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Society 5.0の目指す超スマート社会とは

 最近、日本では「Society 5.0」という言葉を耳にする機会が増えている。その裏には、IoTや人工知能(AI)、ロボットなどの最新技術を活用することで、我々の社会を「バージョンアップ」するかのような壮大なプランが見え隠れする。その中身はどうなっているのか。ざっくり解説してみよう。

2017年10月のCEATEC JAPAN 2017も、「Society 5.0」をテーマに掲げていた

日本をバージョンアップする「Society 5.0」とは?

 英語の「Society(ソサエティー)」は、我々が住む「社会」のことだ。「5.0」はあたかもソフトウェアのバージョンのような表現であり、ここに至るまで社会がバージョン1.0から4.0まで進化してきたことが読み取れる。

 人類の歴史を振り返ると、みんなでマンモスを狩っていた「狩猟社会」(1.0)に始まり、より安定して食糧を生産できるようになった「農耕社会」(2.0)を経て、産業革命による「工業社会」(3.0)が実現した。いま我々はコンピューターが普及した「情報社会」(4.0)に生きており、スマホやPCを使ってこの記事を読んでいるはずだ。

 Society 5.0という言葉は内閣府による「第5期科学技術基本計画」で定義されたもので、2020年までの5年計画となっている。だがそのビジョンは、2020年より先の世界も含め、我々が住む社会のメジャーバージョンアップを狙うものになっている。

3月の「CeBIT 2017」ではIoTやインダストリー4.0でドイツと協力することを発表した

 日本と同じくドイツでは、国家的プロジェクトとして製造業のスマート化である「インダストリー4.0」に取り組んでいる。これは第4次産業革命ともいわれているが、日本では「5.0」とバージョンの数字が大きく、さらにその先を行こうという前のめりの姿勢が感じられる。

 なぜドイツや日本には社会や産業のバージョンアップが必要なのだろうか。その背景には「危機感」がある。日本経済を振り返ってみれば、バブル経済の崩壊後に訪れた「失われた10年」やそれに続く停滞があり、「アベノミクス」によって回復したかとも思われた。だが実際には人口減と少子高齢化が進み、先進国の中でも生産性は低迷し、長時間労働の是正が急務となるなど、問題は山積みだ。

CeBIT 2017でSociety 5.0の取り組みを紹介する、日立製作所 社長兼CEOの東原敏昭氏

 その間、情報社会の基盤となるプラットフォームで頭角を現してきたのがアメリカのグローバル企業だ。Google、Apple、Facebook、Amazonは頭文字を取って「GAFA」と呼ばれることもあるが、これらに対抗できるのは独自のネット企業が育っている中国くらいになりつつある。日本のハードウェアには光るものがあるとはいえ、ソフトウェアでは大きく出遅れている。

 とはいえ、アメリカや中国があらゆる面で優れているわけではない。むしろ日本は世界有数の国内市場を持ち、教育レベルが高く治安も良いなど有利な面も多い。CeBIT 2017に登壇した安倍晋三首相は、「人口減少により生産性向上に迫られることで、AIやロボットの活用が進む」と打ち出した。最新技術を前提に社会を組み替えることで「弱みを強みに変える」ことができれば、まだまだ日本にも希望はあるというわけだ。

Society 5.0が目指す「超スマート社会」の中身

 それでは、Society 5.0が目指す社会とはどのようなものなのか。「第5期科学技術基本計画」では、「世界で初めての超スマート社会」を目指すと打ち出した上で、その中身を次のように定義している。

 「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」

 たしかに、最新のスマホやPCでネットを活用している人ならば、すでに世の中は便利で快適に感じているかもしれない。では「超スマート」になると何が変わるのか。わかりやすい例として、リアル世界への「フィードバック」が進んでいくのだ。これまでのクルマはカーナビに従って人間が運転していたが、徐々に人間をアシストする機能が増えていき、最終的には自動運転が可能になるというわけだ。

スイスでは自動運転バスはすでに実用化が始まっている

 こうしたイノベーションにより産業構造が変わる可能性もある。たとえばタクシーをスマホアプリで呼べるようになれば、電話よりも便利だ。だがUberに代表されるライドシェアは、個人の運転車や「相乗り」をマッチングする。道を走るクルマの多くには空席があるので、そこに他人を乗せれば効率は上がる。その仕組みがうまく回るようになれば、やがてタクシー自体が不要になるわけだ。

 そこには一時的に軋轢が生まれることは避けられないとはいえ、これまで考えられなかったレベルまで効率が上がり、社会が負担してきた無駄を省けるのは大きい。自動運転では事故や渋滞が減り、移動中の時間を有効活用できるようになる。スマートホームでは最寄り駅まで帰ってくるとエアコンの電源がオンになる。個人レベルでは大きな差がなくとも、日本全体で時間やエネルギーの浪費が最適化されればその効果は計り知れない。

 もちろん、その恩恵を受けられるのがITに詳しい人や都市部に住んでいる人だけでは意味がない。遠隔医療が普及すればどこに住んでいても最先端の医療が受けられる。人口減少で近所のスーパーが閉店したような地域に住む「買い物困難者」に、ドローンで商品を届ける試みも始まった。これまで当たり前にあった格差が是正されれば、誰にでも住みよい社会が実現することになる。

 一方で、これまで以上に重要になるのがセキュリティーだ。モノがネットにつながれば、そこから攻撃を受けるリスクも抱えることになるからだ。プライバシーの観点では、個人情報を提供したくないという意思は尊重されるべきだ。センサーが集めた膨大な情報を「匿名化」することでプライバシーを守る仕組み、誰もが自分の情報をコントロールできる設定画面のような仕組みが求められる。

 こうして見ていくと、かつての日本は白物家電や情報機器の普及により豊かになってきたが、Society 5.0にが目指す我々の生活はもう一段も二段も、次のステージに上がろうとしている。これまで経済発展といえば「工場が増えると環境が汚染される」ように新たな社会問題を生み出してきたが、超スマート社会ではITの存在を前提にした仕組みにより、相反する要素を両立しようとしている。これがSoceity 5.0の描き出す世界だ。

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