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ラーメンWalker発!「未来を輝かせるラーメンストーリーズ」第10話

「佐野JAPAN」が9年ぶりに結集! いま、最高のラーメンを捧げて、佐野実の生き様を伝える

2022年04月13日 12時00分更新

文● 大熊美智代 編集● ラーメンWalker

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 ラーメンWalkerがテーマを決めて名店店主とともに新たなラーメンをお届けする企画。4月1日~4月12日は、「佐野JAPAN」が9年ぶりに結集! 2014年4月11日に惜しまれつつも逝去されたラーメンの鬼・佐野実氏に敬意を表し、スペシャルイベントを開催した。彼らが受け継いだ佐野実イズムと、佐野氏への想いとは? 佐野氏の妻であり『支那そばや』を継いだ佐野しおり店主と、テレビ番組での共演をきっかけに佐野氏と師弟関係を築いた『天下ご麺』の藤井英次店主に伺った。

『支那そばや』佐野しおり店主(左)と、『天下ご麺』の藤井英次店主

佐野実に捧げる一杯で、師の想いを伝える

 素材にこだわる自家製麺の店―今では、そういったラーメン店が増えてきたが、その先駆者が佐野実氏だ。日本全国の生産地に足を運び、生産者を直接訪ねて関係を築いたうえで、自身が納得できる素材でラーメンを作る。さらには、飼育環境や土壌などにもこだわり佐野実ファームでスープ専用の山水地鶏を開発。国産小麦の配合から製粉、ブレンドまで極めた支那そばや御用達粉で作る自家製麺。食材にも調理にも器にも徹底的にこだわりぬいた。

佐野実が最もこだわった自家製麺

 ラーメンに全身全霊で向き合ったラーメン職人・佐野実の志を継ぐ「佐野JAPAN」。その結成は、2005~2006年頃。メンバーは、ラーメン業界の中でも、どのグループにも属さず、一匹狼的な個人店主が多かった。そんな個性の強い店主たちが、佐野氏を慕って集まったわけだ。その「佐野JAPAN」が最後に結集したのは、2013年の大つけ麺博。9年ぶりの結集は、『支那そばや』佐野しおり店主の一言から始まった。

 「4月は、佐野実が生まれた月でもあり、逝ってしまった月でもある、佐野に縁ある方々にとって大切な月です。これまで、佐野が亡くなってから一度も集まることがなかったので、いい機会だと思って、佐野JAPANの皆さんにお声がけしたところ、全員快諾で結集してくれて! すごくうれしかったです」

 佐野JAPANのメンバーは、皆オーナーシェフで自身の店を閉めての参加。一番遠方の『天下ご麺』の藤井英次店主は、滋賀から7時間かけて駆け付けた。「佐野さんが亡くなられた日、川崎では桜が満開でした。いま、ちょうど桜がいっぱいの所沢で、ここに来たら佐野さんに会えるんじゃないかという気持ちで、滋賀から来ました」と、藤井店主が、佐野氏の最期を看取ったことを思い返しながら語ってくれた。

 今回、テーマは決めずに、「店主それぞれの想いをラーメンに託そう」というスタートだった。「佐野が開発した山水地鶏、有田焼の丼、麺にも力を入れてきたわけです。『支那そばや』の麺に自店のスープを合わせようとか、うちは佐野のレシピを受け継いでますし、皆さんそれぞれ何かしら佐野のことを思い描いて準備してきたと思います」と佐野しおり店主。

支那そばや御用達粉で打つ自家製麺

 日頃から支那そばや御用達粉で打つ自家製麺で提供している藤井さんは、今回も自身で魂を込めて打ってきたという。

 「佐野さんによく言われたのは、滋賀は食材の宝庫だと。ただ、そこの作り手が非常に悪い(笑)。みんな京都の祇園や東京の築地へ行ってしまって、滋賀に来たって何もおいしいものはない。だから藤井がんばれよと、滋賀に何度も足を運んでくださったんです。そういう滋賀の食材を使って、佐野さん、こんなラーメンを作れるようになりました。食べてくださいという想いで、第一杯目を作りました」

 地元滋賀の近江牛、近江鶏をふんだんに使ったラーメンはもちろん、そこに気持ちも一緒に持ってきたと、藤井さんは語る。

佐野実氏(左)と、若き日の『天下ご麺』の藤井英次店主

 佐野JAPAN発足時は駆け出しだったメンバーも、今では日本屈指の名店店主ばかり。

 「9年、10年経てば、誰かしら脱落者がいてもおかしくないでしょう。昨年は、ラーメン店の廃業率が過去最多と聞いてます。その中で、佐野JAPANメンバーは誰一人欠けることなく、しかも繁盛してる。ただただ佐野の生き様やラーメンにかける想いを、いつも胸に刻みながら仕事をしている方たちだからですね」と佐野しおり店主。

佐野JAPANと支那そばや、互いに高め合う名店主たち

 佐野氏に、直接ラーメンを教えてほしいと手紙を書き、参加したラーメン講習会が、師との出逢いだったという藤井さん。その1年後、佐野氏が講師を務めラーメン職人を育てるテレビ番組「ガチンコラーメン道」で、共演という形で再び出逢う。

