遠藤諭のプログラミング+日記 第192回
もうChatGPTやClaudeの出力をアプリケーションの画面にコピペする手間はかけたくない
「どこでもGPT」で、Gmail、Word、Slack、なんでもAI化する方法
2025年06月18日 09時00分更新
キーボードを操作する自分の指先に生成AIが棲みつく
生成AIは便利なのだが、それを使うには各サイトやアプリから使うのが一般的である。まだ、アプリケーションから直接この生成AIの機能を使えるケースは限られている。
Gmailのビジネスやエンタープライズ向けなどのライセンスであれば、「Help me write」というAI文書作成が使える。Microsoft 365 Copilotなら、Wordなどで範囲指定した部分に対して「Copilot」ボタンを押して指示できる。
しかし、これらは使うことのできるユーザーも限られているしやれる範囲も決まっている。

Gmailのビジネス契約などで使える「Help me write」。私は会社のアカウントで利用できるのだが、メールの中でしか使えないのと、メールの一部だけ書き直したいときなどのきめ細かなことができないので、使えていない。
そうした中で、AIエディタの「CURSOR」は、アプリケーションとAI機能が融合したもっとも洗練された例の1つだと思う。文章の先を提案してくる「補完」とか。過去に書いた文章などを意味検索したり、エージェントで調べものをやってくれたりもする。
しかし、いちばん重宝しているのが、編集中の文章の一部を範囲選択して、「読みやすく」とか「簡潔に」とか「補足説明を入れて」などと指示できることだ。範囲選択について、見出しを付けたり、インタビュー記事の複数の発言をまとめてわかりやすくしてくれたりする。
これはもう「キーボードを操作する自分の指先に生成AIが棲みついたような心地よさ」である。
あの便利さをCURSORの中だけでなく、自分が使っているあらゆるソフトウェアで使えるようにならないだろうか?
このような機能を提供するソフトウェアを探してみたが、残念ながら見つけることができなかった。最近のWWDCでAppleが発表したApple Intelligenceの「作文ツール」は、少し似た使い心地のようだ。しかし、これは自由なプロンプト入力による生成AI活用とは異なるため、本質的に別物だと言える。
そこで、キーボードの操作を自動化できる「AutoHotKey」というツールと自作のPythonのプログラムを組み合わせて、「どこでもGPT」(DokodemoGPT)というソフトウェアを作ってみた。
生成AIを使うのに、いちいちChatGPTなどのサービスを開いてアプリケーションにコピペするといった手間がいらなくなるというものだ。
メモ書きからメールの文面を作る
メールを書くとき、私は内容を箇条書きのようなメモ書きで入力することをよくやっている。通常のキーボード入力のほかに、Windows 11の標準音声入力機能を使うことも多い。音声入力は「Win-h」キーで簡単に起動できる。
このメモ書きを範囲選択して、ショートカットキー「Win-Ctrl-o」で「どこでもGPT」を呼び出す。すると「プロンプトを入力してください」というポップアップが表示される。
ここで、「丁寧なメールの文面に。改行を頻繁に入れて読みやすく」などというプロンプトを与えてやる。すると3、4秒の沈黙のあと「これでよいですか?」というAIからの返答がポップアップする。
これに対して、「はい」を選べば選択範囲をAIの提案に書き換える。「いいえ」ではそのまま何もせず。「キャンセル」を選ぶと元のテキストの下にAIの提案を追加する(キャンセルという表現はちょっとヘンなのだが=どちらでもないというニュアンスである)。
この機能で使用される生成AIは、ChatGPTを支えているOpenAIの言語モデルを直接利用している。つまり、望む結果を得るためには、プロンプトをどう書くかが重要なポイントとなる。最初の結果に満足できない場合は、プロンプトを工夫して書き直すことで、より良い結果を得ることができる。
以下の動画は、「どこでもGPT」を使ってメモ書きからメールの文面が作られるところだ。
Google Keepに書きなぐったメモを読みやすい箇条書きに
私は、Google Keepを情報収集のハブとして活用している。メモ、URL、画像などの情報をどんどん入れている。PCで作業中に備忘録として書き込んだり、SNSで見つけた情報をスマートフォンですぐにメモしたり。使い方は多岐にわたるが、基本的にかなり雑なメモ書きである。
このようなGoogle Keepのメモは、「どこでもGPT」を使えば、あとで読みやすいものに書き換えることができる。メモを選択して「箇条書きで簡潔に、誤植も直して」と指示するだけで、読みやすい形式に変換してくれる。
Google Keepには、たった一言だけ「ライアン・ノース」などと書かれたメモも入っていたりする。これも、「どこでもGPT」で「どんな人、どんな本書いてる」などとやると答えが出てくる。Webで検証はせず、単純に言語モデルを呼び出しているだけなのであまり欲張らないことだ。
