
著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「まず完璧な計画を立ててから始める」
それが旧来のビジネスにおいては常識だった。 でも、新規事業ではうまくいかないケースが多い。それはなぜだろうか。
多くの企業が新規事業で取り入れている「リーンスタートアップ」は、そうした“計画重視”のアプローチとは真逆の考え方を示している。
ただし、「小さく始めればいい」という表面的な理解にとどまると、この方法論の本質にはたどり着けない。
本質は「早く動き、早く学ぶ」こと。 不確実な状況でどう意思決定するか。その考え方の根っこを、改めて整理していきたい。
新規事業というと、スタートアップやベンチャー企業の取り組みというイメージが強いかもしれないが、現在では一般企業にとっても不可欠なテーマとなっている。特に外部環境の変化が激しい中で、企業が競争力を維持するためには、新たな事業を生み出す力が問われている。
そうした状況で知っておくべきことが、「リーンスタートアップ」だ。この方法論は、スタートアップの世界に端を発しながらも、現在では世界中の大企業や教育機関に広がり、実務の現場でも幅広く活用されている。
リーンスタートアップとは何か
リーンスタートアップは、以下の3つの要素で構成されている。
1. 仮説構築のための「ビジネスモデルキャンバス」
2. 仮説検証のための「顧客開発モデル」
3. 最小限の製品(MVP)を用いて改善を繰り返す「アジャイル開発」
この方法論のポイントは、計画から実行までのスピード感にある。完璧な製品を目指して長期間準備するのではなく、最小限のプロトタイプを市場に出してフィードバックを得ることに価値を置いている。
顧客理解が鍵を握る
この手法において鍵となるのが「顧客発見」のプロセスである。実際の顧客から何を学ぶかが、仮説検証の精度を左右する。
特に、バイアスのないインタビューの実施が重要である。顧客が「使ってみたい」と言ったとしても、それが行動につながるかどうかは別問題である。
「ジョブ理論」との接続
さらに、リーンスタートアップで重要な顧客のニーズを捉える枠組みとして有効なのが、「ジョブ理論(Jobs To Be Done)」である。
これは、顧客が「特定の状況で達成したい進歩(ジョブ)」に注目するアプローチである。
例えば、ある飲料を選ぶ理由が「喉の渇きを潤したい」のか「集中力を高めたい」のかによって、提供すべき価値はまったく異なる。
ジョブがあまりに抽象的すぎると、対象が広すぎて製品の焦点がぼやけてしまう。逆に狭すぎると、あまりにニッチな市場しか狙えなくなる。実用的なジョブの設定には、適切な抽象度のバランスが求められる。
まとめ
リーンスタートアップは、「失敗を避けるための方法」ではない。むしろ、早く失敗し、そこから学ぶことに価値を置く方法論である。
特に、不確実性が高い新規事業においては、「いかにして仮説を立て、素早く検証するか」が成果を左右する。
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