「20年前、まだ日本が元気な時、テレビに現れたのがすごいパワーで怒るラーメン屋の親父。視聴者もびっくりしたと思うんです。勇気もいただきましたし、また反感もいただきました。佐野さんを見て、ラーメン屋を志した人もたくさんいる。佐野JAPANの若手も、よくあの番組見てましたって言いますね。リアルタイムで見てなかった人たちもYouTubeで佐野さんを見て、なんてパワーがあるんだろうと再確認してくださってる。そういうのを聞くと、すごくうれしい。ああいう頑固親父のラーメン屋って本当に少なくなりました。佐野さんのような人物はもう出てこないでしょうし、私も佐野さんの代わりになれません。ただ、私が知っている佐野さんの、力強い頑固親父の生き様を伝えることはできます」

 佐野しおり店主は当時を振り返って、佐野氏には「絶対に間違ってない」という強い信念があったと語る。

「番組が望むことを見事に演じたと言うこともできますが、それは佐野本来の想いだったんです。でも、やるからには反感も買う。そうすると、佐野JAPANの皆さんが『いや間違ってないです。佐野さん、僕もそう思います』と理解してくれた。だから佐野も、間違ってないという絶対的な想いでがんばったんですよね」

 佐野実を語ることが佐野JAPANメンバーの力だと、佐野しおり店主。「藤井さんも、『ラーメンに胡椒はかけないけど、命はかけます』って(笑)、おっしゃってましたが、命をかけられるくらいのラーメン、そこに佐野実への想いが加わっている言葉ですよね」

 藤井店主も、「自分が言っても説得力がありませんので(笑)。佐野さんがこんなことおっしゃってたとか、あんなことおっしゃってたよっていうほうが聞いてくださいますので。だから僕は、地元の滋賀、関西で、佐野さんの言葉を借りて、その素晴らしさを伝えていきたい」と、いまなお影響力のある佐野氏を語る。さらに続けて、「佐野さんのことを伝えるためには自分たちがしっかりしなければ、誰もそれは聞いてくださいません。私も、しっかりしたラーメンを作っていくという想いでがんばっています」

 『支那そばや』を束ねる、佐野しおり店主にも、その言葉は響いた。「そんなこと言ったら私のほうがすごいプレッシャーで。これだけ言ってもらってるのに、『支那そばや』がダメになったらどうするのって、必死ですよ」

支那そばや本店。創業者・佐野実のこだわりを妻のしおりさん、娘の史華さん、弟子たちが守り続ける

「先生が亡くなられたとき、私も弟子のひとりとして、『支那そばや』を誰が守っていくんだろうと心配しました。いま、それを妻であるしおりさんと娘の史華さんが、立派に守ってくださってるんで、本当によかったと思ってます」という藤井さんの言葉に、「佐野JAPANのメンバーには、プレッシャーを与えてもらって、また、ことある毎に支えてもらって、本当にありがたい存在です。佐野のために皆さんが想いを込め、それぞれでラーメンを作ってくれる。それが私の原動力になってます」と佐野しおり店主。

『支那そばや』の代名詞の醤油らぁ麺

佐野実をつなぐ、佐野JAPANから次の世代へ

 “佐野実の弟子”は、全国に大勢いる。その中で、佐野JAPANという立ち位置は、絶対にゆらぐ事のない「佐野さんの応援団」だと、藤井さんは言う。

 佐野しおり店主も、「よく、『お弟子さんですか?』と聞かれますが、いやそうじゃないんですよって。弟子より密かもしれないですね。佐野JAPANが動いてくれることで、今まで以上に支那そばやスタッフも強くなります。恥ずかしくないラーメンを作らないといけない」と言いながら、支那そばやスタッフとともに歩んできた。

「佐野実というカリスマラーメン店主がいなくなって、もう皆が集まることはないんじゃないかと思ってましたけど、今回、その機会を与えていただいたことに大変感謝してます。この9年間の成長を、お客様に見ていただきたい、佐野JAPANの仲間たちにも見せたいです」と藤井店主の言葉に応えて、「本当にその通り。先ほどお客様にも、『今までで一番感動した』というお言葉をいただいて、胸が熱くなりました。佐野JAPANの熱い想いが、お客様にも伝わっていると思います。メンバーそれぞれ日にちは別々ですけど、想いはひとつにして、最後まで抜かりのないよう、喜んでいただけるように。お客様に毎日感謝しながら、お届けできたらと思います!」と佐野しおり店主。

 佐野実の志を受け継ぐ人たちが、師の代わりに伝えていくことで、そこに“佐野実は生きている”。次の世代、その次の世代…と、佐野実がラーメンにかけた人生を、身をもって体現し、伝え続ける。それが、ラーメン業界を、ひいては日本を盛り上げていくことにもつながっていくだろう。

11日間の出店を大盛況で終えた、佐野JAPANメンバー

店頭に掲出された各店主たちからのメッセージ

ラーメンWalkerキッチン
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3-205
04-2968-7786
JR武蔵野線「東所沢」駅徒歩10分
https://ramen.walkerplus.com/kitchen/

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