に結び付くラン藻類の大増殖(アオコ)の要因の一端を明らかにした。
理化学研究所と国立環境研究所の共同研究チームは、多数の人工知能(AI)プロセスの協働により、生態系における時間的なデータから各要素間の関係(相互作用)を推定する手法を開発。同手法を霞ヶ浦の長期観測データに適用することで、水質悪化に結び付くラン藻類の大増殖(アオコ)の要因の一端を明らかにした。 研究チームは、ニューラルネットワークを同時に数千以上利用することで、生物・化学・物理プロセスをまたぐ複合的な観測データから、要素間の因果ネットワークを推定できる手法「エコーネット(EcohNet)」を開発した。EcohNetは、多数の再帰型ニューラルネットワークを利用して、変数の組み合わせについてその予測の良し悪しの指標である「予測スキル」を計算。予測の正しさを最大化する最小限の変数の組み合わせを得ることで、変数同士の直接の関係を相関関係と区別して評価できる。 同チームは、EcohNetを茨城県霞ヶ浦の長期モニタリングデータに適用。水温が湖沼生態系全体の構成要素に支配的な影響を与えること、植物プランクトンのグループごとに制御要因(光や栄養塩などの資源利用や、捕食・競争を通じた影響など)が異なることを明らかにした。さらに、EcohNetが生態系の変動予測に利用できることを示した。 生態系の観測データは生物量、栄養塩濃度、気象因子などさまざまな要素から構成されるため、これらの複雑な時間変動から要素間の相互作用を解明することは困難だった。今回の研究成果は、生態系の駆動プロセスの解明や予測、制御だけではなく、疾患治療や健康維持、農業技術開発など、多様な分野におけるバイオリソースの新たな活用につながるという。 研究論文は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン版に10月10日付けで掲載された。(中條)