このページの本文へ

スペシャルトーク@プログラミング+ 第18回

2018年1月29日(月)リピート開催決定『1日で学ぶ “人工知能” で失敗しないプロジェクト発注の仕方』

「どうして企業でのAI導入がつまずいてしまうのか?」について真剣に考えてみた

2017年12月26日 19時00分更新

文● 株式会社ウサギィ 町裕太・五木田和也、聞き手:遠藤諭、編集● 杉本 敏則/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

どうしてAI導入がうまくいかないのか、改めて真剣に議論してみた

 角川アスキー総合研究所では2018年1月29日(月)、新規事業開発や経営企画などにおいて機械学習や深層学習など、いわゆるAIの事業導入を検討されている方々を対象にしたビジネスセミナー『1日で学ぶ “人工知能” で失敗しないプロジェクト発注の仕方』を好評につきリピート開催する。前回の開催時にも、多数のAI関連開発実績を持つ株式会社ウサギィの町 裕太氏・五木田和也氏にインタビューを敢行したが、今回改めて「AI/ディープラーニング導入で陥りがちな失敗ポイント」について両名にお話を伺った。前回のインタビューと併せて、開発ベンダー選びなどAI/ディープラーニングの自社導入でお悩みの方に是非お読みいただきたい。

編集部員 最近「人工知能を活用せよ」というミッションを会社から与えられたものの、そもそも何ができるのか、できることが分かったとしてどうすれば自社の利益へつなげられるのかが分からず、困ったり悩んだりされている企業担当者の方が多いと聞く機会が、更に増えてきている印象があります。

ウサギィ町氏(以下、町) AIや人工知能と聞くと、「画像認識できるんでしょ」とか「文章の意味を理解できて、翻訳したりできるんでしょ」など、その機能やソリューションのほうにまず意識が向いてしまいがちです。そういう意識だと「じゃあ自社の店舗にカメラを導入して店内を撮影した動画データがあれば、なにかできるかも」などというふうに考えてしまうんですが、そうじゃないんですよね。

編集部員 と言いますと……?

失敗例~そもそも編~「手段ありきでAI導入について検討してしまっている」

町 裕太氏(株式会社ウサギィ 代表取締役)。複数のプログラミングコンテストでの入賞経験を持つ。

 AIはとても魅力的ですが、あくまでも手段であり道具です。いま挙げたのは「道具ありきの話」ですが、大切なのはまず「目的ありき」の話としてAIや人工知能の導入について考えなければいけないということなんです。「これってAIでなにかできませんか?」というご相談がほとんどだからこそ、そもそもの目的ありきでソリューションについて検討を始め、そのなかで選択肢としてAIが挙がる、という順序で発注側には是非進めていただきたいな、と思うことが多いです。

インタビューの聞き手を務めた遠藤 諭(角川アスキー総合研究所)。

角川アスキー総合研究所・遠藤(以下、遠藤) 確かに、AIやディープラーニングというのはパラダイムを変えられるようなゲームチェンジャー的技術なわけだから、業務の末端から考えるのはもったいない。自社の業務を根本的に変えうるような、そういう次元から目的を考えましょうよって言いたいですよね。よく「日本にとってIoTはチャンスだ」とかって言うけど、人工知能を抜きにしてIoTを考えても、貧乏なことしかできないじゃないですか?企業のリ・エンジニアリングとでも言うか、企業活動を根幹から考え直すに値する技術がAIやディープラーニングなんだから。

 ややもすると部分最適なことばかり業務で考えてしまいがちですが、本当に考えるべきは全体最適ですよね。特にAIという道具で達成できることのひとつが「なにかの最適化」です。とすると、企業として、どのパラメーターを最小化/最大化したいのかという話になるんですが、そこで目先の部分最適に飛びついてしまうと効果が薄く、その結果「AI導入したけど、掛けたコストがペイしなかった」ということになってしまいます。

