「これなら私にも作れるかも」 ノーコードで下がった敷居はAIでさらに下がる
AIによるkintoneアプリ作成にびっくり なにより取材に同席した営業がデモに感動
2025年04月17日 09時00分更新
4月15日から利用可能になった「kintone AIラボ」では、kintoneで利用できるAI機能を提供する。第一弾として提供されたのは昨年のCybozu Days 2024で発表されたkintone AIアシスタントと言われる「検索AI」とAIとの対話でアプリを作れる「アプリ作成AI」。特に後者はインパクトも大きい。kintone AIの最新動向についてサイボウズの山田明日香氏に聞いた。
ざっくりした要望を伝えればkintoneアプリができてしまう
まずは4月15日に公開されたkintoneの「kintone AIラボ」を見ていこう。前提としてkintone AIは初期状態では有効になっていない。メニューの「kintone AI管理」から「kintone AIを有効にする」のチェックをオンにし、さらにkintone AIラボで利用する機能をオンにする。4月現在、提供されているのは「検索AI」「アプリ作成AI」の2つだが、まずはインパクトの大きいアプリ作成AIのイメージを紹介しよう。
通常、kintoneではドラッグ&ドロップで入力するフィールドを配置しながらフォームを作成していく。しかし、アプリ作成AIを使えば、ユーザーが作りたいアプリのイメージをAIに伝えれば、対話型でフォームを作成できてしまう。
「どんなアプリを作りたいですか?」という質問に対して、ユーザーが伝えるアプリのイメージは、ざっくりしたものでかまわない。「顧客管理アプリを作りたい」と入力すると、AIからは案件管理の大まかな流れやどのようなフィールドが必要かを聞いてくる。「『会社名』『電話番号』『案件のステータス』などと回答してもよいのですが、面倒であれば、『一般的な項目を作って』とお願いすればOKです」(山田氏)。
こうすると、項目ごとに文字列やドロップダウンメニューなど最適なフィールドが並んだ仕様ができ、それを元にアプリが自動生成される。案件ステータスもいい感じに作ってくれるし、「都道府県も管理したい」とリクエストを出せば、都道府県のドロップダウンメニューを生成してくれる。作成したフォームに対する改善提案も出てくる。
もう1つの検索AIは昨年のCybozu Daysで発表された「kintone AIアシスタント」になる。アプリ内にあるレコードデータを検索し、AIが回答を生成してくれる。昨年からのβ版でのフィードバックを受け、アクセス権を設定できるようになったほか、添付ファイルも検索対象となり、着実に進化している。
利用シーンとしては、「活動記録アプリ」や「案件管理アプリ」から類似案件や商談の対応を調べたり、「問い合わせ対応アプリ」や「FAQアプリ」から質問を検索するのが一般的。検索AIは複数のアプリにまたがって検索できるのが特徴。また、キーワードが該当しなくても、AIが質問の意図を読み取り、類義語を調べてくれる。
後者の検索AIは生成AIの一般的な機能と言えるが、新たに追加された「アプリ作成AI」はかなりインパクトも大きい。私もデモを見て驚いたが、なにより取材に同席した営業担当が感動していた。「これなら私にも作れるかも」。これが今回のkintone AIラボのインパクトをわかりやすく表す出来事だと思う。「AIと対話しながらアイデアやヒントを得て、アプリ作成するの楽しいなと思ってもらいたいです」と山田氏は語る。
業務データベース、ノーコードツールとしての強みがAIで活きる
そもそも、kintoneになぜ生成AIを取り入れようとしたのか? これにはRAGの台頭が背景として大きい。「世の中にあるデータではなく、社内のデータを取り込んで活用するRAGの仕組みを考えると、社内データが溜まっているkintoneと相性がよいはずです」と山田氏は指摘する。現場の業務データの宝庫であるkintoneに生成AIを取り込むことで、データをより活用しやすくなるという見方だ。
もう1つはkintoneのノーコードツールとしての強みが、生成AIでも活かせるからだという。「自然言語で指示を出せる生成AIは、誰でも使えるという簡単さがあります。これはノーコードツールのkintoneが長らく追求してきた価値。生成AIとkintoneの親和性は高いと感じました」と山田氏は語る。
昨年のCybozu Daysで発表されたkintone AIアシスタントは、RAGとkintoneの全文検索を組み合わせた機能。チャットで質問を投げかけると、kintoneに蓄積されているデータから、生成AIが回答を生成してくれる。「β版で好評なのは、FAQを溜めているアプリからの回答生成。知りたい情報に対してたどり着きやすいというフィードバックをいただいています」(山田氏)。
この精度の高さは、生成AIは回答を生成するだけではなく、質問のテキストを分解し、類似のキーワードも検索しているからだという。「たとえば『出張申請のやり方を知りたい』だと、AIが『出張申請』の類似語も作り、それらも検索対象にします」とのことだ。
kintoneにAIをどのように取り組むか 試行錯誤の3年間を振り返る
サイボウズ社内でAIの活用が本格的に議論されるようになったのは、2022年10月にOpenAIがChatGPTを発表したのがきっかけ。とはいえ、2023年は技術のウォッチと検証に徹し、パートナーの動向を見極める感じだった。
kintoneに関しては、Samrt at AIをいち早く投入したM-SOLUTIONSを筆頭に、サイボウズよりも早くパートナーの方が生成AIへの取り組みを先行させている。「サイボウズからすると、生成AIをいち早くチャレンジしてくれているパートナーの存在は頼もしい限り。得意領域でいち早く進めてくれたのは、ありがたいです」と山田氏は語る。
しかし、2024年からは、サイボウズとして本格的に生成AIに舵を切ることにした。「販売パートナーからは『生成AI、いつやるんですか?』と言われていましたし、AIに取り組んでいたパートナーからも『サイボウズさんもトライした方がいいですよ』というアドバイスされていました」とのことで、山田氏がAIのプロダクトマネージャーに就任。半年かけて、Cybozu Daysでの発表内容になるkintone AIのβ版を練ったという。
kintoneでAIをどう取り入れるのか。そのポイントとなるのは汎用性だ。「2023年に発表した『サイボウズNEXT』という次世代のビジョンでは、全社共通の情報共有・業務プラットフォームを目指しているので、サイボウズとして追加すべきAI機能は、いろいろな業務で利用できる汎用的な機能にすべきだと考えた」ということで、最初に発表されたのがkintone AIアシスタントになる。
ただ、始めてみて感じたのは、AIの進化スピードが異常に速いという点だ。「数ヶ月、数週間単位で劇的な進化が起こってしまう。しかも感覚的にはこのスピードがさらに速まっています。これは今までにはないテクノロジーだなと」(山田氏)。腰を据えて技術を調査・研究し、ロードマップを引いても、すぐに次の技術が台頭してしまう。そのため、AIに関してはラボ的にβ版で機能を提供し、ユーザーのニーズやフィードバックを得ながら、実装にこぎ着けていくというサイクルでサービスを提供していくという。
とはいえ、あらゆる分野に手を伸ばすと、中途半端なものしかできない。そのため、現在では「データの活用」と「ノーコードのようなアプリ開発」という2つのテーマを設けた。「β版のサービスをブラッシュアップしていくだけでなく、2つのテーマにそぐう機能の追加をたくさんやっていきます」と山田氏は語る。今回発表された検索AI、アプリ作成AIのほかにもすでに手を付け始めているとのことで、今後の展開も楽しみだ。
