モバイルテクノロジーは、我々の生活に深く根付いて、なくてはならない存在として、さらに重要な地位を占めるようになりました。
私は高校生、大学生からケータイを持ち歩くようになった世代で、モバイルからのネットアクセスが常にPCよりも上回っていました。それが2007年以降スマートフォンへと変化し、モバイルのインターネットが主体へと変化する10年間を過ごしてきたとふりかえることができます。
そのモバイル化の10年のうちの後半の6年間を米国で過ごしましたが、日本で感じている以上に、米国でのスマートフォンのインパクトは大きいものがありました。
こちらでは、足りていない社会インフラを、スマートフォンとアプリによって補完していこうというベクトルが非常に強く、コミュニケーションから衣食住、移動、決済、公共サービス、健康、医療、教育へと、次々にモバイルによる問題解決が行なわれてきました。
特に都市における移動や決済は、日本は依然として、スマホ以前のインフラの競争力を保っていると思います。そのためアメリカでのモバイルにおける解決は、日本からは“些細”な話にも見えますが、米国での実際の生活感としては“劇的”と言うべきです。
できるできないではなく、「確実性」や「迅速性」を担保するインフラとして、モバイルが信頼されている点は、日本で暮らしているとあまり期待できなかったのではないかと感じています。
生活習慣もスマホの上で変化していく
筆者はiPhoneを使っていますが、機械学習の活用に注目が集まる昨今のテクノロジー業界においては、iPhoneからそのインパクトを「大きく受けた」という感想が得にくいのが事実です。
GoogleやAmazonが、クラウドでの途方もない処理能力を活用する中央集権的な人工知能を育んでいるのに対して、Appleは各デバイスの中で、その人のデータをその人のために処理する機械学習環境を整備してきました。そのため、Siriが囲碁で世界チャンピオンになる、というニュースはおそらく聞かれることはないでしょう。そもそも目指していないとは思いますが。
Appleのアプローチは地味ではありますが、将来的には面白いデータを持つことになるかもしれません。Siriは、iPhoneを持った人が、いつ起きて、どこへ行き、どんな移動手段を使っているのかを把握しています。その家庭で誰と連絡を取り合い、どんなスケジュールがどこで入っているのか知っています。また、そうした1日の行動の中で、どんなアプリを使っているのかも知っています。
そこまで把握されているデータを、中央集権的なサーバに渡したくありませんよね。
iPhoneやiPadには「Siriの推測候補(App)」という機能があります。これは、アプリの使用頻度や、場所・時間・接続しているデバイスなどの状況に応じて、普段使っている最適なアプリを4つもしくは8つ表示する仕組みとなっています。
普段よく使うアプリがここに並びますが、たとえば朝には、朝食の際のニュースチェックによく使うアプリが出てくるなど、条件によって変動する仕組みになっています。
米国の生活で、より多くのことをスマートフォンで済ませるようになってくると、特定の場面や場所、時間に、特定のアプリを使うという場面が増えていくことから、Siriの推測候補(App)のアプリリストは、ダイナミックに変化する有能なアプリランチャーとして活用できるようになりました。
普段の行動パターンや癖も、スマホの上に記録されていることを実感したことも、ことし面白かった発見でした。
実際の生活習慣を変える糧になったNoomコーチ
今年、モバイルに現れる生活習慣で、大きく変化した2つのアプリをご紹介したいと思います。
まず1つ目は、Siriの推測候補(App)に常に現れるようになったのが、本連載でもご紹介したダイエットアプリ「Noomコーチ」です。食事と運動、体重の記録で、目標期間に目標体重への減量を目指すアプリです。
このアプリが優れているのは、運動した分、その日食べて良い摂取カロリーの枠が増えることです。
これは、HealthKitという運動やカロリーのデータを連携するAPIを使って実現していて、処理としては摂取許容カロリーに運動で消費したカロリーを足しているだけなのです。しかし、今まで多くのアプリでは運動と摂取カロリーを別々に管理していたため、こうした連携を見つけることができずにいました。
確かに、1日1700kcalに抑えましょうと言われていて、1000kcalを運動で消費したら、さすがに持ちませんよね。もちろん使った分を全部摂取しては元も子もないので、カロリー摂取も適度に抑えていく必要がありますが、許容範囲が変化する点は、より現実的だし、目標達成の確実性を高めてくれたと感じました。
もしiPhoneとApple Watchを組み合わせて使っているのであれば、ここにNoomコーチアプリを追加して取り組むことで、効果を出すことができるのではないか、と思います。
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