AndroidとiOSがスマートフォン市場に占める比率は世界的に高まっている。しかし、AndroidもiOSもともに米国企業が中心になって開発しており、この状態を政治的に危険視する動きがある。
5月、ロシア政府はAndroidとiOS以外のOSを推奨し、2大OSの比率を今後10年で50%まで下げると述べ、話題となった。白羽の矢がたったのは、フィンランドを拠点に持つJollaの「Sailfish OS」だ。
ロシア主導のもとでJollaを用いて
BRICS諸国でAndroidに対抗?
ロシアのニュースサイトRBC(関連リンク)によると、IT起業家から政治家に転じたNikolai Nikiforov通信情報大臣は5月中旬、国産モバイルOSの開発にあたってYandex、Alt LinuxなどのロシアのIT企業、そしてJollaと会合を持ったという。
スマートフォン市場は急成長市場であり、ロシアでも世界市場のトレンドと同様にAndroidとiOSが占めつつある。その状況を快く思わないのか、Nikiforov氏は”ロシアのユーザーの個人情報データの安全問題”の解決を目的に、Jollaとの協業を進めるということのようだ。
合わせてRBCは、1年前にNikiforov氏がAppleとSAPに対し、自社プログラムのソースコード開示を求めたところ、その要求に応じなかったことを記している。
RBCによると、現在ロシアでは、国外のOSが占める比率は95%、これを10年後の2025年には50%まで下げたいとしているとのことだ。モバイルOSはiOSとAndroid以外にもWindows Phone、BlackBerryなどあるが、ここでいう”国外のOS”とはAndroidとiOSと実質的に同じ意味と判断していいだろう。
さらには、この動きをロシア以外のBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)にも拡大させるという。これらの国のIT企業が参加する国際的なコンソーシアムを作り、プラットフォーム開発を進めていきたいという意向のようだ。一方で、ロシア政府のイニシアティブはプラットフォーム構築ではなく、Sailfish OSへのアプリポーティングを奨励するものという向きもあり、今後の動向を見守るしかない。
もちろんJollaのOSライセンスには追い風ではある
そのJollaにロシアとの関係を聞いた
Jollaは元NokiaのMeeGoプロジェクトに参加していた社員が中心となって(Jollaによると、社員のほぼすべてがなんらかの形でNokiaと関係があった人たちだという)、立ち上げたベンチャー企業だ。
この2~3年、Jollaの動向はASCII.jpでも何度かレポートしているが(関連記事)、同社の目標は2013年末に発売されたスマホ「Jolla」の販売よりも、MeeGoの流れをくむOS「Sailfish OS」のライセンスだ。
現時点ではJolla以外にSailfish OSをベースとした端末は登場していないが、今年のMWCではライセンスする準備が整ったとして「Sailfish OS Alliance」を立ち上げた(Androidでいうところの、Open Handset Allianceのようなもの)。インドの端末メーカーの採用発表が近いというウワサもある。
今回のロシア政府との関係についてJollaに確認したところ、「独立したオープンなモバイルOSへの重要性が増している」とともに、Sailfish OSのオープン性により「各国が独立したモバイルエコシステムを構築し、自国のニーズに応えることが可能になる」と暗に認めた。
Jollaはすでにフィンランドを初めとした欧州、ロシア、中国と香港、インドなどで手に入る。奇しくもロシアのNikiforov氏が抱く「BRICSで新しいモバイルOSエコシステムを」という構想に合致する。これに対しJollaの広報担当は、「我々はBRICSに戦略的にフォーカスしてきた。ロシア政府がオープンなイニシアティブを推進していることを喜ばしく思う」とコメントしている。
Jollaとロシア政府の関係が明るみに出るのは実は最初ではない。Jollaは以前からロシア政府からの関心を公にしてきた。MWCで同社は安全性を強化した「Sailfish Secure」を発表しているが、当時同社のMarc Dillon氏(共同創業者兼COO、ソフトウェア開発トップ)は各国政府から安全なモバイルOSを求めるニーズが高いと説明していた。
米国技術者が中心ながらスイスに拠点を持つSilent Circleなど、安全なモバイルプラットフォーム市場がそれなりの規模になることは間違いなさそうだ。
(次ページでは、「ロシア政府はTizenとの比較でSailfish OSを選んだ!?」)
この連載の記事
-
第342回
スマホ
AR/VRの長すぎる黎明期 「Apple Vision Pro」登場から6ヵ月、2024年Q1は市場はマイナス成長 -
第341回
スマホ
世界で広がる学校でスマホを禁止する動き スマホを使わない時間を子供が持つことに意味がある? -
第340回
スマホ
対米関係悪化後も米国のトップ大学や研究機関に支援を続けるファーウェイの巧みな戦略 -
第339回
スマホ
ビールのハイネケンが“退屈”な折りたたみケータイを提供 Z世代のレトロブームでケータイが人気になる!? -
第338回
スマホ
ファーウェイはクラウドとスマホが好調で大幅利益増と中国国内で復活の状況 -
第337回
スマホ
米司法省、アップルを独禁法違反の疑いで提訴 その中身を整理する -
第336回
スマホ
Nokiaブランドのスマホは今後も出される! バービーとのコラボケータイ、モジュール型などに拡大するHMD -
第335回
スマホ
ファーウェイスマホが中国で好調、次期HarmonyOSではAndroid互換がなくなる!? -
第334回
スマホ
Nokiaのスマホはどうなる!? HMD Globalが自社ブランドのスマホを展開か -
第333回
スマホ
アップルがApp Storeで外部決済サービスを利用可能に ただし手数料は27% -
第332回
スマホ
米国で特許侵害クロ判定で一時は米国で販売停止のApple Watch、修正は認められるか? - この連載の一覧へ