3D都市モデル構築のトップランナー、国際航業が考える「サステナビリティの条件」
3D都市モデルPLATEAUは我々をどこに連れていくのか? 〔国際航業編〕
国土交通省が推進する、3D都市モデルの整備/活用/オープンデータ化の取組み「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度は、PLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」において、幅広い作品を広く募集している。賞金総額は100万円となっている。
「3D都市モデルPLATEAUは我々をどこに連れていくのか?」と題する本特集では、PLATEAU AWARD 2022を協賛する5社に、現在のProject PLATEAUとの関わりだけでなく、各社がPLATEAUの先にどんな未来を思い描いているのかについてインタビューしていく。
今回は、空間情報を活用とした国や自治体へのコンサルティング、社会インフラのマネジメントといった事業を手がける国際航業である。同社は2020年度のプロジェクト始動時からPLATEAUに参画し、東京23区の3D都市モデルなど、これまで「PLATEAUの3D都市モデルを日本一多く作ってきた」実績を持つ。静岡県沼津市において、国内初実証となるLOD3の高精細3D都市モデルを構築したのも同社だ。
そんな国際航業はどんな思いでPLATEAUに取り組み、その先にどんな未来を見ているのか。同社 公共コンサルタント事業部で中央官庁向けの営業企画を担当する福島大輔氏、同事業部で自治体向けの営業企画を担当する繁田啓介氏に話をうかがった。聞き手を務めるのは、角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。
国内数十都市の3D都市モデルを作成、LOD3の高精細なモデルも手がける
――(アスキー遠藤)まずは国際航業とはどんな会社なのか、簡単にご紹介いただけますか。
福島氏:国際航業は、ミッションとして「空間情報で未来に引き継ぐ世界をつくる」という言葉を掲げていますとおり、空間情報を活用して公共コンサルタント事業、インフラマネジメント事業、防災環境事業、LBS(ロケーションベースサービス)センシング事業といったビジネスを展開する会社です。売上高は380億円程度、従業員数が1800名ほどとなります。
各事業に共通することですが、データを取得して「測る」、データを解析して「診る」、それをソリューション化して「役立てる」という大きく3つの領域をカバーしています。航空機だけでなく人工衛星、ドローン、自動車、船舶まで、さまざまな手法を用いてデータを取得し、それらのデータを組み合わせて新たな情報を得る、さらにはそれを具体的なソリューションとして、課題解決に結びつけることまでができるわけです。
――空間情報を使って公共やインフラ系の事業をやってらっしゃるとなると、まさにPLATEAUの世界ともドンピシャですね。国際航業は「PLATEAUの3D都市モデルを日本一多く作ってきた会社」だとうかがったんですが。
福島氏:そのとおりです。PLATEAUについては、プロジェクトが始動した2020年度から参画しています。初年度はまず、PLATEAUの第1弾モデルとなる東京23区全域の3D都市モデル作成を担当しました。それを皮切りに全国でもモデル整備が始まりましたが、ここで14都市の3D都市モデルも作成しています。
続く2021年度にはより高度なユースケース、スマートシティ向けのモデル作成も担当しました。ここでは沼津市(静岡県)における、詳細なLOD3モデルの国内初作成にも取り組みました。
――LOD3というと、建物の外観まで詳細に再現した3D都市モデルですよね?
福島氏:はい。ただし沼津市のケースでは、建物に加えて道路のLOD3モデルも作成しました。建物の壁にドアや窓、あるいは看板といったものが付いているだけでなく「車道と歩道にある15cmの段差」、あるいは「車道の2cm」の切り下げ部といったものまで表現しています。
――えっ、そんなに細かい部分まで?
福島氏:そうなんです。もちろん沼津市全域というわけではなく、沼津駅から沼津港までの通り沿い2kmほどのエリアです。静岡県がこのエリアで自動運転車の実証実験を行うということで、それと連携するかたちでLOD3のモデル整備を行いました。
これだけ詳細な3D都市モデルを作るためには、かなりの工数もかかります。今回も、ベースとしては静岡県などが測量した既存のデータを使いつつ、詳細な部分を当社で補足していきました。たとえば建物のテクスチャ(表面画像)ですが、自動車で走行しながら自動撮影したものだと解像度が低いので、現地に行き手持ちのカメラで再撮影をするなどしています。このモデルが、現時点のPLATEAUが持つ最も詳細なモデルと言っても過言ではないです。
PLATEAUではまず全国100都市にカバレッジを拡大することを目標としていますが、全体としてはLOD1やLOD2でモデルを作っていきます。そのうえで、各都市で行われるユースケース開発に応じてより詳細な(LOD3以上のレベルの)モデルを作るというかたちです。
――(沼津市のデモ映像を見ながら)わあ、なんだか怪獣映画のCGの世界みたいですね(笑)。今年度(2022年度)の取り組みはどうなんですか?
