板橋区立板橋第八小学校(以下、板橋第八小)のPTAはLINE WORKSを導入したことで、長年の課題であったペーパーレス化を実現。さらに翻訳機能を活用した多言語交流や保護者どうしでアイデアを出しあうコミュニケーションプラットフォームに成長している。施策をリードした板橋第八小PTAの寒川直樹会長に話を聞いた。
変えなければという想いを受け取った会長 IT活用を一気に推進
板橋区立板橋第八小学校(以下、板橋第八小)は300人程度の児童を抱えるごくごく普通の都内の公立小学校だ。板橋第八小を支えるPTAが抱えていた課題も、他の公立小学校と同じようなものだったという。
たとえば、書類の作成は校内のPTA室にあるパソコンでしか行なえず、印刷も校内の印刷室でないとNG。当然、データの持ち出しはUSBメモリのみなので、書記はプリントを作成するたびに長時間ボランティアを強いられる。繁忙期は月に5日間有休を取らなければ終わらないレベルだったという。しかも。決して多くない児童数。PTAのなり手も少なく、一人ひとりの負荷も大きかった。
さまざまな課題を抱えるPTAだったが、なかなか変化は難しかった。約十年前、板橋第八小は生徒が100人を切る廃校の危機にあり、教師や職員が少なかったため、PTAが学校行事を支えていた時代があった。生徒数が300人以上に膨らんだ今、そのときに作ったルールは実情に合わなくなっているが、変えることに抵抗感を持っている人も多かったという。課題解決のためのIT活用も長らく模索していたが、なにしろ知識がなかった。
2021年にお子さんが入学した会長の寒川氏は、そのままPTAの会長になり、IT企業に勤めている経験を活かし、IT活用を一気に推し進めた。「初めてのPTAのミーティングで、なんとかしなければという前任のメンバーの強い想いを受けとりました。その意味では機は熟していました。私はPTAはわからないけど、ITならわかる。じゃあやろうかという感じです」と語る。
1000人であれば全学年の保護者が入れる 登録率は97%へ
そんな板橋第八小PTAがLINE WORKSを導入した直接のきっかけは、コロナ禍で保護者どうしのつながりが一切消えてしまったことだ。
ご多分に漏れず、板橋第八小も、2020年はほとんどの学校行事がなくなり、昨年の行事も数えるくらいだったという。コロナ禍以前につながりができていた3年生以上はともかく、コロナ禍以降の1・2年生の親御さんどうしで新しい人間関係を作れなかった。寒川氏は、「去年の入学式の後に保護者会が開催されて以降、今年6月の運動会まで親御さんどうしは会う機会がありませんでした。会う機会がなければ、そもそもLINEどうしでつながることもできません」と語る。
保護者どうしがつながれるツールとして2021年7月頃に検討を始め、ほかの地域の事例を聞いた結果、候補として挙がってきたのがLINE WORKSだった。寒川氏はもともと職場でチャットツールを使っており、LINE WORKSを検討したこともあった。「ずいぶん前に地方自治体のチャットツールの導入に携わったこともあるのですが、当時からLINEの企業版があればいいなとは思っていたんです」と振り返る。
導入の決め手は、NPO法人などの非営利団体向けのLINE WORKSの特別プランだ。通常のフリープランではユーザー数が100名、ストレージ容量も5GBまでのところ、特別プランであれば無料で1000人まで利用でき、ストレージも50GBまで利用できる。「1000人であれば全学年の保護者が入れます。今はまだまだお母さんが多いですが、お父さんにも入ってきてもらって、子供の教育について話し合いできたらと思いました」(寒川氏)
とはいえ、導入は試行錯誤だった。最初はアカウントと初回パスワードを配布していたが、負担が大きかったので、QRコードでユーザー自ら作成する方法に変えた。複数の子供に対して1つのアカウントという運用でもOK。「いろいろな意見があるので、登録もまずは9割を目指し、残り1割は無理に追わないことにしました」(寒川氏)
一方で、導入時には「LINEと違って、LINE WORKSでは管理をします」と宣言した。トラブルに発展する前に、履歴を追い、トークに介入することを明確にしたという。これはパブリックなサービスのLINEでは難しい、ビジネス向けのLINE WORKSならではの特徴だ。寒川は、「確かに会った時はそうでもないのに、言い方がキツい方って一定数います。その場合は、履歴を見せてもらって、本人にたしなめたりしました」という。そのほか、LINE WORKSを用いた写真の共有ルールもきちんと決めるなど、いくつか簡単なルールを決めたという。
ふたを開けてみれば登録率はなんと97%。環境整備を進め、今年からPTAを任意加入にしたこともあり、ほとんどの保護者がPTA加入とLINE WORKS登録を行なったという。現在、LINE WORKSの組織は学年ごと、グループはクラスごとに構成されており、学年委員が構築・運用を行なっている。「普段、仕事が忙しいというお父さんでもLINE WORKSなら参加できると言ってもらっています」(寒川氏)。