言葉を“みえる化”するデジタル技術を通じて、つながる体験ができる「みるカフェ」。東京都が、デフ(耳がきこえない)アスリートの国際大会である「デフリンピック」への関心を高めるべく、2023年11月に原宿でオープンし、12日間で約4500人が来場するなど好評を博した。
デフリンピックの東京開催が2025年11月に迫る中、きこえる、きこえない大学生からなる「みるカフェ実行委員」が主体となり、期間限定で復活。昭和女子大学内「CAFE3」にて、2025年2月6日から14日までオープンする。
「最新技術によって、ろう者(音声言語獲得前に聴覚を失った人)のコミュニケーションの選択肢が増え、自身でツールを選べる時代になった。今では、ろう者だけではなく、訪日外国人ともコミュニケーションできる」と語るのは、デフアスリートの山田真樹選手だ。本記事では、オープン前日に開催されたセレモニー・内覧会の様子を紹介する。
分け隔てなく“つながる”最新技術が集った「みるカフェ」
再オープンしたみるカフェでは、音声を文字に変えて“みえる”化する技術を体験しながら、きこえない・きこえにくい大学生を含むみる実行委員会のメンバーと交流することができる。
例えば、注文時の会話は、スタッフとの間に設置された透明なディスプレイに文字となって表示される。きこえない・きこえにくいスタッフとも、表情をみながらコミュニケーションができ、声を出すことが難しい人もキーボード入力で意思を伝えることが可能だ。
これには、TOPPANの音声翻訳表示ディスプレイである「VoiceBiz UCDisplay」が用いられており、リアルタイムで翻訳もされるため言語も超えたコミュニケーションも可能だ。カフェ内には、京セラドキュメントソリューションズジャパンやピクシーダストテクノロジーズ、コニカミノルタの透明ディスプレイも設置される。
その他にも、みるカフェ内では、誰もが分け隔てなく“つながる”ための技術が集まっている。
電気通信大学とソフトバンクが開発する「SureTalk」は、手話ユーザーと音声ユーザーのコミュニケーションを円滑にするソフトウェアだ。カメラに手話動作や音声を発すると、日本語のテキストに自動変換。手話の動きを骨格で認識して、AIがデータベース上の手話データと紐づける仕組みであり、現在、自治体や医療機関とも連携しながら、手話データの収集を進めているところだ。
富士通の開発する「エキマトペ」は、電車の接近音など、駅内にあふれる音を擬音(オノマトペ)で表示してくれる装置であり、アナウンスを手話(日本手話・国際手話双方に対応)でも案内してくれる。デフリンピックに合わせて、2025年2月17日から、JR上野駅 1・2番線に設置される予定だ。
筑波技術大学の「ISeee TimeLine」は、イベントやスポーツ観戦などに集った人達が、みたもの、きいたもの、感動したことなどをタイムライン(TL)上で共有できるツール。リアルタイム性を重視して設計され、投稿内容は音声や多言語に変換できる。会場アナウンスなどが投稿されることで、きこえない人、みえない人でも、状況が把握でき、よりイベントを楽しめる。
その他にも、音を聴覚以外で体験するデバイスも展示される。ピクシーダストテクノロジーズの「SOUND HUG」は抱きかかえることで、音楽を視覚と振動で感じられる球体型デバイス。音の大きさやリズムを振動、音の高さは光の色として楽しめる。Hapbeatの「Hapbeat」は、競技音や観客の歓声などの音を振動に変換して、音の方向、強弱、リズムなどで直接体で感じとることができる。
こうした誰もがつながる技術が集ったみるカフェ。大学生と東京都の狙いは、その体験を通して誰もが分け隔てなく暮らせる共生社会への理解を促すことだ。
みるカフェやデフリンピックをインクルーシブな社会のきっかけに
今回のみるカフェは、2024年4月に発足した昭和女子大学の「国際手話普及促進プロジェクト」の大学生と、きこえない・きこえにくい大学生からなる実行委員会が、東京都とともに始めたものだ。
実行委員会の大学生が企画を主導して、運営や接客、展示物などを検討。企画段階では、きこえる、きこえない従業員が共に働き、コミュニケーション手段として手話を使用している、スターバックスコーヒー「nonowa国立店」を視察したという。
実行委員である名倉さんは、「みるカフェプロジェクトは、さまざまな人が共存できる社会を目指すことを背景に、国際手話やデフスポーツ、ろう文化を学び、広めることを目的にしている」と説明。また、2023年のみるカフェにもスタッフとして参加した石村さんは、「印象に残っているのが、手話で表現してくれたお客さんが何人もいたこと。UC(ユニファイド・コミュニケーション)機材の普及によってコミュニケーションの幅が広がり、聴覚障がいによるハンデがなくなり、“諦める”ことが気にならなくなる社会がやってくるのでは」と語った。
また、みるカフェは、デフリンピックに合わせて東京都が推進する、すべての人が共生する“インクルーシブな社会”を体験してもらう場でもある。東京都生活文化スポーツ局長である古屋留美氏は、「きこえる人、きこえない人が交流できるデフリンピックを機に、誰もが楽しめる、誰もが心安く暮らせる、そんな東京都をつくっていきたい」と強調する。
みるカフェで設置された音声を多言語で表示する透明ディスプレイは、都庁舎をはじめとする全38施設にも設置されているほか、都立の劇場では、みえない観客に役者と直接会ってもらったり、きこえない観客でも音楽が楽しめる機器を設置するといった取り組みを展開しているという。
デフリンピック応援アンバサダーの長濱ねるさんは、「これまで、きこえる人、きこえない人のコミュニケーション手段としては筆記や手話があったが、デジタル技術によってより円滑につながることができる。今回のデフリンピックで海外から訪問される人とも、スムーズにコミュニケーションできるのではないか」と期待を語った。
同じくアンバサダーの川俣郁美さんは、「100年の歴史を持つデフリンピックが日本で開催されるのは初めてで、皆さんも行きやすい東京で開催される。選手が音に頼ることなく、勝負に向かう姿は本当にかっこいい。コミュニケーションや戦略もろう者ならではで、魅力がたくさん詰まっている。ぜひ現地に足を運んで、選手が輝く姿をみて欲しい」と呼び掛けた。
