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小島寛明の「規制とテクノロジー」第38回

リクナビ事案はIT時代の独禁法違反になるか

2019年09月03日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 公正取引委員会が2019年8月末、大手IT企業の個人情報収集をめぐって、どのような行為が独占禁止法違反になりうるかについて、考え方を公表した。

 公表された文書のタイトルは「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」。

 「優越的地位の濫用」はこれまで、主に企業間の取引について適用されてきたが、プラットフォーマーとユーザー間の取引についても対象とした点は注目すべきだ。

 ユーザーの性別や職業などの個人情報を同意を得ずに提供させた場合、独禁法が禁じる優越的地位の濫用に該当する可能性があるとする。

 公取委は9月30日までガイドラインに対する意見を募っており、意見募集の手続きを経て運用を始める方針だ。ガイドラインが示す考え方を詳しく見てみたい。

●デジタル・プラットフォーマーが対象

 今回のガイドラインが対象とするのは、「デジタル・プラットフォーマー」だ。

 プラットフォーマーという言葉から頭に浮かぶのは、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの巨大IT企業4社を示す「GAFA」だ。ガイドラインは、プラットフォームを次のように定義している。

 「情報通信技術やデータを活用して第三者にサービスの「場」を提供し、そこに異なる複数の利用者層が存在する多面市場を形成するという特徴を有するものである」

 プラットフォーマーとして例示されているのは、次のような類型の事業者だ。

オンライン・ショッピング・モール:アマゾン、楽天、アリババなど
アプリケーション・マーケット:App Store(アップル)、Google Playなど
検索サービス:グーグル、マイクロソフトのBing、バイドゥなど
動画配信サービス:You Tube、Netflix、Huluなど
音楽配信サービス:アップル、グーグル、Spotify、アマゾンなど
SNS:フェイスブック、Twitter、Instagramなど

●無料ユーザーも独禁法に関係

 これまで、優越的地位の濫用は、大企業と中小企業、独占的な技術を持つ企業と、その技術を利用しないと製品がつくれない企業などの関係において適用されてきたが、プラットフォーマーとユーザーの取引も適用対象とした。

 プラットフォーマーとユーザーの取引は、プラットフォーム側が圧倒的に多くの情報を持ち、交渉力にも大きな格差がある。こうした関係では、ユーザーにとって不利な条件での取引になりやすい。

 グーグルの検索もフェイスブックのSNSも基本は無料なので、「取引」とは意識しづらいかもしれない。

 しかし、プラットフォーム側は、ユーザーの属性、行動履歴などの情報を事業活動に利用しているため、ユーザーの個人データには経済的な価値がある。ユーザーは金銭の代わりに、個人データを支払う「取引」をしていることになる。

 これまで独禁法は、一部の大企業にとって関係の深い法律だった。しかし、今後はグーグルやフェイスブックを無料で使っている多くのユーザーにとっても、意識しておくべき法律になったととらえることもできる。

●違反になりうるのはこんな行為

 ガイドラインは、プラットフォーマー側の「優越的地位の濫用」となりうる行為についても例示している。

事例1:「個人情報を取得するに当たり、その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく、消費者に個人情報を提供させた」

 ユーザーが簡単にアクセスできるところに、わかりやすく、平易な言葉で、利用目的を説明していれば、通常は問題にならないとされる。

事例2:「個人情報を取得するに当たり、その利用目的を「商品の販売」と特定し消費者に示していたところ、商品の販売に必要な範囲を超えて、消費者の性別・職業に関する情報を、消費者の同意を得ることなく提供させた」

 氏名、メールアドレス、クレジットカードの番号などは、ネット通販で買い物をするのに必要な情報だ。しかし、性別や職業は、なくても買い物はできる。

 ユーザーの明示的な同意があった場合は、買い物と直結しない情報収集も認められるが、ユーザーが「やむを得ず」同意した場合は、ユーザーの意向に反する同意となりうる。

 たとえば、買い物の前に同意を求められはしたが、同意しないと買い物できないのならば、「やむを得ず」同意したことになると考えられる。

事例3:「利用目的を『商品の販売』と特定し、当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく『ターゲッティング広告』に利用した」

 ユーザーが同意した範囲内の目的であれば、個人情報の利用が認められるが、その範囲を超えた場合は、問題になりうる。

事例4:「サービスを利用する消費者から取得した個人情報を、消費者の同意を得ることなく第三者に提供した」

 すぐに頭に浮かんだのは、就職情報サイト「リクナビ」の事案だ。

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