GMOブランドセキュリティがその変遷と取得方法を語る
例えるなら“表参道の一等地” 14年ぶりに申請開始する「ブランドTLD」の価値とは?
2025年05月12日 08時00分更新
企業がドメイン名に自社のブランド名を使用できる「ブランドTLD」のセカンドラウンドが、2026年4月から申請開始となる。前回のファーストラウンドは2012年。14年ぶりの申請開始は、待ちに待った動きだ。ファーストラウンド当時、ブランドTLDは、知財保護の観点で取得されていたが、現在はその目的が大きく異なっているという。
本記事では、GMOブランドセキュリティが開催した説明会の内容から、ブランドTLDの概要と取得方法について紹介しよう。
企業独自のトップレベルドメインがもたらす価値
ブランドTLDとは、ドメイン名の末尾部分(トップレベルドメイン=TLD)に、企業名やブランド名を使用できる仕組みだ。例えば「brandsecurity.gmo」というドメイン名の「.gmo」部分がブランドTLDにあたる。この仕組みは、2012年にインターネットのIPアドレスやドメイン名を管理する非営利団体「ICANN(アイキャン)」によって始まった「新gTLD」の種類のひとつである。
通常、企業のドメイン名は「.com」や「.jp」などの既存TLDを使用している。GMOブランドセキュリティのマーケティング&サービスストラテジ本部 本部長である寺地裕樹氏は、これを「マンションの一室を賃貸する形」と表現する。一方で、ブランドTLDは「マンションを一棟丸ごと所有するような権限」を得られる。企業はレジストリという立場になり、ドメイン登録ルールを決定し、全ドメインネームを管理する権限を所有できる。
現在、世界では441のブランドTLDが存在しており、国内では「.toyota」「.sony」「.honda」「.canon」「.toshiba」「.sharp」「.gmo」などが取得済み。海外でも、「.amazon」「.aws」「.microsoft」「.google」「.kpmg」など、大手企業が取得している状況だ。
ブランドTLDの活用目的は、当初から大きく変化してきたという。2012年のファーストラウンド時は、知財保護の観点が中心だったのだが、2025年現在ではなりすまし対策やガバナンス強化、ウェブブランディングの一貫性の確保などのために活用されるようになった。
活用目的の変化は、ここ10年間におけるネット環境の変化と関連している。近年、ウェブサイトの真正性を判断する手段が次々と崩壊。SSL/TLSは運営者の実在性を証明しないタイプが増加し、ドメインのWhois情報も、EU一般データ保護規則(GDPR)の施行により非公開化が進んで、所有者確認が困難になっている。そうした状況下で、一目でブランドの正当性を確認できるブランドTLDの価値は高まっているという。
ブランドTLDを積極的に活用している企業の好例としてトヨタ自動車が挙げられる。トヨタはドメインの累積登録件数が345件と国内最多を誇り、コーポレートサイト(global.toyota)をはじめ、関連会社サイト(konpon.toyota、woven.toyota)、サービスサイト(id.toyota、biz.toyota)など幅広く活用している。
東芝も、2025年4月から順次、メールアドレスのドメインを「mail.toshiba」に変更している。セキュリティレベルの高い、社名を利用した「.toshiba」に変更・統一することで、「ブランドの一貫性の確保や、お客様をはじめとするステークホルダーの皆様とのより安心・安全なコミュニケーションを実現します」と説明している。
海外事例としては、ドイツの金融機関DVAGが、ファイナンシャルコンサルタントに対して、「個人名.dvag」形式のドメインを8581件も発行している。正規のコンサルタントであることの証明として機能させるためだ。なりすましを防止するという目的に加え、コンサルタントの信頼性向上に貢献しているという。
アウディも、各ディーラーに1691件にのぼるブランドTLDのドメインを割り当て、統一されたブランドイメージの構築に成功している。このように、ブランドTLDはグループ企業全体、あるいはビジネスパートナーを含めた広範な適用が可能であり、ブランド価値の一貫性を高める効果がある。
ドメインを切り替えるとなると、これまで育ててきたSEOへの影響についても気になるところ。ただ、GoogleのSEO担当者ジョン・ミューラー氏は、「新gTLD(ブランドTLD含む)とレガシーTLDの差はない」と回答している。検索結果のランキングについては、「移行期間中は既存ドメインが上位に表示されることもあるが、適切な転送設定(ステータスコード301でリダイレクトさせる)などを行うことで、SEO効果を維持できる」と寺地氏。
また、複数のブランドを持つ企業については、「複数のブランドTLDを取得することも可能。例えば日産は3つ、トヨタは2つ、Amazonは30以上のブランドTLDを持っている」(寺地氏)ということで、企業規模や戦略に応じた柔軟な展開も可能だ。
