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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第190回

中銀デジタル通貨、11ヵ国・地域で実装済み

2022年08月01日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 世界の動きは速いもので、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency: CBDC)は、もう11ヵ国・地域で実装されている。

 米国のシンクタンク「アトランティック・カウンシル」が公開している「中央銀行デジタル通貨トラッカー」によれば、CBDCがすでに実装されているのは、中米とアフリカの国々だ。

 ナイジェリア、バハマ、ジャマイカと、東カリブの8つの国と地域だ。

 日本で暮らしていると、CBDCをめぐる中国や米国のニュースには目を通すが、西アフリカやカリブ海の国々の動きにはなかなか目が向かない。

 しかし、CBDCで先行する国々の動きは「準備中」の日本にとっても注目すべき情報が多数含まれている。

日本は「開発中」の位置付け

 中央銀行デジタル通貨トラッカーのウェブサイトを開くと、世界地図が表示される。

 世界地図は、国ごとにCBDCの発行状況で色分けされ、11ヵ国が「発行済み」のピンク色になっている。色付けされている111ヵ国・地域の状況は次の6段階に整理されている。

・発行済…11
・試験段階…14
・開発中…26
・調査中…46
・消極的…10
・キャンセル…2

 この地図では、中国は「試験段階」、日本は「開発中」、米国は「調査中」に分類されている。

 「現時点でCBDCを発行する計画はないが、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」との日銀の立ち位置からは、「調査中」にも分類されそうに思える。

 しかし、日銀が2021年4月から実証実験を進め、2022年4月には「概念実証フェーズ2」が始まっていることを根拠に、より進んだ「開発中」に分類されたようだ。

 基軸通貨ドルを発行する米国の動きも気になるが、世界地図上で見ると、米国の取り組みはやや遅れ気味と評価されている。

「世界初」はバハマのSand Dollar

 人口約39.3万人(2020年)の中米の小国バハマは、2020年10月に世界で初めてCBDCの発行をはじめた。世界で最初のCBDCは、Sand Dollarと名づけられた。

 バハマは、700以上の島々から成る島しょ国だ。

 法人税や所得税を免除して海外の企業を呼び込むタックスヘイブンとして知られる。税制などの影響で、日本企業を含め「バハマ船籍」の船舶が世界中の海を行き来していることも思い浮かぶ。

 通貨をめぐって同国は、島しょ国ならではの悩みを抱えている。

 人口の多い島から離れ、小さな島で暮らしている人たちは、現金が必要なときは、船で1日以上かけて銀行の窓口まで出かけていくことになる。

 こうした問題の解決につながるとして登場したのが、バハマ・ドルのデジタル版であるSand Dollarだ。

8ヵ国・地域の共通デジタル通貨

 東カリブ地域の島々には、旧イギリス領の小さな国や、現在もイギリス領である地域が多数ある。

 こうした8つの国と地域では、東カリブ中央銀行が発行する東カリブ・ドルが法定通貨として流通している。

●アンギラ(英領)
●セントクリストファー・ネービス
●アンティグア・バーブーダ
●モンセラット(英領)
●ドミニカ
●セントルシア
●セントビンセントおよびグレナディーン諸島
●グレナダ

 8つの国と地域の一部で、2021年3月にCBDCの「DCash」が発行されるようになり、順次、他の加盟国に拡大されてきた。

 ただ、2022年1月〜4月には技術的なトラブルが原因で、一時DCashは利用できなくなっていた。

アフリカ最大の国、ナイジェリアでも

 すでにCBDCが発行されている国の中で、もっともインパクトが大きいのは、ナイジェリアだろう。

 人口は2億614万人で、アフリカで最も経済規模の大きな国だ。

 ナイジェリアが、CBDC「eNaira(イーナイラ)」の発行を始めたのは、2021年10月のことだ。

 2021年12月までに60万以上のeNairaのウォレットが作成され、3万5千件以上の取引が行なわれたという。

プラットフォーム競争は始まっている

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