「当社はダイバーシティを推進している会社ですので、今回のイベントの登壇者はすべて女性です」――。今年もしばしば、このような文面のメールをいただいた。
2017年、「働き方改革」や「デジタルトランスフォーメーション」と並び、多くの企業が「ダイバーシティ」の推進を経営目標に掲げた。企業におけるダイバーシティとは、人種・国籍・信仰・ジェンダー・年齢・身体的特徴や障害・価値観・働き方などの多様性を受け入れる職場環境を提供すること。女性活用や、子育て中の女性が働きやすい環境を整備することもダイバーシティの分かりやすい取り組みの1つではある。
「日本の経済成長のために女性活用は重要。ただし、女性活用はマイクロソフトが取り組むダイバーシティ推進の一面でしかありません。最も大事なのは“アイデアの多様性”だと考えます」――。そう語るのは、日本マイクロソフトにおけるダイバーシティ&インクルージョンの責任者を務める同社 執行役員 常務 マーケティング&オペレーションズ部門担当のマリアナ・カストロ氏だ。
言語、アイデア、働き方の多様性をテクノロジーが支える
カストロ氏はアルゼンチン出身。米国で20年間、日本で2年半の就労経験がある。2人の小学生の母でもあり、現在日本で子育て中のカストロ氏は、「オフィスを早い時間に出て、子供たちの宿題をサポートしたあと、翌朝のミーティングの準備をするような働き方をしています。家からでも世界中のチームメンバーと資料をシェアできますし、オンラインで会議ができます。テクノロジーによって柔軟に仕事ができているのです」と話す。
このような柔軟な働き方を可能にするテクノロジーは、育児中の女性だけでなく、あらゆる人に恩恵をもたらすのだとカストロ氏は強調する。「男性であっても夕方5時に退社して保育園に子供を迎えにいく社員もいます。それから、ダイバーシティの観点で、日本固有の課題として“介護”があります。米国では家族をヘルプすることが生活の中で最重視されますが日本はまだまだそうではない。家族に介護が必要な人がいる社員に対して、企業の理解とテクノロジーの支援が必要ですね」。
言語の多様性を受け入れるのもダイバーシティだ。「私自身、日本のメンバーとのコミュニケーションには機械翻訳を使います。米国企業であっても、英語で意見が表現しにくい社員を排除してはいけません。多様なバックグラウンドを持ち、多様な母国語を話すメンバーのアイデアを引き出し、取り入れていくことがダイバーシティであり、よい製品を生み出すために重要なことです。マイクロソフトの機械翻訳テクノロジーや、最新のOfficeに搭載された豊かな表現手段がこれを支援します」。
同じ日本人でもそれぞれ多様性を持っている
多様な国籍の人々が暮らすアルゼンチンで生まれ、米国のグローバル企業に20年間勤務してきたカストロ氏。アルゼンチンや米国と比較して国籍・人種の多様性が乏しい日本において、ダイバーシティを推進することに障壁はないのだろうか。「確かにアルゼンチンには色んな国籍の人がいて、人々の髪や肌の色は様々。そういう意味では日本と違う環境です。でも、ダイバーシティの価値観を広める上で、日本人と他国の人で違いはありません。同じ国で同じ教育を受けた人でも、個人の家庭環境、友人、夢や希望はそれぞれ異なります」とカストロ氏は言う。
(日本マイクロソフトを含めた)日本企業のダイバーシティ推進の文脈において、特に「女性活用」が前面に出やすいのには、ジェンダー以外の多様性についての無知・無視ではないと感じているとカストロ氏は述べる。「女性活用はダイバーシティの一面でしかありませんが、日本のマーケットで女性活用を特に取り上げるのには意味があります。テクノロジー企業において、女性の比率はもっと伸ばせると考えており、そのためにSTEM教育を受ける女性が今すぐ増える必要があるからです」。
最後に、テクノロジー企業の執行役員として活躍しているカストロ氏が、「女性活用」の言葉についてどう感じているか尋ねた。「私自身のキャリアにおいて、“女性活用”の経営目標がマイナスになったことも特別にプラスになったこともありません。マイクロソフトはダイバーシティについてバランスのとれたアプローチをとっています。日本マイクロソフトのイベントで女性のマーケターが活躍する場面が増えていますが、マーケターは女性が多く、女性が成長できるポジションの1つです」。