情報労連レポート「ITエンジニアの労働実態調査 2024年版」より
40代のITエンジニアを求める企業、5年間で倍増 人手不足を色濃く反映
2025年04月25日 07時00分更新
情報産業労働組合連合会(情報労連)は、2025年4月21日、「ITエンジニアの労働実態調査」の2024年版について詳細を説明した。
同調査には“ITエンジニア不足”の現状が色濃く表れており、約7割の企業が初任給の引き上げ、約8割の企業が賃上げを実施していることが明らかとなった。また、30代のITエンジニアが最も不足している状況はここ数年変わらないが、「40代のITエンジニア」が不足しているとする企業も、5年前と比べて約2倍に増加している。
情報労連 政策局長である青木哲彦氏は、「ITエンジニア不足が深刻化する中、デジタルによる日本経済のさらなる活性化、そして、社会や暮らしに貢献していくためには、賃上げや人材育成の強化をはじめとする活発な人的投資が必要不可欠」と訴えた。
多くの企業が初任給・賃金を引き上げ、ただし他国よりも低水準
情報労連は、情報通信・情報サービス産業、通信建設業を中心とする産業別労働組合組織である。約230組合、19万人の組合員で構成される。
同組織が1993年から実施しているITエンジニアの労働実態調査は、2024年版で31回目を数える。情報サービス産業の実態を把握することで、同産業の魅力を高め、そこで働くITエンジニアの社会的地位と働きがいの向上を目指している。賃金・労働時間・経営課題について継続調査すると共に、毎年テーマに応じた特別項目も設けている。
今回発表された2024年版は、2024年5月から8月にかけて調査を実施したもの。調査協力企業数は186社に上る。回答企業の業種は「ソフトウェア開発」(54.1%)、「SIサービス」(21.9%)、「情報処理サービス」(10.9%)など、情報サービス企業が大半(88%)を占める。
まず、ITエンジニアの賃金の状況だ。「年間賃金(所定内賃金+年間一時金)」の年齢別平均値をみると、25歳の389万円からスタートし、30歳は456万円、40歳は575万円、45歳以降は600万円台という結果だった。
これをグローバル水準と比較するとどうか。まず、米Payscaleによる各国のソフトウェアエンジニア年間賃金データをみると、日本の平均値は447万円。これは、情報労連調査での年齢別金額の範囲(389~697万円)に収まる。
これを踏まえ、他国の平均値をみてみると、アメリカが1421万円、イギリスが776万円、オーストラリアが825万円、ドイツが928万円、フランスが695万円、スイスが1639万円だった。円安の影響もあるが、日本のソフトウェアエンジニアの賃金はこれらの国々を下回る水準といえる。
続いて「初任給・賃金の引き上げ」状況だ。ここでは「人材獲得競争の激化を背景に活性化している」(青木氏)という。実際に、約7割の企業が初任給の引き上げを実施しており、引き上げの平均額は1万3251円だった。
ただし、初任給の引き上げは、企業規模により大きな差も生まれている。従業員数1000人以上の企業では95%が引き上げを実施している一方で、100人未満では54.1%にとどまる。引き上げ額についても、1000人以上と100人未満の企業では倍以上の差がある状況だ。賃上げについても、全体では約8割の企業が実施しているが、やはり企業規模が大きいほど実施率は高い。
労働時間をみてみると、2024年の年間総労働時間(2023年実績)は1937時間(所定労働時間1865時間、時間外労働時間181時間、年次有給休暇取得分108時間)となり、2023年と比較して約7時間増加している。ただ、長期的にみると年間総労働時間は減少傾向にあり、それは、時間外労働が減少を続けていることによる。
「40代もITエンジニア不足」とする企業は5年前から倍増
ここからは、年ごとのテーマに応じた特別設問について触れる。まずは、「人材の確保と育成」の現状だ。
年齢別のITエンジニアの過不足状況をみると、企業が最も足りないと考えているのは30代だった(88.7%)。ただし、20代と40代についても、6割の企業が不足としている。同様の設問は2017年、2019年でも設けていたが、「明らかに変化したのが『40代が不足している』企業が大幅に増えたこと」(青木氏)であり、2019年の約2倍に急増。ITエンジニア全体で人材不足が進行している状況は明らかだという。
人材確保のために企業が重視していることについては、「職場の風通し」という回答が最も多く、「スキル習得」が続いた。「賃金」や「休日・休暇」、「育児・介護などの両立支援」といった労働条件の改善以上に、職場でのコミュニケーションの改善を重視する企業が多い。
人材不足が経営に与える影響については、「新技術の導入などの企業成長の機会損失」という回答が最多。以下、「ストレスや過労の増加」、「人材育成に投入できる人材・時間の減少」、「品質低下のリスク」が続いた。「人材不足が、企業の成長のみならず『企業の存続』にも影響を与えかねないものだと感じている企業が多い」と青木氏。