遠藤 「日本の企業はITを省力化とかの用途にしか考えないけど、海外ではITをパラダイムチェンジのための存在として考えている」って話は昔から言われてるんですよねぇ。

失敗例~企画編~「正しい開発目的設定をするために投資することの価値を分かっていない」

編集部員 その「目的ありきでAIやディープラーニングの導入検討をする」ということについて、ではどうして発注側においてその重要性を欠いたまま、手段ありきで相談されるケースが多く見られるのでしょうか。

 例えば私どもの場合だと、企画段階のコンサルティングをご依頼をいただければ、目的設定から一緒に進めさせていただけるんです。ですが、そうしたコンサルティング、つまり “知識” に価値を見出せない企業さんの場合だと、手段ありきでのご相談になってしまっている場合がどうしても多いですね。

五木田和也氏(株式会社ウサギィ 取締役)。著書に『コンピューターで『脳』がつくれるか(技術評論社)』がある。

ウサギィ五木田氏(以下、五木田) 技術的な素養をあまりお持ちてはない方々が作った前提からプロジェクトを始めなければならない場合は、かなり厳しいケースが多いです。発注される側がそうしたコンサルティングを受け付けられない企業文化をお持ちだと、プロトタイピングをする工程にも積極的ではないことが多いんですね。目的設定のためのコンサルティング、またはプロトタイピングのどちらかは開発側にさせていただけないと、AIやディープラーニングの技術導入を成功させるのはさすがに難しいと思います。

 ですので、コンサルティングやPoC(コンセプト検証)、プロトタイピングに価値を見出していただけない場合、私どもではご依頼自体をお断りする場合があります。チャレンジングなことをするのだからこそ、いきなり完成物を目指すのではなく、小さく試してみるところからスタートするのは、AIやディープラーニング開発成功のための発注においては欠かせないポイントだと言えます。

失敗例~ベンダー選定編~「どこの開発会社が本当に良いのか分からない問題」

編集部員 今のお話がAI導入企画の望ましい進め方における大前提なのだとして、そこから話を一歩進めると、じゃあ具体的にどういう開発会社さんと組むのが良いのかという話題が挙がると思うのですが。

 最近の動向を見ていると、特に発注される側が大手の企業さんだとそれなりの予算を付けられますから、それに対して様々な開発会社が提案してくるんだけど、どこの提案に対しても「これ本当なのかなぁ?」と懐疑的に受け取ってしまいがちな状況が増えているのかもしれないな、という印象はありますね。

遠藤 端的に言うなら「どこの開発会社がいいのか分からない」問題が発生している?

 そうですね。「AIやディープラーニングの開発をやれます」と言っている会社にも様々な種類がありますから。たとえば、企画だけ手掛けていて、実際の開発は別の開発会社に投げるところもあるわけですね。受注される開発会社は決してひと括りにはできなくて、その種類によって異なるインセンティブを持っているんだということを、是非発注される側の方々には知っておいていただきたいです。でないと、どういったインセンティブを持つ会社へ発注するのが良いかという着眼点もうまれませんから。

五木田 そこは大事ですね。

様々な種類の開発会社がいて、それぞれが持っているインセンティブは異なる。

 私どもの場合だと、利用料を頂戴して(独自に開発した学習済モデルなどを)貸し出しする方式を取っており、この方式の場合は継続的に使っていただくことがインセンティブになるため、プロジェクトを成功させるためには何でもやりますし、精度や速度を他社より高く保つというスタンスを持っているわけです。しかしこれはあくまでも私どもにおける考え方であり、当然会社によってインセンティブは違います。

五木田 それなりに大きな開発系の会社さんで、人工知能やディープラーニングを公式サイトで全面に押し出しているようなところでも、実際にお話を聞いてみると開発自体は外注で、自社には「機械学習ってなあに?」というようなエンジニアしかおらず、それをどうにかしたいというような話題を耳にしたこともありますよ。

遠藤 それはいい話ですねー。

 他社さんを否定ばかりするつもりはもちろんありませんが……。

遠藤 でも「そういうことが要注意ではある」とは言いたいですよね。

業界動向1:最近は「デモ見せてくれ」が本当に増えている

編集部員 開発の依頼を多く請けておられるウサギィさんから見て、AIやディープラーニングの発注側が、受注先となる開発会社選びに関してされている工夫などは何かありますか?

