学校の部活動において課題になっているのが「教師の残業問題」と「未経験者による部活指導」及び2025年までに実施される公立中学校の部活動の地域移管における「スポーツクラブの指導者不足」だ。特に地方など人口の減少地域では人材不足が深刻で、満足な指導ができずに技術が向上せず、結果的にスポーツ全体のレベルダウン、引いてはスポーツ文化の衰退につながる可能性もある。こうした人材不足という課題を解決できるのではと期待されているのが、ソフトバンクが提供する「AIスマートコーチ」だ。
お手本動画を見ながら基礎を学ぶ
2022年3月31日に提供がスタートした「AIスマートコーチ」は、筑波大学の監修による「お手本動画」や「解説動画」を見て学ぶことができる無料のトレーニングアプリだ。自分の姿をスマートフォンのカメラで撮影し、お手本動画と重ね合わせて動きを比較したり、AIによる骨格推定機能で、体の動きをより細かく分析したりできる。撮影したデータはアプリ内に記録でき、例えばバッティングフォームの変化など、上達の模様を振り返ることも可能だ。
さらに、2022年7月1日には骨格解析機能で動画のマッチ度(%)を測定できる新機能をリリース。お手本と自分のフォームを数値で客観的に比較することで、理想のフォームへの成長度(達成度)を可視化できる。
また、動画視聴以外には、「スマートコーチ」という、専門のコーチが遠隔指導を行う有料コンテンツも備えている。コーチが課題を出し、実際に指導内容に沿って運動した模様を撮影。その動画を基に、コーチが改善点などを指導するという仕組みだ。基礎技術をしっかりと固める際はもちろん、基礎から一歩先に進みたい場合にも非常に有用なコンテンツといえる。
現在、「AIスマートコーチ」で指導が受けられる競技はバスケットボール、ダンス、サッカーの4競技。今後15種目にまで拡大する予定だ。
筑波大学と学校スポーツの改革を目指す
「AIスマートコーチ」の提供の背景には、筑波大学とソフトバンクとの間で結ばれた「日本の学校スポーツ改革」に関する連携協定がある。筑波大学では、地域全体でのスポーツ文化を育成やスポーツのビジネス展開を目的とする「スポーツ支援プラットフォーム」の構築を目指している。この考えに賛同したのがソフトバンクだ。
ソフトバンクは、福岡ソフトバンクホークスなどに早くからITの技術を取り入れ、より効果的なトレーニングや指導を模索してきた。また、育成面だけでなく、チケット購入や入場ゲート管理といった運営にもITを活用してきた。同社が持つ技術やノウハウを基にスポーツのDX化を図り、競技者、指導者、地域の課題解決と発展を目指すのも、本連携の目標でもある。
「AIスマートコーチ」も本連携の重要な取り組みのひとつ。ソフトバンクでは、2015年から専門コーチによる「スマートコーチ」の提供していた。その際はBtoCでのサービスだったが、2018年ごろから社会貢献の視点で何かできないか検討した結果、「部活動支援」を含めたサービスを展開することになった。加えて、今回の筑波大学との連携もあり、AI骨格推定機能を搭載し、より効果的に指導できるアプリへと進化したのだ。
利用者は「AIスマートコーチ」を高く評価
「AIスマートコーチ」の魅力は、インターネットが利用できる環境であれば、どこでもスポーツ学習ができる点だ。例えば離島など、指導者が不足し、部活動支援も簡単ではない地域でも、本サービスを利用することで基礎技術を学べる。また「スマートコーチ」をを利用すれば、より具体的な指導も遠隔でいつでもどこでも受けられる。
スマートフォンやタブレットを使い慣れている小学生は、こうしたITツールでの指導に親和性が高く、特に学習効果への期待が大きい。ソフトバンクが岩手県や愛媛県の小学校で行った指導体験では、利用した小学生や指導者から「役立った」「便利だった」「楽しかった」などの反響があり、特に「動画でお手本と比較するツール」が高く評価されたという。
本サービスを活用することで、指導者不足の解消だけでなく、スポーツ指導の方法やあり方が大きく変わる可能性がある。今後はコーチング機能や大人数での指導などへの対応も検討しているとのことだ。
日本スポーツ界の今後の発展において、若年層への効果的な指導は欠かせない要素だ。しかし、過疎地域では教える人材が不足し、さらに新型コロナの影響もあって満足な指導が行えていないのが現状。「AIスマートコーチ」をうまく活用することで、一気にこれらの課題が解決できる可能性もある。さらなるサービス拡張・発展も予定されているとのことだが、「AIスマートコーチ」の今後に期待したい。