ソニーは5月16日、ワイヤレスヘッドホンの新機種「WH-1000XM6」を発表した。ノイズキャンセル機能を搭載したフラッグシップ機種。価格はオープンプライスで、カラーはブラックとプラチナシルバーの2色展開。5月30日の発売を予定している。Sony Storeでの直販価格は5万9400円。
強力なノイズキャンセルを支えるプロセッサー、7年ぶりの刷新
WH-1000XM3から採用されたノイズキャンセル処理用のプロセッサー(QN1)が実に7年ぶりの進化を遂げた。新しいプロセッサー(QN3)の搭載で世界最高クラスと定評のあるノイズキャンセル性能が強化されている。
また、グラミー賞の受賞歴を持つなど、世界的に著名なマスタリングエンジニア4名と共創し、開発段階から意見交換して生まれた高音質も特徴だ。360 Reality Audioに加えて、アプリの操作でオン/オフが選べる「360 Upmix for Cinema」という独自のリアルタイム処理でステレオサウンドを擬似的に立体音響化する機能もあり、映画も大迫力で楽しめるのも魅力となっている。
音楽制作では録音、ミキシング、マスタリングの工程を踏んで最終的な音源が作られる。アーティストの意図通りの音とは、録音された音をそのまま再現するわけではなく、アーティストやエンジニアの意図が反映された作品を届けるということになる。音楽制作の最終工程となるマスタリングにフォーカスしているのは、よりユーザーに近い部分での再現にこだわったためとも言える。
ドライバーユニットは独自設計。30mm径というサイズは従来と同じだが、穴をもうけたボイスコイルボビンを使用することで高音域の再現性が向上している。ハイレゾ級の伝送が可能なLDACやアップスケーリング機能の「DSEE Extreme」も引き続き対応する点はソニーらしさを感じさせる部分だ。
QN3の処理速度はQN1の7倍以上。「アダプティブNCオプティマイザー」として、ノイズキャンセル処理(NC)の自動調節機能を強化。従来の「オートNCオプティマイザー」よりも高域の騒音低減力が向上し、環境音、気圧の変化、メガネ/帽子などの装着時にも高いNC性能が得られるという。搭載するマイクの数も従来の8個から12個に増えている。マイクはフィードフォワード/フィードバック用に合計4つ追加。うち2つ(左右1つずつ)は耳孔付近に配置したフィードバックマイクで、アダプティブNCオプティマイザーの適用に効果的となっている。手法、精度、カバーできる周波数範囲の改善したことになる。
強力な演算性能とドライバー性能が連携している
チューニングの技術的なポイントは2つある。
一つ目は、新規に開発した先読み型のノイズシェイパーだ。急峻な音の立ち上がりに対する応答性を改善したという。ヘッドホン内蔵の回路では、デジタルで処理を加えた後にアナログ信号に変換する際、量子化ノイズを取り除くためにノイズシェーパーを使用するが、これを先読み型にした。サンプル信号から予測しておくことで、原音忠実で立ち上がりのいい音源再現ができる。低音の迫力が上がるほか、クリアで音場は広く、アタックなども向上するという。
加えて、ドライバーユニットも柔らかいエッジと剛性が高く軽いカーボンファイバー配合素材の振動板を使用。ここをより高剛性にして高域の歪みを減らしているほか、ボイスコイル付近のボビンに穴を開けることで滑らかで伸びのある高域特性を得ている。
ハウジングの内側に備えたマイク(フィードバック用マイク)も片側2つずつ装備。周囲のノイズを的確に把握できるようになった。マイクを増やせばそれだけ処理の精度が上がるが、その分負荷が高まり、消費電力などに影響が出る。新しいプロセッサーの採用が生きる部分だ。
マイクの多さは、通話品質の向上にも効果的だ。6つのマイクを利用したAIビームフォーミングで、より鋭い指向性を実現。ノイズを拾わず、声だけにフォーカスした集音が可能となっているほか、5億サンプルをこえる学習成果を反映したAI処理も活用している。また、LE Audio使用時の周波数帯域が従来の2倍(スーパーワイドレンジ)となり、自然でクリアに音を聞けるのも特徴。
本体ボタンでマイクのオン/オフができる点はオンラインミーティング時に便利だ。
マイクはメッシュだけだったのが金属製のグリルで覆っている。風切り音対策に加えて、見た目の品位も上がっている。
なお、音質とノイズキャンセリングについてはQN3が寄与するが、V2チップもパワーアップしており、こちらは通話処理などに貢献しするそうだ。LE Audioやアップミックス、BGMモードなどで使用している。
ハウジングの継ぎ目がなくなり、折りたたみも可能に
本体は折りたたみ構造(M5は折りたたみ非対応)に対応。ケースもコンパクトになった。ヘッドバンドも太くして装着時の安定性を上げている。ハウジングは3mm厚くなっているが、イヤーカップ自体の厚みは変わらず、パッドの露出部分が少し増えている。見た目はシンプルで、部品の分割が無くなりスッキリとしている。
従来機種はこの部品が分割されていて、その継ぎ目にマイクなどの部品を置いていた。その分割がなくなったため、ボタンなどのデザインやマイク位置が変わっている。また、内部のハンガーの構造の変更によってマイク位置の自由度が上がったことも、より最適な位置にマイクを置くために役立った。細かな違いだが、左右に回転するスイーベルの方向も逆になっていて、これは首かけした際の硬さの改善につながる。
専用アプリで設定できるイコライザーは10バンドとより細かな調整が可能になった。「聞きながら充電」として、従来は非対応だった、充電しながらの利用も可能となった。マルチポイント接続は2台まで。後に再生した方に自動で切り替わるため、複数機器を利用している場合の利便性が高い。
「BGMエフェクト」など、ながら聞きに便利な機能も用意した。これは、音楽再生を止めたり、単純に音量を小さくするのではなく、音源が遠くから鳴っているように聞かせることで、音楽と周囲の音を同時に聞きやすくする技術だ。WHOの推奨する限度の音量に近づくと音量を下げる。さらに、自分の声で操作できる音声コントロール機能も搭載している。
連続再生時間は最大30時間(NCオン)/40時間(NCオフ)で、BluetoothコーデックはSBC、AAC、LDAC、LC3に対応。本体は従来より4g重い254gとなっている。ソニーは製品を長く使える点も重視しており、イヤーパッドの単体販売やワイヤレスヘッドセットの片側販売もしているが、本機ももちろんその対象だ。