福島氏:今年度は引き続き全国の20都市以上で、高度なユースケースに対応する3D都市モデル作成を進めています。また国交省や自治体に加えて、デジタル庁の「デジタルツイン構築に関する調査研究」事業にも参画して、PLATEAUの3D都市モデル構築を行っています。
国際航業はもともと、自治体の地図整備や運用支援をなりわいの1つとしてきたのですが、これからそこに「3D」が加わっていくものと捉えています。ですので、今後は3Dも含めた自治体の地図データ整備、地図データベース運用全般についても、コンサルティングを行っていくことになると考えています。
――なるほど、2Dの地図だけじゃなくて3D都市モデルも活用するのが当たり前という時代が、もうそこまで来ているという認識なんですね。
3Dでビジュアライズすることで住民の意識と行動を変える
福島氏:国際航業の特徴としてはもうひとつ、3D都市モデルの整備にとどまらず、その先のユースケース開発まで対応できる点があります。特に自治体のお客様はパッケージでの提案を望まれるケースが多く、一連の事業を当社がトータルでコーディネートするのが効果的だと考えています。当社単体で提供できるユースケースは限られますので、他の企業とのコラボレーションを通じてラインアップを増やす努力をしています。
――具体的なユースケースをいくつかご紹介いただけますか。
繁田氏:はい。まず前提として、抱える課題というものは地域ごとに異なります。たとえば都市部と地方部では、まったく違う課題があるわけです。われわれはその地域の課題に応じたさまざまなユースケースを提案しています。
現在取り組んでいる防災関連のユースケースとして、たとえば「木造密集市街地解消のためのプラットフォーム」というものがあります。
――木造住宅の密集地は火災が起きたときに延焼しやすい……というのはわかるんですが、そのシミュレーションはすでにいろんな都市でやってますよね。それがPLATEAUとどうつながるんですか?
繁田氏:これまで自治体では「2Dで」延焼シミュレーションをやってきました。ここで火災が発生したら、何時間でここまで延焼するおそれがあるというシミュレーションですね。主にこれは自治体側の都市計画、街づくりに活用されてきました。「延焼を食い止める延焼遮断帯として、ここに都市計画道路を通そう」などと検討するための資料です。
ただし2Dの地図ベースだと、住民にはそのリスクがリアリティをもって伝わらず、防災意識にもつながりません。ここで3D都市モデルを使ってビジュアライズしてあげると、2Dのシミュレーションでは出せなかったリアリティが出てきます。これにより、住民がリスクを「自分事」として受け止め、意識変革や行動変容につながっていくでしょう。また延焼遮断帯として都市計画道路を通す場合でも、「街並みはこう変わります」「延焼をここで食い止めて被害が抑えられます」とビジュアライズできますから、住民に対して説得力のある説明になると思います。
――ほかの取材でもしばしば「3Dにして見せることで合意形成がしやすくなる」と耳にしますが、まさにそういうことですね。すごく納得できます。
繁田氏:ほかのユースケースとしては「空き家解消のためのプラットフォーム」があります。近年、空き家の増加が社会問題になっており、自治体では「特定空き家」に指定するなどの対策を行ってきました。固定資産税の優遇措置を非適用にすることで、空き家の撤去を促すというものですね。
一方で、われわれが3D都市モデルを使って取り組んでいるのは、個々の空き家の「価値」を伝えることで空き家状態を解消しようというものです。たとえば「この空き家は災害に強いエリアにありますよ」とか「この立地条件ならこんなに日当たりがいいですよ」などと、これまで2Dの地図では表せなかった価値を客観的に示せるのではないか、そのためにこのモデルを使っていこうと検討を進めています。
――3D都市モデルを使って、これまでとは違った側面から空き家の価値を見せることで活性化させられるんじゃないかと、そういうことですね。
繁田氏:そうです。これは行政主導の動きではありますが、民間の不動産業者などのステークホルダーも巻き込んで、空き家問題を新しいレベルで解消していこうという動きにつながっています。これまで国際航業は自治体の地図を作ってきましたが、新しい3D都市モデルというものが触媒となり、いろいろな企業が声をかけてくださるようになっています。
それから企業が3D都市モデルやPLATEAUに注目するのは、今の時代の文脈というのもありますよね。デジタルツインであるメタバースが注目されている中で、国土交通省が3D都市モデルというものを出したらしいと。じゃあ自分たちも、これまでできなかった社会課題に向けたビジネスが何かできるんじゃないかと考える。実際われわれのところにも「そもそもどうやって作られているのか」「どんなユースケースがあるのか」などと、いろいろな企業から相談をいただいています。
課題はモデル構築の“コスパ”とサステナビリティ、解決には市場が必要
