パートナー数は4年間で倍に
AIエージェントの時代 富士通とSCSKはGoogle Cloudになにを期待するのか
2025年4月22日、グーグル・クラウド・ジャパンはAIエージェント時代のパートナー戦略についての説明会を開催した。説明会ではパートナービジネスの進捗やAIエージェントにむけた同社の取り組みが披露。また、富士通とSCSKが登壇し、グーグル・クラウドとのパートナーシップでなにを目指すのかを説明した。
パートナー数は4年間で倍に 今年はAIエージェントに注力
発表会の前半はグーグル・クラウド・ジャパンから、AIに注力するグーグルの戦略とパートナーエコシステムの拡大について説明が行なわれ、AIに強いGoogle Cloudがアピールされた。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 日本代表 平手 智行氏は、「GoogleのAIで進化したクラウドが変革をさらに加速する」というGoogle Cloudのミッションを披露。昨年の前半PoCレベルだった企業でのAIへの取り組みは、すぐに汎用業務の利活用に進み、今年後半では「売上増や業務改善に寄与するコア業務において、責任を持って利用するようになった」(平手氏)と最新動向を説明した。
平手氏は、62件の実践的な生成AI事例の中から、Geminiで映像素材にメタデータを付与し、検索性を向上させたTBSテレビや、ECサイトにおける膨大な商品の検索をVertex AIで強化したカインズの事例を披露。2025年に注力するAIエージェントに関しては、さまざまなサービスを連携させることで、Web検索もエンタープライズの情報もユニバーサルにアクセスできる「Google Agentspace」をアピールした。
続いて登壇したグーグル・クラウド・ジャパン合同会社 パートナーエンジニアリング技術本部 統括技術本部長 坂井 俊介氏は、日本でのパートナーエコシステムの成長について説明。日本でのパートナー数が4年間で2.1倍に、パートナーによるGoogle Cloudの売上が4年間で4.3倍に拡大したことをアピール。認定資格者も9.9倍と大幅に増加し、トップレベルの生成AIエンジニアを育てる講習も数百人が受講済みだという。
投資対効果も出やすく、収益にもつながり、効果が出るまでの時間も短い
AIエージェント戦略とパートナーエコシステムについて説明したのはグーグル・クラウド・ジャパン合同会社 パートナー事業本部 上級執行役員 上野 由美氏。まずは「アーリーアダプターが市場を独占」「AIの資本投資が急増」「AIエージェントが主流に」「企業がコア業務の自動化にマルチモーダルLLMを採用」「データセンター容量の需要が急増」「ハイパースケーラーが企業のAI導入の障壁を取り除く」などの最新トレンドを披露し、AIエージェントに向かう市場の方向性を説明した。
この中でポイントしたキーワードは、テキスト、画像、動画、音声などメディアをまたがってコンテキストを理解するマルチモーダルAIだ。2025年では24億ドルの市場だが、2037年には989億ドルにまで拡大する予定で、今後の注目度が高いという。
また、生成AIの企業インパクトについてエンタープライズ企業のリーダーにヒアリングした内容も合わせて披露された。ここでは全体の4社中3社が投資対効果を得られるとし、30~35%も今後12ヶ月以内に投資対効果を得られると回答されている。また、86%の企業が本番環境ですでに生成AIを利用しており、6%以上の収益増に結びつくと予想。価値を実現するまでの期間も84%の企業が6ヶ月以内を予測している。上野氏は、「投資対効果が出やすく、収益にもつながり、効果が出るまでの時間も短い。AIは頼りになる技術と認識されている」と語る。
今後注力するAIエージェントに関しても、すでに10%の経営幹部が利用済みで、3年以内に82%が導入を予定しているとアピール。グーグル・クラウドではエージェント同士の連携のために、MCPを補完するAgent2Agentプロトコルを提唱しており、さまざまなエージェントとの連携がオープンに進むことで、フレームワークに依存しない相互の通信が実現すると説明した。
順調な成長を遂げているパートナーエコシステムに関しては、2025年度から3年間をかけ、基盤作り、事業拡大、持続的成長へと変革を進める。特定業界の事例創出を進めつつ、パートナープログラムの販売業務の効率化や収益化の向上を実現。また、日本独自の組織として「インダストリーソリューション開発部」を1月に新設し、業界特有の課題を解決すべく、パートナーとの連携を深めているという。
AIを使いこなす会社として共創し、切磋琢磨する富士通
