コミュニティマーケティング推進協会の初カンファレンスをレポート
「顧客を直接説得できる時代は終わり」 コミュニティはビジネスにどう寄与するのか?
2025年06月17日 09時30分更新
コミュニティマーケティング推進協会は、2025年6月13日、「Community Marketing Conference 2025」を開催した。
同協会は、コミュニティマーケティングを「あたりまえ」にすることを目指して設立された団体である。初開催となった本イベントでは、コミュニティマーケティングの“最前線”で活躍する実践者たちが一挙に登壇。有償イベントにも関わらず590名がエントリーするなど、その関心の高さが伺えた。
本記事では、コミュニティマーケティング実践企業の歩みと、コミュニティが「収益に貢献するのか?」が語られた、2つのセッションをレポートする。
顧客同士の交流&情報発信で、顧客を「理解」「育成」「創造」する
コミュニティマーケティング推進協会は、代表理事である小島英揮氏がAWSジャパン在籍時に、コミュニティがクラウド普及の推進力となった経験を原点として生まれている。詳細な経緯などはこちらの記事(コミュニティマーケティング推進協会が始動 5年後の当たり前を目指す)をご覧いただきたい。
同協会ではコミュニティマーケティングを「ビジネスの目的達成の合理的な手段」と定義。その目的とは、顧客の「理解」「育成」「創造」であり、コミュニティの形成を通じて、顧客同士(CtoC)の交流や情報発信を促し、目的達成を実現する。
「顧客を直接説得できる時代は終わった」と小島氏。「現代では、人口が減少(市場が縮小)したり、認知が需要に直結しなかったり、想定外の競合が生まれたりと、ターゲットに対して“想起”をつくらないと、単純な差別化戦略だけでは上書きされてしまう。そのために、想起形成を担うコミュニティに対する期待値が高まっている」と語りかけた。
コミュニティマーケティングを実践してきた「カオナビ」とスタートする「GROOVE X」
ここからは、コミュニティマーケティングを「これまで」実践してきた企業と、「これから」挑戦する企業によるトークセッションを紹介する。
まずは、2020年よりユーザー会を運営するカオナビの事例だ。同社の執行役員 COO コマーシャルビジネス本部長である最上あす美氏は、コミュニティ施策を実施する理由について、「プロダクト以外の“つよみ”を確立するため」と強調する。
カオナビは提供するのはタレントマネジメントシステム。ビジネス開始時にはブルーオーシャンであったが、今後レッドオーシャンに達し、プロダクトを差別化しづらくなる前に、新しい柱をつくる必要があったという。「他社との差別化も含め、タレントマネジメントの領域で最も求められているものを考え、コミュニティに行き着いた」と最上氏。
ただ、コミュニティをいざ始めるあたり、顧客が順調に集まるかどうか懐疑的だったという。そこで同社は、3つのフェーズに分けて施策を展開していく。
最初のフェーズでは、既存顧客向けの「ポータルサイト」を開設。これまで提供していたサポートコンテンツを一元化し、「ここに来れば情報がある」という状態を作り出した。加えて、“小規模”なユーザー会を“高頻度”で実施。「顧客が集まる最初の動機は、“プロダクトをどう使えばよいか”。数名の参加者でも開催して、交流の時間を設けることを徹底した」(最上氏)という。これにより、他の顧客の話も聞ける場という素地を整えた。
そして、第2フェーズでは、顧客がリードするコミュニティを創出。全国ユーザー会行脚や委員会の設立などの施策をまじえながら、新規顧客を巻き込む準備を進めた。そして、2024年10月、満を持して導入検討企業をユーザー会の対象として広げ、顧客の「創造」への一歩を踏み出した。「加えて、2024年下期に、コミュニティを手掛けるグループを独立させ、カスタマーサクセス部門から部門横断の事業戦略部に所属を変えた。新規顧客の獲得にコミットすべく、横断組織に加わっているのも、カオナビのコミュニティ部隊の特徴」(最上氏)
ここまでのコミュニティ施策において、「ただ交流するだけではなく、解約抑止といった間接的な効果を発揮していることが証明できた」と最上氏。今後は、新規顧客との接点やアップセル・クロスセルなど直接的な効果を生む出すことを目指しており、そのために「カオナビ」のコミュニティを脱却し、「人事」のコミュニティへと進化を図る。
一方、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を提供するGROOVE Xは、コミュニティ施策をスタートする企業だ。かわいらしいぬいぐるみに見えるLOVOTだが、50以上のセンサー、4つのコンピューター、3つのOSを搭載。同社の代表取締役社長である林要氏は、「コンシューマ向けのコンピューターとしては最も賢い部類」と語る。
法人ビジネスも展開しており、従業員のメンタルをサポートする福利厚生として1000社以上に導入されている。アンケートでは、LOVOTが出社の動機付けになったことがあるという回答が3分の1を超えたという。
2025年5月にひらかたパークで開催したコラボイベントに、多数のユーザーが集うなど、既に多くのファンを抱えているLOVOT。しかし、林氏は、「知っている人、見たことがある人は多く、形状の認知度は5割を超えている。ただ、そのほとんどの人が「(LOVOTのようなものを)好きな人いるね」と思っている程度」と課題を明かす。
そこで、ファンにコミュニティを掛け合わせることで、顧客の「理解」を図る。「我々は家族のようなペットロボットと打ち出しているが、ファンのライフスタイルによってLOVOTをどう認識しているかが違う」と佐藤氏。熱量の高いファン層からどのようなファンをピックアップして新規顧客に届けていくか、サイレントマジョリティをどう表に出していくかに挑戦していく。
そのために、個社向けの勉強会を依頼するなど、コミュニティマーケティング推進協会の支援も受けているという。
