モーダル小嶋のTOKYO男子めし 第67回
まろやかな味わいではなく、濃いめの味付けがポイント:
松屋の790円「ハッシュドビーフ」は「贅沢グルメ」と呼べるのか
2022年04月27日 16時00分更新
「カットステーキのハッシュドビーフ(ライス・みそ汁付)」
松屋
790円
4月26日発売
https://www.matsuyafoods.co.jp/matsuya/news_lp/220426.html
ハッシュドビーフ×2種の牛肉という合わせ技
「ハッシュドビーフ(Hashed beef)」といえば牛肉をデミグラスソースで煮たものですが、「hash」という英語が料理で使われる場合、デミグラスソース(あるいは肉汁のスープ)で煮込む系の料理を指すこともあれば、ハッシュドポテト系の料理を指す場合もあります。けっこう、ややこしい名前なのです。
ちなみに海外では、「Hashed beef」なる料理は18〜19世紀の料理本にちらほら出てくるものの、中身はけっこう異なっていたようです。イギリスの古い本には「ローストビーフを薄切りにしてピクルスなどと煮込む」とあったり、アメリカの古いレシピには「牛肉を薄切りにして、たまねぎとマッシュルームケチャップとアンチョビソースと肉汁で煮込む」とあったりします。
日本では1989年にハウス食品から「ハウス ハッシュドビーフ」(ハヤシライスのルー)が発売され、ここから「ハッシュドビーフ」の名が定着した……というのが定説だそうな。ちなみにハヤシライスも、「ハッシュドビーフライス」が縮まったという説もあれば、異説もあり、起源ははっきりしないそうです。
前置きが長くなりました。松屋は「カットステーキのハッシュドビーフ(ライス・みそ汁付)を4月26日から販売しています。価格は790円。
鉄板で焼き上げた牛肉のごろごろカットステーキと、薄切りビーフの2種のお肉を、たっぷりの濃厚ソースにあわせたとのこと。肉感だけでなく、牛肉の旨味を引き立てる松屋オリジナル濃厚ソースも主役級で、ソースだけでもごはんが進む味わいとうたいます。
まろやかではなくガツンとした味わい
「濃い味のソースをかけたカットステーキ」という風情
食べてみると、思っていた以上に、力強い味わいで驚きました。
濃厚ソースとうたっていますが、デミグラス系のコクのある味わいというよりは、案外と塩味が強い、ガツンとした味わいになっています。まろやかではなくて、ピリッ、という感じ。もちろん、辛くはないのですが。
よって、ソースのコクを味わうというより、「ソースがたっぷりかかった、薄切りステーキ」というイメージで食べるほうが、しっくりくると思います。
カットステーキと薄切りビーフの2種類の牛肉が入っていることで、歯ごたえの異なる“肉感”を楽しめるため、「牛肉を食べている」という充実感はなかなかのものですね。
そして、この肉の旨味を考慮すると、なるほど、ソースが濃いめの味付けになることは納得できます。あくまで主役はソースではなく、肉。この牛肉でごはんを進めさせるためのメニューにするなら、ソースの味付けは濃くあるべきです。
また、たまねぎが入っているのも地味にうれしいところ。食感と甘味が、口の中でよい変化を付けてくれます。アクセント、と書くと「刺激的な」という意味合いに感じられるかもしれませんが、むしろ「なだめ役」という感じ。肉の食感! ソースの濃さ! といったワイルドな雰囲気を「まあまあ」と抑えてくれるというか。
ごはんにかけると「ハヤシライス」感が強くなりますが、前述したように、まろやかなハヤシライスというより、濃厚ソースがたっぷりかかったカットステーキ……という風情なので、「やさしい味わいのハヤシライス」をイメージすると、おや? と思うかもしれません。
一方、ごはんのおかずとして考えれば、牛肉の食感と味付けで白米との相性もよいですし、味の強いソースは「白米×牛肉」のちょうどいいつなぎ役になってくれます。牛めしでいう「つゆ」の部分ですね。なので、おかずとしての役割はきっちり果たしているかな、と。
これを「贅沢グルメ」と呼んでいいのか?
パンチのある味わいと、ダブルの牛肉の食感で、おかずとしてはなかなかよくできています。ただ……このハッシュドビーフの“位置づけ”に関しては、気になるところが多い、というのが本音です。
まず、公式のメニュー説明では、「ゴールデンウィークにちょっと贅沢グルメ」とうたっています。「#贅沢松屋」なるハッシュタグを付けているほどです。そうであれば、もうちょっと豪華な具材にして、ぜいたく感を出してもよいのではないか。
そもそも、松屋に「贅沢グルメ」を食べに来る人は多くないと思うのですよね。もし本気でそうしたいなら、「えっ、松屋なのに!」ぐらいの具材、あるいは思い切った価格があってほしい。「松屋で790円」というのは、個人的には“贅沢”というよりも、“(松屋にしては)ちょっと高い”の範疇なので……。
「贅沢グルメ」というには、安い。一方で、松屋のごはんとして考えると、安くはない。それを、消費者側がどう受け止めるか。はたして、これは贅沢なごはんと呼べるのか?
もう一つ気になるのは、細かいことですが、公式が「ソースだけでごはんが進む罪深い味わいです」と書いていること。松屋は牛めし系の丼メニュー以外は定食系なわけで、ごはんが進むようなおかずを作るのは当たり前だと思うのです。いくら流行している表現だからといっても、味付けだけをもって「罪深い」と言ってしまうのは、ちょっと軽率ではないかと。
味自体は悪くないのですが、立ち位置にちょっとあやふやな感じもあるメニュー。松屋が「贅沢」を打ち出して展開している点が、どう出るのか? 今後の新メニューの方向性にも関わってくるかもしれないので、注視したいですね。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。一人めし連載「モーダル小嶋のTOKYO男子めし」もよろしくお願い申し上げます。
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