発表会の後半はパートナーである富士通とSCSKが登壇し、生成AIの戦略とグーグル・クラウドとなぜパートナーシップを組むのかを説明した。
最初に登壇した富士通 AI戦略・ビジネス開発本部長 岡田 英人氏は、1990年代にシステムエンジニアとして入社して以来、自治体案件やDXの支援、研究所における事業部との連携、シリコンバレーでのスタートアップとの連携などを手がけてきた。現在は、AI戦略・ビジネス開発本部を担当している。
今年設立90年を迎える富士通も、電話交換機からスタートし、コンピューターの開発、そしてシステムインテグレーションへと主力事業の大きなシフトを進めてきた。しかし、一貫していたのは、長らく「AIを作る側」にいたこと。「1990年代からずっとAIは開発していた。技術的には今でもリーダーだと思っている」と岡田氏は語る。
とはいえ、今までは事業部やプロジェクトごとに開発されたAIが異なっていた。これを統一したのが「Fujitsu Kozuchi」だ。「人のように見る、人にように分析する」を掲げるKozuchiはすでに80ものメニューが用意され、しかもエンジンやコンポーネントを試すことができる。また、エンタープライズ向けのフレームワークや日本語精度No.1を謳うLLM「Takane」なども展開し。自社製品にこだわるのではなく、先日はビンチョウマグロの脂のノリを検査するソノファイの装置に技術を提供するといった試みも行なわれている。
こうして長らくAIを作ってきた富士通だが、これからは「これからはAIを使いこなす会社としても認識されたい」と岡田氏は語る。KozuchiのAIエージェントでは「AIはあなたのバディになる」というビジョンを掲げ、AIに人間が使われるのではなく、あくまで人間がが主権を持って、AIを使うという世界観を描く。Google Cloudに関しても、AIを使いこなす企業として、富士通自身がVertex AIを活用し、アプリ開発の高速化を目指すという。
岡田氏は、今やりたいこととして、SIビジネスの変革をAIでリードすること。短期的には汎用サービスを用いた生産性の向上、中長期的にはAIネイティブアーキテクチャへの移行を目論む。また、データ&AIビジネスを創出すべく、顧客との共創や価値提供のための「Fujitsu Uvance」としてのオファリングを進める。さらにAIビジネスを加速でさせるための場を整備・運営するという。
Google Cloudとのパートナーシップは、グローバルベンダーに胸を借りる意味も大きいという。岡田氏は、「オープンイノベーションはいわば切磋琢磨だ。弱いモノ同士での連携はイノベーションにならない」と述べ、グローバルをリードするGoogleのAIと自らのAIをときに協調させ、ときに競いながら、イノベーションのレベルを上げていく方向性を掲げた。対象としては、Uvanceでフォーカスする7つのフォーカス領域に加え、「業界をまたいだ領域、業界再編が起こる領域にチャレンジしていきたい。こうした領域では、エージェント同士もクロスしていくことになる」と岡田氏は語る。
アドバイスするERPをGeminiで実現したSCSK
AIを作るだけでなく、使う立場にシフトし、Google CloudのAIを活用していきたいと考える富士通に対し、SCSKは自社プロダクト「PROACTIVEシリーズ」の価値強化にGoogle AIを活用する。このPROACTIVEのGoogle Cloud採用に関しては、SCSK 執行役員 PROACTIVE事業本部長 菊地 真之氏が説明した。
PROACTIVEシリーズは、32年前に開発された国内初のERPパッケージ。グローバルベンダーとの競争を経ながら、成長を遂げており、導入実績は6600社、300以上の企業グループで活用されている。
このPROACTIVEが32年目に進めた大変革が、AIネイティブな経営プラットフォームへの脱皮だ。具体的に言えば、ERPのデータをGeminiで直接経営ダッシュボード化し、チャットで分析を提示。グローバル経済の変動や消費者の多様化、サプライチェーンリスクの増大など、変化の激しすぎる現在の経営をサポートしようという取り組みだ。「ERPのデータをそのまま経営に活用できる。ERPが経営者のアドバイザーになる」と菊池氏は語る。
PROACTIVEでGeminiを採用したのは、「この1年の進化がすごかった。特に昨年の10・11月から加速度的に進化したから」と菊池氏は語る。マルチモーダルやロングコンテキストへの対応はもちろん、バックエンドでのビッグデータ処理やAPI連携のスムースさ、さらにはグローバルでのサポートや技術支援もGoogle Cloud採用の大きな理由だったという。