 発注側の企業における警戒心が強くなってきてはいる気がします。だからなのか、最近は「先にデモを見せてくれ」と発注側から言われる機会は多いですね。お客さんによってやりたいことは違うので、簡単に「デモ見せて」と言われても本当は難しいんですが、色々と見ていただけるように複数の分野に関してデモの種類を用意しています。

五木田 「まずデモ見せて」と言われる機会、本当に増えましたよね。

編集部員 先ほどのお話で出たような、実際の開発を自社でしていない開発会社さんだと、デモ見せてという要望にすぐ対応するのは難しそうです。

 過去に実案件を1回でも実施していれば、それをデモとして見せることができるかもしれませんが……。

編集部員 発注側の警戒心が強まっている背景には何があるんでしょうか?AI関連の開発に対して、少しずつ理解が深まっているというふうにも考えられそうですが。

五木田 例えば、提案資料の見栄えは、当社より他の開発会社さんのほうが断然良いと思うんです。ただ、様々なデモを見せられるからか、最近の受注について予算感以外で失注したことはないですね。

 実際に会って、お話をさせていただき、複数のデモを見ていただいたら、だいたい受注につながっています。

遠藤 発注側は「デモを見て判断せよ」ってことなんですね。まあ、怪しいデモもありそうだけどなぁ。

 こうした状況なので、受注にあたっては「デモをいくつ見せられるか」勝負だなと思っていて。ウェブ上にあるデータでそれっぽくデモを作ることも1つだったらできると思うんですが、複数となればそれだけでも大変なわけです。

編集部員 いくつもデモを準備しておけるのは、ウサギィさんが日頃から業務案件以外の研究開発にもリソースを割かれているからなんですか?

五木田 それはありますね。加えて過去の資産があるので、説明するときには便利です。

 逆に言えば、今から機械学習やディープラーニングをやりたいという開発会社さんにとっては、最初の受注実績を作るのが難しい状況になりつつあるということなのかもしれません。特にこの領域は、発注側だけでなく受注側にとっても「自社で本当に開発できるのか?」が分からないということも多いので。

五木田 そこは当社にもあてはまります。この領域は最先端の手法を扱っているので、研究領域では「良い」と言われていても、実用化したときにどうなるのかは誰にも分からない、というようなことは結構あるんです。論文では「とても優れた手法だ」と書かれていても、いざ実装してみたらそれはすごく限定的な状況でしか使えないアプローチだった、という例は当社でもありましたし。

 そういったときに、他のアプローチを使える会社だったら案件を乗り切れますが……。

五木田 それができる会社さんとできない会社さんはあります。

 あと、契約の際に金額を固定にしてしまうと、その試行錯誤すらもできないというケースもあります。

業界動向2:AI関連の技術公開が進むポジティブな状況だからこそ、AIの知識だけではプロジェクトを実現させられない

遠藤 なんというか、この業界に関する明るい話題が聞きたくなってきちゃったけど(笑)。

 明るい話だと、これは機械学習やディープラーニングに限った話ではありませんが、技術というのは人間が想像できることは大体実現できるんだろうなという感覚はありますよ。具体的な実現が今かどうかはともかく、将来的に実現させる素養を持った個々の技術というのは出揃ってきている気がします。我々が困っていることは、将来的になんとか解決できるんだろうなという感じがあります。とはいえ最先端の話だから、今は分からないことのほうが多いというのが実情なんだと思います。

