エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第26回

この“巨大な網“はいったい何? ニューヨーク・タイムズ誌も認める「瀬戸内国際芸術祭」に登場した《そらあみ》に迫る

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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4月15日に、高松港の”のれん”とも言える作品、五十嵐靖晃氏の《そらあみ》の合体式が行われた。後方の2本の柱は、2010年の第1回に制作された大巻伸嗣氏《Liminal Air-core-》

 海外での人気も高く、2022年の前回は70万人を超えるファンが集まった超人気の「瀬戸内国際芸術祭2025」春会期が2025年4月18日、開幕する(〜5月25日。夏会期、秋会期がある)。

 同芸術祭は、瀬戸内海の島々と沿岸部を舞台に、3年に1度開催される現代アートの祭典。2025年で6回目の開催となり、「海の復権」をテーマに、瀬戸内の自然・文化・歴史を活かしたアート作品やプロジェクトが展開される。

 筆者は、2010年に開催された第1回から参加し、6回のうち4回に参加している。海と島が舞台という、他とは比べられないこの芸術祭の大ファンで、今回も4月15日と4月16日に開催されたプレスプレビューに駆けつけた。

 今回は過去最多の作家が参加し、大阪・関西万博との相乗効果も期待される。何回かに分けて、面白さを伝えたい。

 まずは、それぞれの島への玄関口、芸術祭のマザーポートである高松港に集合。4月15日には、五十嵐靖晃氏の「高松港プロジェクト」である、252人が参加した巨大な網《そらあみ》の合体式が行われた。

瀬戸内国際芸術祭2025のメインビジュアル

高松港で公式ガイドブックを持った筆者

 瀬戸内国際芸術祭2025は、およそ100日間の会期があり、春・夏・秋の3シーズンに分かれていて、季節ごとに瀬戸内の魅力を体感できる。

 来訪者はアートを道しるべに島々を巡りながら、アーティストや地域住民、ボランティアサポーターと交流し、瀬戸内の持つ美しい景観や自然、島・会場の歴史、文化、生活、産業、食の魅力に出会うというスタイルが、多くの人の共感を呼んでいる。

 また、世界の著名誌に取りあげられるなど、瀬戸内国際芸術祭は世界のツーリズムからも注目を集めている。ニューヨーク・タイムス誌が2019年に発表した「行くべき52の場所」に「瀬戸内の島々」が日本で唯一、第7位にランクインした。今回は37の国と地域からアーティストが参加し、ニュージーランドとスウェーデンが正式に加わった。

 コロナ後初、6回目の開催となる瀬戸内国際芸術祭2025では、より多面的に瀬戸内の魅力を伝え地域の活力につなげるため、香川県側の沿岸部(志度・津田エリア、引田エリア、宇多津エリア)が新たに加わり、全17エリアで展開していく。

●会期(計107日間):
春会期:2025年4月18日~5月25日(38日間)
夏会期:2025年8月1日~8月31日(31日間)
秋会期:2025年10月3日~11月9日(38日間)

●会場(全17エリア):
全期間:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺、宇野港周辺
春会期:瀬戸大橋エリア(坂出市:沙弥島、王越町、瀬居島)
夏会期:志度・津田エリア(さぬき市)、引田エリア(東かがわ市)
秋会期:本島、高見島、粟島、伊吹島、宇多津エリア
新規エリア:志度・津田、引田、宇多津。直島では「直島新美術館」(2025年5月31日開館予定)も会場に。

●参加アーティスト:
216組(37の国と地域、初参加86組)

●作品数:
254作品(新作109、新展開18)、20イベント(新作18)

●テーマ:
瀬戸内の島々に活力を取り戻し、「希望の海」を目指す。地元住民やボランティアとの交流を促進し、アジアの文化芸術の中核を目指す

●新プロジェクト:
瀬戸大橋エリアの「瀬居島プロジェクト SAY YES」(16名のアーティスト参加、廃校活用)、志度・津田エリアの「時の納屋」カフェ、引田エリアの地質学クルーズ、宇多津エリアの四国水族館イベント、8美術館による「瀬戸芸美術館連携プロジェクト」

