日本最大のスポーツ、健康産業の総合展「SPORTEC2022」が2022年7月27日から29日にかけて開幕した。約650ものスポーツに関わる企業や団体が「最新の製品や技術」を展示。スポーツとテクノロジーを掛け合わせた最新の取り組みも数多く出展しており、その中から注目の展示をピックアップして紹介する。
約650もの企業、団体が出展
先述のように、会場内には約650もの企業、団体が出展。中にはスポーツ庁主催の「INNOVATION LEAGUEコンテスト」で表彰された株式会社シンクの「防災スポーツ」など、当コーナーで紹介したサービスやコンテンツの出展も複数見られた。
スポーツアカデミックフォーラムのブースでは、東京大学や立命館大学などが、スポーツ科学における研究結果や最先端のを取り組みを紹介。他にも、トレーニング機器やトレーニングのサポート食品、スポーツ施設向けの会計システムの紹介などさまざまな出展があり、多くの人でにぎわった。
脳科学のアプローチで野球の練習が変わる
数多くの出展の中で目を引いたのが、「スポーツ脳科学プロジェクト」と「VR野球シミュレーション」の2つを出展していた「NTTコミュニケーション化学基礎研究所/NTTデータ」のブース。「スポーツ脳科学プロジェクト」は、従来のボールの動きや回転といった物理計測に加え、そのボールを見る打者側の「知覚」も計測し、投球を解析するというもの。
「バットが当たるようにスイングしたつもりだったのに、ボール1個分ずれていた」というのは、プロ野球でよく見るコメント。つまり、実際のボールと打者の認識にズレが生じている。なぜこうしたことが起こるのかの知覚メカニズムは未解明だが、そこを解き明かす一歩として、ボールの動きと打者の感覚のズレを「脳科学」の側面で解析。その結果、打者は投手の投球動作から軌道を予測していることが判明。この予測が実際の投球とのズレを生み出していると分かったとのこと。
実際にVRを用いた研究では、ボールの動きは同じなのに、投球動作を変えることで打者の認識(ズレ)が変化することが分かったという。認識のズレを解析できればより実践的な打撃練習が行える。また、別の運動分野でもこのテクノロジーが活用できると期待されている。
VRを活用したスポーツトレーニングシステムが増加
「VR野球シミュレーション」は、全周囲映像と投手映像を組み合わせ、「実際にその投手が投げているシーン」を生成。ここに実データを基にした投球の軌跡を組み合わせることで、VE上にリアルな対戦打席が生み出せる。例えば、実際の球場映像に楽天の田中将大投手の映像と投球データを組み合わせることで、「田中投手との対戦」が再現できるというわけだ。
一般的な打撃練習はピッチングマシーンよりも、リアルで実践的な練習ができ、さらに何度も同じ投手、同じシーン、同じ投球が再現できるのが利点。対戦したことがない投手相手のシミュレーションや、投手が自身の投球を見直すことにも活用できるだろう。
こうした、VRを活用したスポーツトレーニングシステムが多く登場しており、会場内にも上記の「VR野球シミュレーション」のほか、複数の出展が見られた。例えば、「シンフォニア株式会社」が出展した「SPORTS VR TRAINER」は、野球とサッカーの2つのスポーツトレーニングに活用できるもの。野球用の「BASEBALL FIELDING」は、守備に特化したもので、VRを用いることでノッカーがいなくても練習が可能。「SOCCER COGNITIVE TRAINING」はパスを受けた際の瞬時の判断力を鍛えられる。
VRを活用すれば、一人でも練習が可能になり、指導者不足、人出不足の環境でも効果的にトレーニングが可能になる。今後大きく伸びていくであろう分野だ。
体の状態の「見える化」に挑戦する
新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、これまで以上に健康を意識する人が増えた。そのため、トレーニングブームが過熱している。会場内にもトレーニングをサポートするサービスやツールが数多く出展されていた。
例えば、筑波大学初のベンチャー企業「Sportip」は「AIが姿勢と歩行を解析するアプリ」を出展。アプリで撮影するだけで、体の動きや筋肉の状態を可視化することができ、例えば歩き方の改善や効果的なトレーニングのほか、リハビリなど医療での活用も期待されている。
また、「見える化」という点では、立命館大学が研究している「着るだけで生体情報が分かる服」も興味深いものだ。0.3mmの導電性ペーストを使用した生体センサーが複数装着されていて、着るだけで体温や心拍数、呼吸、発汗などを測定できる。データはスマートフォンに送ることが可能。将来的には、スポーツトレーニングや競技中の選手の状態把握といった場面で活用されるだろう。
「SPORTEC2022」での出展のうち、興味深い取り組みをピックアップしてご紹介した。すでにスポーツチームで使われている最新のシステムや、基礎研究段階の技術など幅広く見ることができた。この中から、日本のスポーツ界を変えるようなサービスやシステムが登場するのか。今後も注目したい。