遠藤 画像認識1つとっても、機械学習のおかげで実現している事例を見ると、僕なんかだと純粋に衝撃を受けますけどね。

五木田 最近だとTensorFlowChainerなど、学習済モデルが続々と公開されていますよね。活用可能性が広がっているのは良いことですが、逆に言うと同じモデルだと誰でも同じような成果を出せるので、それ以外の独自性を生むのが難しいという話題をよく聞くようにもなりましたが。

編集部員 それはでも、捉え方によってはポジティブな状況ですよね。

五木田 「Ruby on Railsが登場したからウェブサイトをすぐ作れるようになった」というような話に似てますよね。開発が便利になったからこそ、別の付加価値を生むことや本質的な部分に取り組みやすくなったという意味では、今の業界的な状況はとてもポジティブだと思いますよ。

発注側/受注側どちらにとっても、総合的な知識がなければ成果を生み出せない状況になりつつある。

 これは前回のインタビューでもお話したことですが、汎用性を持つ学習済モデルでは、個々の案件で求められる精度が得られなかったり、目的とマッチしないことは多い(ノーフリーランチ定理)んですね。公開されている汎用的なモデルを扱える開発会社であることと、発注側の要望に応えるための実案件を担えることは、また別の話です。汎用的なモデルを用いて「これができたのなら、実案件も大丈夫だろう」と発注側も受注側も認識してスタートしたけれど、結果うまく開発できなかったというケースもよく耳にします。

遠藤 難しいですねぇ。

 さらに加えると、ウェブのインフラ周りやクラウドの扱い方などを総合的に受注側が理解していないと、公開されている学習済モデルを動かせても「じゃあそこからどうするの?」となって、実際に動くものは作りづらいんですよね。

五木田 新たに作成した学習済モデルをいちど手元で動かすっていうことなら、割とできると思うんです。でもそれを実サービスにするとなると……。

 「並列計算はどうするの?」とか「データはどういう構造で持てば、メモリなどのリソースの制約満たせるの?」とか。機械学習やディープラーニングだけではない、総合的な知識がないと太刀打ちできないと思います。

見極めが難しい時だからこそ知識を身に付けてほしい

遠藤 ここまでのお話を踏まえると、なんというか、発注側に求められる知識も多岐にわたるってことはよく分かりますよね。もちろん、みんながプログラマーやエンジニアになる必要はないわけだけど、肌感とでも言うか……。

AIはゲームチェンジャーとなりうる技術だからこそ、本質的な部分からその活用目的を考えたい。

五木田 むしろ「正しい知識を付けることで、発注側の方々が身を守れるようになってほしい」という感じでしょうか。

 真面目な言い方になってつまらないかもしれませんが、でも知識がないと成功もやってきません。

遠藤 発注する側がより賢くなるに越したことはないわけだからね。

 きちんとした開発目的を持てても、それを実現する最も良い手法や、実力を持った開発発注先を見分けるのが難しいというのは確かです。ただ今日お話してきた失敗例は、見分けられるための知識があれば回避することができますから、より具体的な事例やノウハウを是非セミナーでお聞きいただければと思っております。

遠藤 これは真面目に思うんだけど、日本がこれから豊かにやっていくためには、AIやディープラーニングによるパラダイムチェンジを真剣に捉えなきゃいけないんですよ。冒頭の繰り返しになるけど、だからこそ導入の目的を業務の根幹から考えてほしいですし、その検討を進めるにあたって必要となる知識を、今回のセミナーなどもうまく活用しながら、多くの企業さんに身に付けてもらいたいですね。

【角川アスキー総合研究所】ビジネスセミナーご案内

『1日で学ぶ “人工知能” で失敗しないプロジェクト発注の仕方』

  • 日時:2018年1月29日(月)13:00 - 19:00
  • 会場:角川第3本社ビル(東京都千代田区富士見1-8-19)
  • 講師
      町 裕太 氏 株式会社ウサギィ 代表取締役
      五木田和也 氏 株式会社ウサギィ 取締役
  • 総合司会
      遠藤 諭 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員
  • 参加費:6万4800円(税込)
  • 詳細情報・ご応募Peatixページをご覧ください

カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