麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第20回
フルヴェン伝説の名盤から宇多田ヒカルまで、12月の名盤
麻倉推薦:私も好きな松たか子、マイクを聞き比べるマニアックな音源も
2017年12月30日 12時00分更新
評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。12月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
NHK連続テレビ小説『わろてんか』主題歌「明日はどこから」(松たか子作詞・作曲)、TBS系 火曜ドラマ『カルテット』主題歌「おとなの掟」(椎名林檎作詞・作曲)などの、最近の松たか子のメインテーマ楽曲を中心にした、約8年ぶりの12曲のオリジナルアルバム。
私は1997年のデビュー曲『明日、春が来たら』から松たか子のファンだ。当初は甘酸っぱい、胸キュン的な音色が魅力だったが、2014年の『レット・イット・ゴー』では、鋭く、剛毅な歌唱に驚嘆した。でも独特の色気も素敵だった。新アルバムも、爽やかな中に意外なほどの艶があり、同時に強靭な表現も可能という、さまざまな音楽的な抽斗を持つ歌手の本領発揮だ。
1.『明日はどこから』。爽やか系だが、的確なテンポ感で進行する、安定したポップ。2.『おとなの掟』は、不協和音の弦楽に乗った、感情豊かな歌唱。こんなに粘っこく、ねちっこい表現でも松は素晴らしい。3.『君の雨』(Sans Sea作詞・作曲)は、開放的な世界観の快適なポップ。4.『恋のサークルアラウンド』(加藤ひさし作詞・作曲)はオールディーズ的でRB的な8ビート。5.『三時の子守歌』(細野晴臣作詞・作曲)は昔的なコード進行が、懐かしさを醸し出すが、懐かしい雰囲気も明るく歌いとばす。8.『空とぶペンギン』は大貫妙子の世界観なフォーク調も素敵。10.『つなぐもの』(坂元裕二作詞、松たか子作曲)のアカペラには心奪われる。
とにかく、松の世界は驚く程広く、すべてのスタイルを松的にするのが凄い。語尾のニュアンスの感情感にもぞくぞく。音的には半裏音的な色気もいい。
FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels
『Beethoven: Symphony No.9』
Wilhelm Furtwangler
音楽演奏史というジャンルがある。20世紀の最高の《第九》「第九」は、第二次世界大戦後、1951年7月29日、バイロイト音楽祭管再開初日に演奏された記念すべき実況録音、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/バイロイト音楽祭管弦楽団の音源であるとは、万人が認める真実である。まさに20世紀の偉大なる演奏遺産だ。それがハイレゾになるとは、フルトヴェングラー本人もびっくりだろう。
冒頭のフルトヴェングラーの足音からして神秘的。万雷の拍手の後の語りも含めて1:13の時間が経過して始まる、有名な5度抜きのAコードの序奏。20世紀の演奏史に残る神的な名演なのだから、慎んで身を清めて拝聴しなければならない。
ハイレゾ「バイロイト第九」の音的な特徴は、音の滑らかさと、音構造の高解像感覚。これまでアナログで聴いてきたイメージと比較すると音の表面の凸凹が綺麗に均されるようなすべらかさがある。フルトヴェングラーが追求したこまかなテンポの揺れ、感情の起伏、心理的な強調感……など、ハイレゾの音楽的な高解像度でより明確に分かる。類い希なる官能性は第3楽章で見事に発揮される。
吉田秀和氏は自書「フルトヴェングラー」で官能性について:
「私には、この曲の中で、この楽章が、さっきいった高度に精神的でしかも強い官能性をもった音楽の魅力という点で、フルトヴェングラーの一般的な精緻枠にいちばんうまくはまっていると思われる。と同時に他面、ここほど一枚ヴェールで隔てられた向こう側の出来事のような間接性というか、夢幻性というか、そういう定かでないものとして聞こえてくる音楽は、他にはない」と述べている。
ハイレゾの表現性は官能性をさらに際立たせているようだ。
第4楽章はチェロとコントラバスから、ささやくように始まり、小川が集まり、大河になっていくような悠々たる、そして裏に緊張感を秘めた「喜びの歌」のテーマの弦楽合奏では、メインのパートの旋律だけでなく、内声部まで聴き取れる。 O Freunde, nicht diese Tone!と歌い上げるオットー・エーデルマンのバリトンの堂々とした美しさ。中央置くに位置するコーラスの偉容感。フィナーレの熱狂的な盛り上がりでも、過激な進行にも拘わらず上質感を失わないのが、ハイレゾの真骨頂。
FLAC:96kHz/24bit
Warner Classics、e-onkyo music
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