以下は、Google Keepのメモを「どこでもGPT」で箇条書きにしているところの動画だ。
ワードの中で標準の校閲よりきめ細かな校正・校閲を行う
マイクロソフトのWordでも、「どこでもGPT」は、いろいろな活用ができる。
私の場合、Wordファイルといえば「この文書を確認して校閲メニューから間違いや気になることをコメントで書きこんで欲しい」という形で送られてくることがよくある。
こういうときに、私が校正・校閲で使うプロンプトは「《地名》《大学名》《人名》《団体名》などの固有名詞や、事実に関する記述に間違いがないか、重点的にチェック。 正しい名前に直した方がよい箇所があれば、具体的に指摘してください」といったものである。ここから自分の目で確認したり調べたりする。
そこで、Wordで範囲選択して(テキスト全体でもよいが段落ごとくらいが作業的にはちょうどよい)、「どこでもGPT」を呼び出し上記のプロンプトを与えてやる。
こんな長いプロンプトをいちいち入れるのは大変である。日本語IMEに登録しておく手もあるが、実は、IMEに登録できる単語の長さではまるで足りない。そんな場合のために、「どこでもGPT」の姉妹ソフトとして「どこでもプロンプト」というものを作って使っている。
キーワードごとに長いプロンプトを登録しておいて、プルダウンメニューで選んで使えるようになっている。
「どこでもプロンプト」もGitHUBに公開しているので興味のある方はそちらを参照してほしい。「これでよいですか?」と出てきたら、「キャンセル」を選んで、選択範囲のあとに校正・校閲の結果を挿入して確認するのがやりやすい。
以下の動画は、WORDで「どこでもGPT」を使っているところだ。
生成AIはもう一歩ユーザー寄りにあるべきではないか?
「どこでもGPT」を使ってみる場合は、まず、GitHubから配布パッケージをダウンロードして適切なフォルダに展開する(zipファイルはリリースとして提供しているのでtagボタンより)。
この配布パッケージに含まれるexeは、いずれもWindows 11を想定している。Macの場合は、リポジトリのmainにあるReadme.mdを見ていただきたい。少し作業が必要になるがPythonのコードも同梱してある。
次に、OpenAIのAPIキーを環境変数「OPENAI_API_KEY」に設定する必要がある。このAPIキーは、OpenAIの従量制サービスを利用するためのものだ。APIを使う以上、インターネット接続が前提となっている。
APIキーを持っていない場合は新規取得が必要となる。取得は簡単で、OpenAIのサイトの右上「ログイン」から「APIプラットフォーム」を選択して登録できる。使用しなければ料金は発生しないので、この機会に取得されるのはいかがだろう。
料金は使用量に応じて変動するので、よほど1日中使いまくるなら話は別だが、私の場合は1日数円程度の利用料で済んでいるようだ。
「どこでもGPT」の立ち上げは、配布パッケージの中のDokodemoGpt02ahk.exeを実行する(Windowsのスタートアップに登録しておくと便利だ)。
なお、配布したパッケージ版で「GPT-4o-mini」を使用しているが、言語モデルを変更することもできる(より安い課金のモデルも使用可能=同梱のPythonコードの変更などをする必要がある)。OpenAI以外の大規模言語モデルのAPIを呼ぶものやローカルLLMで課金無料バージョンも作ってみたいと思っている。
私の環境では問題なく動作するものの、ユーザーの環境によっては正常に動作しない可能性もある。予期せぬ結果を招く可能性もあるため、「どこでもGPT」の使用は自己責任でお願いしたい。また、サポートについても基本的には提供できないことをご了承いただきたい。
今年2月、このコラムでCURSORを文章作成に使うという記事を書いた(「いま文章を書くのに「CURSOR」を使わないのは損だ。」)。その時点では海外も含めてそうした提案の記事もブログもなかったのだが、その後、同じような提案の記事やポストをいくつも見かけるようになった。潜在的にそういうニーズがあったのだ。今回の「どこでもGPT」のしくみもそんなことではないかと思うのだが。
●「どこでもGPT」
https://github.com/hortense667/DokodemoGPT02
●「どこでもプロンプト」
https://github.com/hortense667/DokodemoPrompt
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。「AMSCLS」(LHAで全面的に使われている)や「親指ぴゅん」(親指シフトキーボードエミュレーター)などフリーソフトウェアの作者でもある。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
Twitter:@hortense667
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