春会期のビジュアル

4つの島の漁師や地元住民の想いが
32m×4mの巨大な漁網《そらあみ》になった

 五十嵐靖晃氏の「高松港プロジェクト」は、漁網を空にかける《そらあみ》で高松港を彩る。島に向かう人々を送り出し、帰り道の目印として、人と人、海と島の記憶をつなぐ。

 2013年・2016年・2019年に沙弥島を始めとする与島5島や香川県西部の島々で、網を編みあげる大規模な作品制作を行ってきた五十嵐氏を中心に、今回は東部の島々(豊島・女木島・男木島・小豆島)と新会場の東かがわ市・さぬき市において、地元漁師や、地域の人たち、ボランティアのこえび隊とともに6つの網を作り上げる。

 4月15日には、東部の島々(豊島・女木島・男木島・小豆島)の《そらあみ》の合体式が行われた。252人が参加した網づくりによって、横32m、縦4mの巨大な網が完成した。夏会期には、新会場の東かがわ市・さぬき市の網が加わる。

 合体式で、五十嵐氏に《そらあみ》の想いを聞いた。

 「なんかね、瀬戸内海の海の色って、ほんとパッと思い浮かぶんですよ。青だったり、グレーだったり、いろんな瞬間の海があって。時間とか日の当たり方で全然見え方が変わるでしょ? それが面白いなって。《そらあみ》を見た人が、『あ、昨日の海の色ってこれだったな』って思い出してくれるような、そんな作品にしたいんですよね。瀬戸内の海って、毎日違う表情を見せるから、その一瞬一瞬を網に閉じ込めたいっていうか」

 漁網を使う理由については、

 「網って、漁師さんたちの手で編まれてるもんじゃないですか。同じ目板を使って、サイズは合うようにしてるんですけど、やっぱり人の手だから、結びの強さとか弱さがちょっとずつ違って、網の目が大きくなったり小さくなったりするんですよ。それがいいなって」

 「漁師さんって、自分の網を手で直すとき、なんか『これが気持ちいいサイズ感』みたいな感覚があるみたいで。僕もワークショップで一緒に編むと、その感覚に引っ張られるんですよね。網って、ただの道具じゃなくて、漁師さんの暮らしや手の記憶そのものだなって思うんです」

 参加している人たちについては、

 「高松港でやってるプロジェクトだと、豊島とか小豆島、女木島、男木島、あと東かがわやさぬきの人たちと一緒に網を編んでるんですけど、ほんといろいろな人が来てくれるんですよ」

 「前にね、90歳くらいのおばあちゃんと、船に60年くらい乗ってたおじいちゃんが毎日来てくれて。そしたら、なんかその2人をきっかけに、子供たちが増えてきてね。親戚の集まりみたいになって。島の子供たちって、おじいちゃん、おばあちゃんの家を気軽に訪ねて、お菓子をもらったりするんですよ。『毎日がハロウィンだ』なんて笑いながら話してたけど、そういう島の温かさが網を編む時間に滲み出てくるんです」

 この日も、それぞれの島から多くの人が訪れ、一緒に最後の合体をしていたが、五十嵐氏と漁師の人やボランティアの人たちの交流の温かさが伝わってきた。

●五十嵐靖晃プロフィール

 1978年、千葉県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。人々との協働を通じて、その土地の暮らしと自然とを美しく接続させ、景色をつくり変えるような表現活動を各地で展開。アートとは「自然と人間の関わりの術」であると考える。2005年にヨットで日本からミクロネシアまで約4000kmを航海した経験から“海からの視座”を活動の根底とする。

《そらあみ》

五十嵐靖晃氏

基本は漁網と同じ編み方。素材も同じで、一部は瀬戸内海の海の色をイメージして染めている

■公式ガイドブック

定価紙:1650円(税込)、電子:1320円(税込)

仕様寸法 縦21×横14.8cm×厚さ1.5cm(A5)

頁数 268ページ(カラー)

芸術祭公式サイトの説明 https://setouchi-artfest.jp/buy/guidebook

■瀬戸内国際芸術祭2025公式サイト

https://setouchi-artfest.jp/

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