実は長いフロッピーディスクの歴史を振り返ろう
先日、河野太郎デジタル大臣が、行政手続きの申請でフロッピーディスクでの提出手続きを撤廃する方針を出しました。記憶に新しいところでは、山口県阿武町で新型コロナ給付金を誤って振り込んでしまったニュースでも、町役場と金融機関とのデータのやり取りがフロッピーディスクだったと話題になりました。その時の反応は総じて、「まだフロッピーディスク使ってたのか!?」です。
さすがに今の時代、データの受け渡しはクラウドが主だし、物理メディアだとしてもUSBメモリーやSDカード、SSD/HDDドライブでしょう。なんともツッコミ入れたくもなりつつも、懐かしい気持ちにさせてくれるフロッピーディスクというワード。
そんなフロッピーディスクの思い出といえば、1980年代のNEC PC-88シリーズや富士通のFM-7、シャープのX1Cといった8ビットパソコン時代。パソコンの記録媒体がカセットテープだった頃、ロードの遅さに辟易していたところに現れた5.25インチのフロッピーディスクの画期的なこと! フロッピー(floppy)は“ペラペラの”円盤という意味です。近未来を体験しているぜ! と思えるくらいにスゴいメディアだと当時は思っていました。
フロッピーディスクシステムは長く、元は1967年にIBMで開発された規格です。大雑把に流れを説明すると、コンピューターのプログラムやロードを「トグルスイッチ」や「パンチカード・パンチテープ」といった機械的に行なっていたものから、オーディオ用のカセットテープが使われるようになり、その後に8インチや5.25インチのフロッピーディスクが世界中で爆発的に普及しました。そして、フロッピーディスクドライブを初めて搭載したパソコンは、アップル社が1977年に発売したApple IIでした。
ちっともソニーと関係なさそうですが、ここからです、ここから。
世界中で普及した3.5インチのフロッピーディスクは
ソニーが作り上げた
ソニーの社内では「90年代はコンピューターがわからない企業は生き残れない」という危機感もあり、携わる「英文ワープロ」の一部の部品としてフロッピーディスクシステムの開発が始まったそうです。そして、ソニーが長年培ってきた映像技術、磁気記録技術、半導体技術に最新の技術を加えて完成したのが、「3.5インチ・マイクロフロッピーディスク(MFD)」なのです。
それまでのフロッピーディスクは、薄い樹脂製の黒いジャケットに磁気シートを収めたタイプで、まだまだ大きく、磁気シートに手が触れてしまったり、ホコリも入ってしまうといった弱点を抱えていました。一方で、3.5インチに収まった小さなフロッピーディスクは、厚さ3.4mmのプラスチックケース入りで、しかも記録容量は1MBという大容量。硬いプラスチックケースに磁気シートが入っているため折れ曲がる心配も少なく、耐久性も大きく向上しました。
まさに今までのフロッピーディスクの常識を塗り替える新しい記録メディアとして、1980年12月に3.5インチMFD用ドライブが組み込まれた英文ワープロシステム「シリーズ35」、タイプコーダー(ワープロ機能を備えたタイプライター)を発表。日本国内でも1983年1月に「シリーズ35」が発売されました。
この頃、各社から似たフロッピーディスクがたくさん発表されました。松下電器・日立製作所・日立マクセルの3社が「コンパクト・フロッピー」という3インチのフロッピーディスクを発表。ほかにも3.25インチや4インチと、もはや規格が乱立状態になるのは、もはやお約束というべきか。その激しい規格競争をくぐり抜け、1984年には、3.5インチは日本やアメリカそれぞれで国際規格として認められる事となり、HP社に続いてアップル、IBMへと採用され、まさに世界で使われる記録メディアとなったのでした。
改めて思い返してみると、3.5インチフロッピーディスクは何しろ安くて手軽なこともあって人とのデータのやり取りには最高な記録メディアでした。記録密度の違いによって最大720KBの「2DD」と最大1.44MBの「2HD」という2種類がありました。やっかいだったのは、「DOS/V用」「PC-98用」「Macintosh用」「ワープロ専用機用」といったフォーマットの違いがあって、お店でも売り分けられていたこと。お使いに頼んだものの、間違ったタイプを買ってきて読み書きできないというトラップ。
フォーマットすれば使えるのですが、記録されていたデータは当然消えるので、今度はフォーマットして大切なデータが消えた! なんて悲劇も。また、PCの起動ディスクとして使われる事もあるため、フロッピーディスクをドライブに入れっぱなしにしたままPCの電源を起動すると、いつものWindows画面でなくて真っ暗画面にテキスト文字がでてきてさぁ大変! 「パソコンが壊れた!」なんて騒ぎも日常茶飯事でした。
パソコンの普及とともに3.5インチフロッピーディスクは、すっかりPCの主要な記録メディアとなったのですが、2000年を過ぎたあたりからUSBメモリーやネットワークの発達など、これもまた時代の変化とともにその主役の座を明け渡していく事になっていきました。1981年に3.5インチフロッピーディスクを世界に先駆けて発売したソニーも、2011年3月末をもって販売を終了。おそらく今となってはまったくいいほど利用されておらず、そもそもフロッピーディスクすら見かける事もなくなりました。
あの保存ボタンの意味を若い人たちは知らない
マイクロソフトのオフィスアプリなどにある保存アイコンは、フロッピーディスクをイメージしたもので、僕たちにはすんなりと受け入れられていますが、若い人たちは元が何なのか知らない人たちもいるかもしれません。あのスマホの通話アイコンが、かつての電話機を表したものだと知らないのと同じように……。
奇しくも筆者の故郷である山口県のちょっとした事件が全国区になってしまったニュースと、デジタル庁の河野大臣の「フロッピーディスクはやめるぞぉ!」の話題で、そんなフロッピーディスクを思い起こせる事となりました。
最後のフロッピーディスクとなった3.5インチフロッピーディスクは、ソニーが開発したのかーと思いにふけってもらえると幸いです。
筆者紹介───君国泰将
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