ウェブサイトを閲覧した人のパソコンの処理能力を同意を得ずに利用して、仮想通貨(暗号試算)を得るマイニングを実行させるウェブサービス「コインハイブ」(Coinhive)を使ったサイトの違法性が争われた刑事裁判で、不正指令電磁的記録保管の罪(通称ウイルス罪)で起訴されたウェブデザイナーの無罪が確定することになった。
最高裁判所第一小法廷が2022年1月20日、2審の東京高裁判決を破棄した。
今回の最高裁判決は、インターネット上で情報を発信する人たちにとって、大きな意味のある内容を含んでいる。
長くなるが、引用する。
「ウェブサイトの運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは、ウェブサイトによる情報の流通にとって重要である」
「広告表示プログラムと比較しても、閲覧者の電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響において有意な差異は認められず、事前の同意を得ることなく実行され、閲覧中に閲覧者の電子計算機を一定程度使用するという利用方法等も同様であって、これらの点は社会的に許容し得る範囲内といえる」
多くのサイトは広告収入に依存しているが、閲覧者のPCにマイニングをさせるコインハイブは、広告に代わる収益源となる可能性があるため一時、注目を集めていた。
コインハイブのようなプログラムはマイニングスクリプトとも呼ばれる。ウェブサイトから利益を得る仕組みとして「社会的に許容し得る」とする最高裁の判断は今後、マイニングスクリプトや類似する技術の利用に道を開く可能性もあるのではないか。
マイニングでサイト運営者に収益
仮想通貨の取引は、インターネットを通じて世界中のコンピューターが演算能力を提供し、複雑な計算を実行することで信頼性が確保されている。
提供した演算能力に対しては、報酬として仮想通貨が送られる。この作業が「マイニング」と呼ばれている。
コインハイブは、この仕組みを利用したウェブサービスだ。
スクリプトが実装されたサイトを閲覧すると、閲覧者のパソコンの演算能力の一部が自動的に仮想通貨MONERO(モネロ)のマイニングに必要な計算に提供される。マイニングで得られた報酬の一部は、サイトの運営者側に支払われる。
被告のウェブデザイナーは、ボーカロイドに関する情報を共有するサイトにコインハイブを実装していた。
意図に反するが不正ではない
20日の最高裁判決は、プログラムを実装した行為が、不正指令電磁的記録に該当するかを判断するうえで、ユーザーの意図に反していたか(反意図性)と、プログラムの内容が不正であったか(不正性)を判断基準とした。
最高裁は、マイニングを実行させるプログラムについて、ユーザーの意図に反していた点は認めている。
事前にマイニングに関する説明がなく、マイニングスクリプトの実行について事前にユーザーの同意を得る仕様ともなっていなかったと指摘する。判決は「プログラムに対する信頼という観点から、より適切な利用方法が採り得た」と批判している。
ただ、被告が設置したコインハイブについては、ユーザーが処理速度の変化に気づくほどの負荷ではなかったとも認定している。
一方で、プログラムの内容が不正であったかどうかについては、「社会的に許容し得ないものとはいえない」と、不正性を否定した。
ニュースサイトやブログなどを閲覧するユーザーは、いっしょに広告も見ることになるが、処理に与える影響も、広告を表示するプログラムとコインハイブを比較して、「有意な差異は認められない」と指摘した。
事前の同意と、軽い処理がポイントか

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