――これからの展望についても聞かせてください。これまでPLATEAUの3D都市モデルを数多く作ってきた中でわかったこと、今後はこういう価値が高まっていくんじゃないか、こんなことに使えるんじゃないかということ。何かあるでしょうか。
福島氏:われわれは今まで2Dの地図を作ってきました。そこでは3Dの現実空間を抽象化して2Dに落とし込むことが「あるべき姿」だったんですね。たとえば地図記号や等高線といったものに抽象化して2Dに落とし込むのが、地図としての役割だったんです。
それが今は変わってきていて、現実空間をよりリアルに計測して、リアルなまま表現する、そしてリアルなほど価値が高まる――。そんな時代になったのかなと実感しています。
――これまで抽象化しなければ扱えなかった情報量が、コンピューターやネットワークの能力が高まったことで扱えるようになった。そこに新たな可能性があるというわけですね。
福島氏:これまでは「そんな膨大なデータを作っても動かないよ、実用的じゃないよ」と言われてきましたけれども、現在はデジタルツイン、メタバースと進化が著しいですから。われわれとしても、思いっきりデータを作っていい世界が待っていると、そんな意識に変わってきました。
――ぜひ思いっきりデータを作ってください(笑)。繁田さんはいかがですか。
繁田氏:わたしはそれに加えて「未来予測ができること」が重要だと考えています。先ほどの延焼シミュレーションもその一例ですが、現在ある街並みが未来はどう変わっていくのか、その未来予測を過去からの推移も含めてビジュアライズできる。そうした環境の提供はまさに行政サービスの向上であり、いわゆる“まちづくりのDX”にもつながっていくのではないかと思います。
現在を「As-Is(ありのままの姿)」で表しながら、未来の「To-Be(あるべき姿)」のビジュアライズまで持って行けると、地域住民の意識も変わってくるのではないでしょうか。
――未来予想図をビジュアライズできれば説得力も高まりますよね。一方で、これからの課題としてはどんなことがあると考えていますか。
福島氏:モデル整備が「コスト」になってしまうと、新たなユースケースが生まれるときに足を引っ張ってしまう。ですから、より安く効率的にLOD3のようなモデルのモデル整備を進める方法、あるいはコストをかけてでも価値を生み出せるモデル整備のあり方、そうしたものを追究したいと考えています。
――モデル整備のコストを下げるには、具体的にどんな方法があるんですか?
福島氏:やはり「自動化」が鍵を握ると考えています。これまでの詳細なモデルを作るプロセスはほとんどが人力で、作業員が“職人”のように作ってきたわけです。このプロセスをより自動化していく、自動的にモデルを生成するという研究を今まさに進めているところです。
もうひとつがデータの取得プロセスですね。沼津市では作業員がテクスチャを撮影して回ったという話をしましたが、そういう人が関与するプロセスを減らさなければならない。たとえばクラウドソーシング方式で、誰かが撮影した街の写真やiPhoneのLiDARスキャナで取得した3Dデータを、きちんと地図の精度を担保したうえで集約してモデル化することができれば、整備コストは格段に落ちると思いますし、情報の新鮮度を保つことにもなるでしょう。
――みんなの力で街の3Dモデルを作る、アップデートしていくというのは面白そうですね。
繁田氏:わたしもモデル整備のコストパフォーマンス、それからサステナビリティが課題だと感じています。現在のPLATEAUは官主導で作られていますが、いつまでも100%官のリソースで更新し続けられる時代ではありません。そこに精度を担保しながら民間のリソースをどう取り込んでいくのかというのは、わたしたちにとって非常に重要な課題です。
3D都市モデルの整備にはコストがかかったけど、その結果こんな新しいビジネスが生まれたよねとか、行政の管理がこれだけ効率化したよねとか、そういった点が肝心ですから、われわれ事業者にとってはそうしたサステナビリティの担保が求められていると感じます。
――コスパとサステナビリティですか、なるほど。PLATEAUを活用したビジネス、市場がこれからどんどん立ち上がってくることがとても大切なんですね。
福島氏:そのとおりです。実は国際航業ではPLATEAUが始まるずっと前、十数年前から3D都市モデル作りに取り組んできました。その技術的な蓄積が現在のPLATEAUで生かされているわけですが、取り組みの当初はまだ市場もなく、民間のニッチな領域を対象にデータ整備を行っていました。
今回のPLATEAUというプロジェクトはまさに公共分野で、しかも全国的に3D都市モデルを普及させていくという事業です。市場がなくて長年苦しんできたわれわれにとっては渡りに船という状況でしたので、「全社を挙げて取り組むべきだ」ということでプロジェクトを組成し、力を注いでいます。新しいビジネス、市場の立ち上がりには大いに期待しています。