自治体こそ頼るべきオープンデータ可視化。問われるのは活用のセンス
~アカデミア研究開発事例~【中編】
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この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
ゲームエンジンを使った都市空間シミュレーションを多数制作している文教大学情報学部情報システム学科の川合康央研究室。川合康央教授に、PLATEAUを使ったプロジェクトの実際、そして、ゲームエンジンで活用する際のポイントについて聞いた。
PLATEAUのデータは前加工してデータを軽くする
――PLATEAUのデータを、どのようにしてUnity上に持ってきているのでしょうか。
川合:FBXとOBJ、CityGMLを、それぞれ使っています。地域によっては、CityGMLしかないところもあるので。
――FBXやOBJは、PLATEAUから直接提供されているファイルを使っていますか?
川合:そのまま使っているケースもあれば、自分で変換しているケースもあります。CityGMLからの変換については、PLATEAUのマニュアルにも載っていますし、有志が作った、「突っ込んだらOBJになる」というすごく便利なツールもあります。Blenderのパーサーを作っている人もいます。いろいろあって、うまく動かないときもあるんですけれども。
[補足] CityGMLは、都市スケールの分析・シミュレーションに必要なセマンティクスを記述できる地理空間データのための唯一の標準データフォーマット。GISの国際標準化団体であるOGC(Open Geospatial Consortium)で規格化された、都市空間を三次元的に表現するためのオープンな標準化データ交換形式。建物や地形などに関するさまざまなスキーマを含むXML形式として構成されている。PLATEAUでは、3D都市モデルの表現に、このCityGMLを採用している。FBXとOBJは、CityGML形式のデータを、それぞれ3Dソフトで使いやすいように加工した形式。
――過去の論文を拝見すると、Blenderでポリゴン数を削減して軽量化を図ったとありますが、こうした工夫について教えてください。
川合:そのときの論文は、PLATEAUではなく地理院地図を使っていたころです。OpenStreetMapと組み合わせていたのですが、重複する頂点がたくさんあるのです。同じ座標にポリゴンがいくつも重なっているとか、ディテールがきちんと作られているんだけども、見えないだろうというところもありました。そこでBlender上で、ある距離よりも短い間にある2点は、一緒のものだとして考えて合わせる手法をとりました。
こうした考え方は、PLATEAUでも使います。とはいえPLATEAUのデータは、同じ頂点がほとんどありません。大きい範囲内でも4点ぐらいしか重複しておらず、本当にきれいなデータを作っていると感動しました。
ただ逆に、建物のごちゃごちゃした部分は、省略しようと思ったら省略してよいわけなので、遠景で見るような、たとえば、可視化ビジュアライゼーションするような場合は、ポリゴン数を削減することがあります。
――PLATEAUには、建物・橋・道路など、さまざまなデータが収録されていますが、どのデータを利用していますか。
川合:これまで使ってきたのは、建物と道路と地形と橋です。立体的な構造物は、かなり使います。今後は、土地利用や災害想定などのレイヤーもうまく活用できそうだと考えています。
建物については、LOD1、LOD2のそれぞれがあって、整備されている範囲もそれぞれ違います。LOD2が提供されている地域では、LOD2を使うと、みなさんテンションが上がるので使いたいところですが、広域になると重たいので、広い範囲で作る場合は、あえてLOD1を使います。
[補足] LOD(Level Of Detail)は、3D都市モデルの詳細度のこと。建物のLODは下図のとおり定義されており、LOD1は直方体のモデル(俗に豆腐モデルとも呼ばれる)。LOD2は屋根や壁などの形状、そしてテクスチャも付いたモデル。
――都市計画シミュレーションでは、木や街灯、道路標識がありますが、どのように作ったのでしょうか。
川合:基本的には、手作りです。もともとは写真をもとに手作業で作っていましたが、最近は点群データが取れますし、フォトグラメトリもあります。特に樹木では、比較的昔から、フォトグラメトリモデルを使っていました。とはいえ点群データは、やはり重たいので、それをどう軽量化させていくのかが課題です。
たとえば、過去の景観を作るシミュレーションの例では、立木については、実際にお寺さんに生えている木をフォトグラメトリで撮って、本物を加工しています。逆に人工物、街灯や電柱や電線は、手作業で作ってしまったほうが早いです。ケースバイケースで、メーカーさんによっては図面を公開しているところもありますし、実際にある交差点であれば、そこに行って測定しています。
またUnityの中にも、アセットが多少あります。日本の景観や交通標識などのアセットを使うこともありますし、3Dモデルを販売しているところでも、土地構造物は比較的共通利用できるものでもあるので、そういったものも利用することもあります。
[補足] アセットとは、Unityのストアのなかで購入できる3Dモデルやプログラムなどの構成要素。有償のものも無償のものもある。
PLATEAUだけのデータを使うなら簡単。ほかのデータと組み合わせると複雑化する
――PLATEAUとほかのデータとを組み合わせる場合の注意点について教えてください。
川合:PLATEAUを使う場合は、PLATEAUのデータだけを使ったほうが安全といえば安全です。国土地理院やOpenStreetMapなどの、さまざまなデータを組み合わせると、大変になることがあります。
これまでは、さまざまなデータを組み合わせざるを得ない状況でした。地理院地図だけでは完結できないので、ほかのデータを組み合わせるわけですが、その調整が大変でした。PLATEAUのように、ひとつの標準化された規格に則って、こうした3Dデータを集約していく事業は、とても助かります。
――前編では、地図の位置が合わないときは、4点を無理やり合わせるというようなお話もされていましたが。
川合:地図屋さんからすると怒られる話で、実際、GISなどの専門家や学会などで、じつはものすごく怒られたことがあります。「そんなものはおかしい。地球は丸い」「お前らは地球を平面だと思っているんだ」と(笑)。そのあたりも難しい部分です。
――ですが現実的には、そうしないと結局、データとして合わない場面もありますよね。
川合:用途によると思います。少し広範囲で見せようとすれば、球面であることを考慮する必要があります。しかしたとえば、ある交差点1個の範囲であれば、地球は別に平面であっても問題ないので、むしろ、そこでの交通事故をどう再現するかというところに注力すべきだと思います。
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